春のおすもう文化講座~相撲字を書こう!~3時間目

30代木村庄之助(2代目容堂)こと鵜池保介さんの「相撲字を書こう!」第3弾は、相撲字上級編。四股名を書くポイントや、番付書きの裏話をお伺いしました。鵜池さんご本人による解説動画付きです!

―基本の5文字を習得したら、次はどういった稽古に進むのでしょうか?
番付のまん中に書く「蒙御免」(ごめんこうむる)*を書きます。3文字ですが、画数がそれぞれ違いますから、スペース配分を等分ではなく、「蒙」が4、「御」「免」をそれぞれ3の割合にするとバランスがいいです。画数が多いですから、横棒は細めにしないと真っ黒になってしまいます。でも、その分縦をしっかり太く書くことで、相撲字らしい太い字になるんです。この「蒙御免」が書けるようになると、ようやく四股名に進めます。

*蒙御免:その昔、相撲は神社や寺などの勧進相撲として行われることが多く、その際、寺社奉行に届け出が必要だった。「蒙御免」とはその届出をちゃんとしてますよ、という印の文言。それが現在も残っている。

―書きやすい四股名、書きにくい四股名というのはあるのでしょうか?
字数が少ない字は書きにくいので、とくに「一」は嫌でしたね。番付を書くときも、一はスペースのバランスもとりづらくて書きにくいんです。番付書きでいうと、4文字や5文字の四股名は書きやすいんですが、字数が少ないと、文字の間が空いてしまってぶさいくになってしまう。あと、嫌だったのはカタカナですね。四股名には「ノ」くらいですが、外国人力士の場合は出身地がカタカナになるでしょ。私の時代は少なかったのですが、今はけっこういますからね。

―番付書きで思い出に残っている四股名ってありますか?
当時の横綱の「千代の山」ですね。「千代」っていうのは書きにくいんです。千代のバランスが難しくて、1人でブツブツ言いながら悩んでいたんです。そしたら兄弟子の庄二郎さんが「にんべんがあれじゃないか?」「縦の棒を考えてみな」ってヒントをくれたんです。それでピンときて、「千」の縦棒と、「代」のにんべんのバランスがポイントなんだってわかったんです。そこで、「千」の縦棒をセンターではなく、ちょっと左寄りにしたら、にんべんが楽に書けるようになりました。「代」のへんとつくりの間にちょうど「千」の縦棒がきているでしょ。それには「千」の縦が左寄りだとバランスがいいんです。

―せっかくなので、現役の力士の四股名も何かお願いします!
では、私がいた出羽海部屋の関取で御嶽海関を。

  

―(下書きや練習などはなしで一発でスラスラと書かれるのを見て)初めて書かれたんですよね?
はい。初めて書きましたね。

―さすがです! 番付も、線は引かれますが下書きなどはしないですよね?
しませんね。

―間違ったりすることはないんですか?
ありますよ。書き終わって読み合わせしたら、だいたい5~6カ所は間違ってますよ。

―書き直しですか?!
まさか。そこを削って消すんです。

―紙を削るんですか?
けっこう厚みのあるケント紙を使っているので、削っても大丈夫なんですよ。私は片刃のカミソリで削ってました。削ったらデコボコになってしまうから、タバコのパッケージのセロファンを当てて、えんぴつのキャップの裏でこするんです。そうするときれいに平らになりますよ。

―それも兄弟子から伝授されたんですか?
いや、これは私が自分で。

―へぇ~。みなさん自分独自の方法があったりするんですか?
いや、みんな同じようにやってるんじゃないですか?

―じゃぁ、鵜池式が引き継がれてるんですね。
でもまぁ、これが一番いいんです。あのタバコのセロファンがいいんですよ。私は途中でタバコやめちゃったから、吸ってる人がいたらもらって、ふだんからストックしてましたよ(笑)。

―ほかに、番付裏ワザがあったりするんでしょうか?
裏ワザというか……。

さて、ここでクイズ! 相撲字では番付の細長いスペースに文字を収めるために、本来の字とは変えて書かれることがありました。次の字は何という字を変えたものでしょうか?

     ①                  
                  

     ②

正解は・・・・・

   ①                   

―やはりスペースに収めるための策なのでしょうか?
そうです。でもね、一度、力士のお母さんから「息子の字が間違ってる!」って電話がかかってきたことがありました。「政」という字だったんです。こうやってバラすのは、相撲字では昔からやっていたことなんですが、これを機にバラさずに書くようにしました。今はあまりバラしたり略したりはしないようですね。

ちなみに、相撲の俗語で序ノ口の力士を「虫眼鏡」といいます。これは、番付が下になるほどその字も小さくなるため、序ノ口力士の四股名は虫眼鏡でないと見えない、ということからきた表現。それを書いている行司さんってすごい!

さて、次回「相撲字を書こう!」最終回では、相撲字の応用編と、おまけ企画として30代庄之助こと鵜池さんの行司エピソードをお届けします。お楽しみに!

三十代木村庄之助こと
鵜池保介さん
(ういけ・やすすけ)
昭和13年生まれ、佐賀県出身。
昭和33年3月、17歳で22代木村庄之助に弟子入り。木村保之介(やすのすけ)として初土俵、昭和41年に十両格昇進を機に3代目木村林之介(りんのすけ)を襲名、昭和50年に幕内格に昇進し、平成2年に2代目木村容堂を襲名。平成7年には三役格となり、平成13年一月場所で立行司に昇格し31代式守伊之助を襲名。同年十一月場所より30代木村庄之助を襲名し、平成15年一月場所で定年退職。現役中は出羽海部屋に所属。

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