『相撲ファン』~安田洋明編集長~

ここ数年の相撲ブームにも一役買っている新感覚相撲雑誌「相撲ファン」。2015年1月に発売
されたvol.1で使われた“スージョ”なる言葉もすっかり定着しましたよね。今回は、五月場所
に合わせて発売される最新号(vol.7)の取材が終わったばかりという安田編集長に、「相撲フ
ァン」の誕生からそのこだわり、安田さんの個人的相撲愛までを伺いました!

安田洋明 やすだ・ひろあき
大空出版が発行する相撲雑誌「相撲ファン」の編集長。同社の人気シリーズ「歴史 ポケットスポーツ新聞」の『相撲』などの編集も担当。子どもの頃からのマニアックな相撲ファン。

オシャレなデザインで
マニアックな記事を読む!

-「相撲ファン」は、女性ファンや相撲初心者でも手に取りやすいという点で、今までの専門誌とは全く違うタイプの相撲雑誌ですが、どのような経緯で創刊にいたったのでしょうか?
この雑誌の監修をしていただいている相撲ジャーナリストの荒井太郎さんとは以前からご縁があって、ちょうど創刊の半年ちょっと前くらい、2014年の5月頃……だったかな、お話をする機会があったんです。そのときに、今相撲人気が急上昇しているということで、何かできるんじゃないかという話になりました。
そこで、国技館に行ってみたり、いろんな人に話を聞いてみたところ、キーワードとしてでてきたのは、女性ファンが非常に増えているということだったんです。

-そこが、デザイン性にこだわった理由でしょうか。
はい。当時出ていた相撲専門誌といえば、月刊「相撲」と「大相撲ジャーナル」の2誌があったわけです。そこへ新規で参入するには同じことをやっても意味がないので、何をウリにするかということで、女性を中心としてライトなファンでも手に取りやすいデザイン性をしっかりと軸にすえようということがありました。

-以前の若貴ブームのときも女性ファンが急増しましたが、今回の女性ファンに傾向のような
ものってあったのでしょうか?
若貴ブームのときは、今に比べるとミーハーな感じが強かったと聞いています。でも今回は、誰々のファンっていうのじゃなく、相撲という文化に対して興味をもって、それを深く知ろうとしている人達だなという印象を受けたので、記事は決してライトな感じではなく、硬派というか、マニアな人が読んでもおもしろいと思ってもらえるようなものでなければいけないと。だから、割と堅いというかちゃんと深い話になっているけど、デザイン的には誰でも読めるものになっています。

-対極にある2つに思えますが、うまくまとまっているのが「相撲ファン」の魅力ですね!
大空出版という会社では、今までにいろいろな雑誌や本を他のジャンルで作ってきたなかで、デザイン性とマニアックな記事は、両立しうる、相反するものでないと思っています。そこを我々はコンセプトとして、読みやすい軽快なデザインで、内容はどんな層でも楽しめるものをしっかりと作ろうと、そんな経緯で誕生したんです。

-「相撲ファン」の大きな魅力として写真がステキというのもありますが、スポーツカメラマ
ンではなく、一般の雑誌を撮ってるカメラマンが撮っていらっしゃるんですか?
いえ、相撲を撮り続けてきたスポーツカメラマンの方から、他ジャンルのカメラマンさんまで、さまざまですよ。最初は試行錯誤もありましたけど、今は「相撲ファン」のテイストも確立できてきたので、そこはプロとして、読者がどんな写真を求めているか、理解してもらっていると思います。あとは、各カメラマンの方々の“強み”を発揮していただき、我々がセレクトとデザインで工夫する感じですね。写真って、どこにどう配置するか、何と一緒に並べるか、によって見る側の感じ方って、相当変わりますからね。

-テーマはどうやって決まるんでしょうか?
vol.4あたりまでは、当初からやりたいなってことが決まってたんですが、vol.5くらいから、関わっているスタッフもそうなんですが、何号かやってると、どんどん興味がわいてきて、やりたいテーマがストックされてきて……。年に2号しかないですから、自然と溜まってくるんで、そこから絞り込むという感じですね。多分、結構マニアックだと思いますよ。やってることは。

-vol.6の相関図とかすごいですね。(関取の出身校や角界入り前の交流などを時系列で網羅!
すごいでしょ。便利なんです。僕らも(笑)。

これもそうなんですが、創刊号から書いていただいている能町みね子さんに、「相撲ファン」って見た目に反して内容はマニアックですよね、って言ってもらったことがあって。うれしかったですね。デザインで敷居を下げてるけど、やってること自体はマニアックなんです。

-確かに。相撲を知ってる人が読んでも、へぇ~って思うことがいっぱいありますもんね。
こういう手間暇かかる企画って、月刊の専門誌ではなかなか難しいんだと思うんです。それに既存の専門誌の第一義は報道だと思うので、そこが中心。そこでなかなかできないことをこっちでやりたいと思ってます。

“独り紙相撲”に燃えた
安田編集長の幼少時代

-先ほどの相関図もそうですが、誌面からは作っている人の相撲愛が伝わってきますね。
これは相撲に限らず、ほかのジャンルの仕事でもなんですが、当然、誌面は読者のために作るものですが、例えば、ライターさん、カメラマンさん、デザイナーさん、取材させてもらった人、関わった人達全員がその仕事を楽しんでやれるようなものを作りたいですね。その熱量っていうのは、絶対に何らかの形で読者に伝わるので。流して作ったものはわかっちゃうんですよね。この相関図とか、明らかに作るの大変じゃないですか(笑)。

-熱量バリバリですよ。そもそも、相撲はいつぐらいからお好きだったんですか?
基本的には物心ついたときから、見てました。なんでって理由はわからないです。やってたから見てた、という感じで、よくあるパターンですよね。

-ご贔屓力士はいましたか?
それこそ幼稚園のときから見てたんです。小さい頃、贔屓にしてたのが高見山です。そして、初めて買ったレコードは琴風(現:尾車親方)の「まわり道」です。

-あ! vol.6で尾車部屋の記事の見出しが「まわり道」っていうのは!
そうそうそう。わかる人だけがわかればいいなって。

-そこから取ったとは書いてないけど、これは絶対そうだって思ってました!
記事は記者さんが書いてるんですけど、タイトルやリードはこちらで書くこともあるので……。これ、実際に「まわり道」聞きながらリード書いてたんですよ。ただ、この歌ってラブストーリーなんで、あんまり言葉のチョイスの参考にはならなかったですけど(笑)。
あとは、子どもの頃、紙相撲もやってましたね。

-誌面でも紙相撲場所やられてましたね。
大人になってもう一回やるとは思ってませんでしたね。

-子どもの頃は友達と対決とかしてたんですか?
いや、一人で(笑)。僕が子どもの頃やってたのは、幕内力士を全部作るんです。で、15日間やるんです。方眼用紙の縦に名前書いて、3枚くらいになるんですけど、横に1日目2日目と表にして星をつける。1日20番から30番を一人でやるんです。

-全部一人で?
だって、結構時間かかるし、そんな長い時間、誰も一緒にやってくれないじゃないですか(笑)!

-でも一人だと力の入れ具合とかが、どうしてもご贔屓に力が入ったりしません?
するんですけど、これ、本当にけっこうな時間かかるんですよ。

-中入りもなしで?
そうそう。一番一番、取組が終わったら、星取表に○と●をつける。1日分やるだけでも30分はかかったんじゃないかな? 休みの日なんて、朝から始めてね。でも7日目8日目くらいまでしかやれないんですよ。

-なんで?
だって1日分で30分だとすると、中日までいっても4~5時間かかるわけです。さすがにそれぐらいやったら飽きますよね。で、次の日また続きをやる。最初のうちは作業ですから。作業以外のなにものでもないですから。1、2、3日目はただただ苦行なんですが、子どもながらに、9日目10日目と白星黒星が溜まってくると、だんだん面白くなってくるんですよ。勝ちっぱなしの力士とか出てくるし。じゃ、次は誰と誰を当ててって考えて。

-取組編成会議は自分でやるんですか?
はい。さすがに、最初は無作為に選ぶんですが、10日目くらいになると、ここはこうしようとか考えて組むんです。それで、15日間終わると、一人で番付編成会議をやるわけです。

-爆笑
これはこうだったから、何枚上げてとか、下げてとかを一人でやって、番付表作って、また次の場所を始めるという。これを多分、小学校入る前にやってたんです。一度、土俵と紙相撲の力士をもって、友だちん家に行ったことがあるんです。僕的には地方場所くらいの気持ちで行ったら、全く理解されずに、とぼとぼ帰ってきた記憶があって……。確か幼稚園のときだったんじゃないかなぁ……。

-ちなみに、その紙相撲で一番強かった力士は?
横綱は闘竜(笑)。

-実際とは違いますね~。(現実での最高位は西の関脇)
実際の番付通りにはならないです。だから、僕の紙相撲の番付の中だけで、どんどんでき上がっていくわけです。そののちは北尾が上がってきましたね。

マニアック相撲好き安田少年の苦悩

-相撲の本も読みふけったりしてたんですか?
相撲雑誌も読んでましたし、本も親に買ってもらってました。本はいっぱいあるんですけど、
高見山が好きだったんで、今日は『人生負けても勝っても―高見山大五郎物語―』(小学館)
っていう北出清五郎さんが書かれている本を持ってきました。小学校2年生のときに買ってもら
いました。

 

安田編集長の少年時代からの愛読書。かなり読み込まれてます。

-小2でこれを読むなんて。これ高学年向けくらいじゃないですか。小2ではないでしょ。
でも「相撲」とか「大相撲」とか、大人向けのをぜんぜん読んでましたからね。

-漢字とかよく読めましたね。
それ、あるあるですよ。相撲好きは漢字を相撲で覚えるんです。さらに僕は紙相撲やってるから、四股名とか自分で書くわけですよ。番付表は漢字じゃないと雰囲気でないから、平仮名とかに絶対したくないわけですよ!

-でも間違った覚え方してしまいません? 「湖」を「みずうみ」じゃなくて「うみ」って読んじゃうとか。
あー、そうですね。でも、子どもなのに「栃」の字が書けるってのはありましたよ。
あと、『古今名力士百傑』(高水武敏著 恒文社)みたいな力士名鑑ものは何冊か買ってもらってて。今は相撲レファレンスとか見ればいいんでしょうけど。この本でよかったのは、江戸時代の力士から載ってるんです。これ系の本って、だいたい昭和の力士をメインにしているのが多いんですが、これは谷風から始まってて。ガチの大人向けの本ですが、こういうのをずっと読んでるのが好きでしたね。
*一般の相撲ファンによる相撲データのウエブサイト

-なるほど。かなりマニアックなお子さんだったわけですね。
わりと、特殊なというか珍しい子どもだったと思います。でも、小学校3年生くらいなると、多少周りが見えてくるんですよ。僕は、どうやら浮いている……と。相撲好きでも、もう少しライトならいいんでしょうが……。

-ガチですからね。
ね。「谷風が……」とか、「琴風のレコードが……」とか言われてもみんなついてこれないんです。で、相撲の話だと食いついてこないけど、野球の話だと食いついてくるようだと。そのうち自分も野球をやるようになって、中学高校と野球やってました。

-では、お相撲の話は中学高校では封印されてたんですか?
それが、中学のときに若貴ブームがやってくるわけです。世の中みんな若貴なんです。で、たかだか4~5年前、僕が相撲の話をすると奇異な目で見られてたのが、急に友だちが相撲の話をすごいしてくるわけです。人気なかった頃は「なんで相撲なんか見てんの? 変わってるね」とか言われてたのが、「相撲って楽しいね」って急に言われたら、「はぁ?」って思いますよね(笑)。

-今のブームでも、にわかファンが叩かれたりしますよね。
「スージョ」って名前はウチの媒体発祥ですけど、それつけたときに、「スージョ」なんていったら、既存のファンからは反発をくらうことは多少わかってました。なぜなら僕がそういう経験をしているから。なんだけど、今どう思うかというと、とはいえ一緒に会話ができる人が増えるのは楽しいことだと思う。どんな形にせよ。「僕は千代の富士の現役時代見てます」とか、「私は北の湖見てる」とか、「いやいや大鵬の現役知らないでしょ」とか、そんな話は不毛だと思う。知ってる人には「当時どうだったんですか?」って聞けて、知ってる人も新しいファンが興味もってくれてるってのは、嫌な事ではないはずだと思うんです。

-なるほど。一緒に盛り上がったほうが楽しいってことですよね。
あと、もう一つ思うのが、相撲好きの女性って昔もいっぱいいたと思うんです。高校のときも、相撲が好きな女性の先生がいたのを覚えています。2代目の若乃花が好きだったって言ってました。

-そういえば高校生のとき、私の同級生(女子)が北勝海(現:八角理事長)の切り抜きを下敷きに挟んで「可愛い!!!」ってスリスリしてました。
そうそう。だからその当時からおすもうさんが可愛い、カッコイイって発想は女性の中にあったはずなんです。ただ、最近はツイッターとかインスタとかSNSとかで発信できるようになってきたから、けっこう可視化されてきただけで、昔から結構いたと思いますよ。

「相撲ファン」最新号は“大相撲のみかた”

-最新号のテーマや見どころを教えてください。
次号のテーマは「大相撲のみかた」。こういう時期だからこそ、改めて相撲の醍醐味、魅力を初心に戻って特集していこうというものです。相撲の見方って色々あると思うんです。当たり前かもしれないけど、生観戦が好きだって人もいれば、相撲場、国技館に行くのが好きな人、力士にフォーカスしてご贔屓力士がいたり、男性なら技術や技のカッコよさに注目してる人、データとかが好きでそれ中心に観てる人とか、あとは、テレビで相撲の見方とか、いろいろあるなかで、それぞれの見方を著名人にもインタビューしながらおすすめの見方を紹介してもらうという感じです。それと、力士インタビューは嘉風関と竜電関です。

楽しみに拝見いたします! 本日はありがとうございました。これからもマニアな企画、期待しております!

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【特集】
相撲のみかた

【インタビュー&グラビア】
嘉風(尾車部屋)/竜電(高田川部屋)

 

 

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