太鼓のおもひで……そして九月場所!

秀男
本名・山木秀人(やまき・ひでひと)、元立呼出。1949年生まれ。1969年伊勢ヶ濱部屋に入門、同年三月場所で初土俵。桐山部屋を経て、定年時は朝日山部屋所属。2008年一月場所より呼出のトップである立呼出を務め、2014年十一月場所にて、惜しまれつつ定年退職。見事な呼び上げの美声で相撲ファンから愛され、「土俵の妖精」のニックネームも。

-いよいよ明後日(2017年9月10日)から九月場所が始まります。そして、明日は触れ太鼓*1ですね。秀男さんも触れ太鼓はまわられてたんですか?

うん。まわってたよ。

―太鼓をマスターするのは大変でした?

俺が入ったころは集まって稽古とかはしてなかったなぁ。入って3~4年はやってなかったから、20歳すぎてからだよ、太鼓を覚えたのは。
楽譜がないから、耳だけで覚えるんだけど、けっこうあれは難しいよ。左手はこう逆手のようにして叩くんだからおもしろいよね。
触れ太鼓は、5月だとわりと雨が降るんだよ。今年も降ったでしょ。9月も台風くるから心配だねぇ。雨が降ったらビニールまいてさ、もう大変。
あちこちまわるんだけど、両国界隈が一番大変じゃないかな…。だって、全部歩きだから(笑)。遠いとこだと、車で行っちゃうけど、両国はほんとに一日中歩いてるもんね。

―本場所中は寄せ太鼓*2も叩いていらっしゃったんですよね。

もちろん。国技館は櫓にエレベーターがついてるからいいんだけど、一番怖いのは名古屋だね。見た目は国技館ほどじゃないんだけど、これがけっこう高さがあるんだよ。大阪はバルコニーのところにあるから、大した高さじゃないし、福岡も大阪ほど低くはないけど、そんなに怖くない。でも名古屋は造りが昔ながらだから本当に怖い。揺れるしね。昔ながらの形だから、上のほうは足場がちょっと反ってるんだよ。今は上までハシゴがついてるみたいだけど、俺が叩いてたころは、ハシゴは最初の7~8段くらいまでで、そこからは櫓自体を上っていくの。で、反ってるでしょ。これは上るのも降りるのも怖かったね。

―さて、いよいよ九月場所ですが、秀男さんの注目ポイントを教えてください。

やっぱり横綱かな。白鵬は七月場所は調子よかったけど、万全ではないよね。日馬富士だって、七月よく出たよ。もう体ボロボロじゃないかな。それで、心配なのが、鶴竜と稀勢の里。稀勢の里は五月場所にきっちり休んだ方がよかったね。でも本人が出るって言ったんだろうからしょうがないよ*3

―遠藤関は手術されましたね。

したの!? でも出るんだろうね。本人が出るって言えばしょうがないけど、親方も休ませればいいのにね。それはそうと、遠藤は上がってくるのが早かったね。顔がいいよ。珍しいんじゃない。相撲取りにしとくのはもったいないよ。

―若手はどうですか?

御嶽海はおもしろいよね。どっちかっていうと突き押し相撲でしょ。でも、どうなんだろうね。もうひとつ上がるには、まだもうちょっと時間がかかると思うんだけど。上が弱くなってきてるからね。わかんない。

―阿武咲関はどうですか?

いいね。

―北勝富士関はどうですか?

十両のころはそんなにいいと思わなかったけど、すごいね。

―貴景勝関はどうですか?

足が短いのがいいね。

―新十両の矢後関はどうですか?

これはまたやっかいなしこ名だね~。でも名前変えるでしょ。

―しばらくは変えないらしいですよ。

えー。矢後ってね~。へへへ…(笑)。矢後かよ~……。

*1触れ太鼓…テレビやラジオがなかった江戸時代、呼出が太鼓を叩きながら相撲の初日を触れ回って宣伝したのが始まり。現在も毎場所の初日前日に行われ、相撲部屋やご贔屓筋をまわる。
*2寄せ太鼓…その日の取組の開始を告げる太鼓。本場所会場入り口の櫓の上で呼出が叩く。触れ太鼓と同じ節回しで、開場となる8時から30分ほど。巡業では櫓はないので、入口付近にゴザを敷いて叩いている。

*3鶴竜関、稀勢の里関はいずれも九月場所休場となりました。

 

 

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『呼出秀男の相撲ばなし』
(現代書館)

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