第2回 柏戸になると必然的に伊勢ノ海部屋を継ぐ説

伊勢ノ海部屋の名物マネジャー、浅坂さんがちょっとためになる〝おすもう話〟を教えてくれるこのコーナー。今回は「四股名」について聞いちゃいます。

九月場所も終わった10月某日。前回と同じく浅坂さん行きつけの素敵なレトロ喫茶店で待ち合わせ。お昼すぎに浅坂さんがやってきました。

――こんにちは。お忙しいなかお呼び立てしてすみません。

浅:どうもどうも。

――おかげさまで浅坂さんの連載、好評です! 今日も思わず「へぇ~」とうなってしまうお話、期待してます。

浅:あまりマニアックすぎないほうがいいのかな。

――そうですね。浅坂さん詳しすぎるので、私みたいな初心者でもついていけるような…

浅:入門編ね。

――入門編でお願いします。今日は四股名について伺いたいです。この前お会いしたとき、小野さんの四股名の候補を考えてるっておっしゃってましたが。

浅:決まりましたよ。都川になりました。

――趣のある素敵な四股名ですね!

浅:京都出身だからね。「都」は京都全体を表すでしょ。都川って力士、昔もいたんですよ。四股名には「山」「川」「海」とか自然の雄大な文字をつけることが多かったの。今は少なくなっちゃったけど。

――伊勢ノ海部屋は、受け継がれている四股名が多いんですよね。

浅:四股名って部屋によって特徴がありますよね。佐渡ケ嶽部屋なら「琴」がつく、尾車部屋なら「風」がつく、みたいに。うちの部屋はそういうつけ方ではなく、部屋に伝わる四股名をつけることが多いですね。

――伊勢ノ海部屋で一番長く受け継がれている四股名は?

浅:柏戸で11人います。相撲界で一番長く受け継がれているんです。11人いる柏戸のうち、横綱は1人、大関は2人。あとは全員幕内です。

――縁起のいい名前ですね。

浅:柏戸は基本的に部屋を継ぐ名前だから、特殊っちゃ特殊です。

――それだけ期待される力士につけられる四股名なんですね。今は先代の名前が大きすぎますかね。

浅:先代の柏戸が横綱で偉大だったから、今まだ継ぐ人がいないんだけど、止め名になっちゃうとね…

――伊勢ノ海部屋伝統の四股名っていくつぐらいあるんですか?

浅:たくさんありますよ。伊勢ノ海部屋の四股名ビッグ3は、谷風、柏戸、藤ノ川。谷風は止め名になっちゃってるけど。歴史があるのは大碇。明治時代、大関だった人。東京相撲にいたんだけど、京都相撲に移籍して横綱免許受けたの。だから京都にかかわりがあるってことで、今の甲山親方は大碇になったの。

明治時代の大碇は京都じゃなくて愛知県出身だけどね。そのとき大阪相撲に八陣って横綱もいて、その人も東京では伊勢ノ海部屋にいて、滝ノ音っていったの。滝ノ音も伊勢ノ海で継がれている四股名です。

――きれいな四股名ですね。

浅:大碇も八陣も吉田司家から許可状もらったわけじゃないから、日本相撲協会の横綱として認められてはいないんだけど、土俵入りはしてたんですよ。

――へえ。では、伊勢ノ海部屋の現役力士の四股名の由来を、ひとり1人徹底解説お願いします。十一月場所の番付順に…まずは錦木関。

浅:もう書かれつくしちゃってるでしょ?

――入門編なんで。

浅:今の錦木の前に、7人錦木っていう力士がいたの。江戸の大横綱、2代谷風梶之助の時代にいた初代の錦木は、岩手の北上市出身だったんです。谷風・小野川の横綱伝授式で介添えしてるところが錦絵にも残っています。

――今の錦木関も岩手出身ですものね。

浅:もともとは本名の熊谷を四股名にしてたんだけど、ちょうど地元にゆかりのある、ドンピシャの四股名があった。地元に関係があるってすごく大事ですよ。地元の人にも愛されますから。

――錦木って木がありますよね。もとの由来はそれですか。

浅:「錦木塚物語」っていうのがあるんです。悲恋の物語ね。世阿弥が「錦木」っていう謡曲にしてます。

――わぁ、格調高い…

浅:男性が好きな女性の家の前に錦木(植物)挿して、女性がそれをとって家に入れたら結婚OKっていう合図だったそうですよ。でも「錦木塚物語」の男女は結ばれなかったんですね。

――悲しい……だから物語にもなるんですよね。

浅:その「錦木塚物語」に「狭布(けふ=きょう)の里」っていう地名が出てくるんです。

――わ!京の里さんとつながった!

浅:彼も京都出身だから京都にちなんだ名前をつけようとは思ってて。羅生門とかも考えていたんだけど。

――京の里さんの優しい雰囲気も四股名にあらわれてますね。

(つづく)

何曜日に更新されるかわからない、神出鬼没の浅坂さん。最新記事はおすもうさんサイトをこまめにチェック!

秋になると紅葉が美しい「錦木」。街路樹で見かけることも。

浅坂直人(あささか・なおと)

伊勢ノ海部屋マネジャー。北海道札幌市中央区出身。元三段目・雪光山(昭和55年五月場所初土俵、平成4年九月場所引退)。相撲関連書籍、資料を無尽蔵に所有。相撲の歴史を勉強中の生き字引的存在。相撲のみならず、洋楽にも造詣が深い。好きなアーティストはジェフ・ベック、エリック・クラプトン、アニマルズなど。

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