2代目&3代目木村容堂 新旧番付書き手による相撲字対談レポート~実演編~

12月16日に開催された、「2代&3代木村容堂 新旧番付書き手による相撲字対談」。レポート第2弾は実演編。相撲字は太くすき間がないのが特徴ですが、書き手によって個性があり、比べてみるとその違いがよくわかります。相撲字の名手といわれた2代容堂、30代庄之助こと鵜池保介さんと、弟子にあたり現在の番付書き手である3代容堂さんが二人並んで字を書かれるのを間近でみられるのは大変貴重なものでした。今回はお2人の書かれた字をご紹介しながら、対談の様子をお届けします。最後にはビッグプレゼントも!

―実演に移らせていただく前に、簡単に相撲字の特徴について。
鵜池:私が兄弟子に言われたことは、楷書を太く書いたものが相撲字ということですね。アンコ型の力士を想像しながら太く太く書けと言われました。簡単ですよ、楷書を太く書いたものが、相撲字です。
容堂:いや……。

―鵜池さんには「おすもうさん」主催の相撲字講座をやっていただいているんですが、本当に難しくて……。行司さんは基本の「山」「川」だけで5年でしたっけ?
鵜池:そうですね。

―そのあとに「花」「海」「錦」の修業をされて、そのなかでも才能のある方がこの番付書きとして抜擢をされると。相撲字を書くのにいい筆はありますか?
鵜池:これ、光雲堂で買ってるんです。

 

―光雲堂というのは浅草橋にある、相撲字講座の会場でもある書道用品店ですね。容堂さんは?
容堂:同じく光雲堂さんの筆です。イタチ毛のコシのある筆を使ってます。
鵜池:コシがないと書けないです。太く使って書きますからね。

 

お2人とも、浅草橋の行司さん御用達の書道用品店「光雲堂」の筆を使用。以前、鵜池さんにご登場いただいたおすもうさんの特集記事「相撲字を書こう」でもご紹介しています。

―普通の書道と相撲字の違いは?
鵜池:字によって斜めに使ったりします。相撲字はなるべく、筆をべたーっと使ってかきますから。

―太く書くためになぞることはあるんでしょうか?
鵜池:それはしません。なぞったら怒られてました。「相撲字は字なんだ。なぞるな」って言われてましたね。

―では、実際に書いていただこうと思うのですが、同じ文字を書いていただいて違いを見ていただければと思います。まずは「横綱」という文字を書いていただけますでしょうか。
ちなみに相撲字は半紙ではなくて、コピー用紙のようなものに書いていらっしゃいます。巡業で貼られている割などもコピー用紙なんですね。

おーーーーーーー!(会場どよめき&ため息)

―それぞれ特徴のある字ですが、書き順や形も違いますね。
鵜池:2人の違いがわかります? 「綱」は、こっちは跳ねてますよね。私は跳ねたことないんです。人によって違うんです。

―これは跳ねるこだわりが?
容堂:代々の書き手の方でも跳ねる方、跳ねない方いらっしゃいます。
鵜池:人によってですね。私は跳ねなかったですね。

―鵜池さんの字は丸っこくて、容堂さんは男らしいというかかっこいい感じがしますね。
鵜池:人によって違いますから、相撲字でも同じ字は書けないですね。

―同じ勉強をされていても人によって個性がでてくるという。
鵜池:そういうことですね。

―鵜池さん、容堂さんの字をごらんになってどうですか?(笑)
鵜池:いやーすごいですよ。負けます(笑)。

―容堂さんのよさはどういうところでしょうか?
鵜池:勢いがありますよね。私みたいな年寄とは違って勢いがあります(笑)。

―容堂さんは鵜池さんの字をご覧になっていかがでしょうか?
容堂:現役を退かれて、書かないとだんだん字は書けなくなるんですが、何年も変わらない字を書かれるっていうのは素晴らしいことです。

……参加者からこんな質問が!
<綱という字、岡の中の部分を「山」ではなく「止」のように書いているのはなぜ?>
鵜池:なぜかわかりませんが、あのように書きますね。書きやすいんじゃないでしょうか。太く書くために、昔から字をつくったんじゃないでしょうか。山になると細くなるので、山をくずしてああいうふうにしたんでしょうね。

―続いて、お2人の共通のお名前である「容堂」を書いていただいてもよろしいでしょうか。

―やはりお2人、同じ字でも違いますね。続きまして「相撲」をお願いいたします。

―容堂さんは筆の毛をめいっぱい使われてますが、鵜池さんは上の方を糸で縛っておられますが。
鵜池:これは墨が上まで上がってくるので、コシがなくならないように縛ったんです。

―容堂さんは全部下ろすタイプ?
容堂:そうですね。全部下ろしても書けますね。

―筆の使い方も人によってちがうんですね。

鵜池さんはサラサラと書かれる一方、容堂さんはゆっくりとじっくり書かれる感じ。先に書き終わられた鵜池さんが弟子の書く姿を見守られています。

-横棒がくっつかないのがすごいと思うんですが、横棒が多いのは難しいですか?
鵜池:そうですね。太さを加減しないといけませんから。相撲の撲でも違いがわかるでしょ。

―字の書き方はご自分で編み出される?
鵜池:編み出すというか、師匠がこう書いてたんでこのほうがいいかなと思って書いてましたが、別にこういうふうに書けっていう決まりはないわけです。読めればいいんです。

-では、次は参加者の皆様からリクエストがあれば。

参加者の方より「左馬」(馬を左右反転させたもの)のリクエストが。

―なぜ左馬を?
参加者:縁起がいいということで。

ーなかなか左右逆に字を書くのは難しいですね。では次のリクエストを。

参加者より「白鵬」のリクエストが。

 

(でき上がり)拍手がおこる。

―もしかして、鵜池さん「白鵬」を書かれるのは初めてですか?
鵜池:そうですね。

-初めてでもサラサラと書かれるのはすごい!カタカナとか難しいと言われますが、鵜池さんの時代は国名とかありました?
鵜池:ありましたよ。
容堂:アルゼンチンとかじゃないですか?

―あ、星誕期(ほしたんご)!「白鵬」は横の線が多いので難しいんでしょうか?
容堂:そうですね。それと、画数の少ない字と多い字のバランスが難しいですね。白は太く書いて、鵬は筆の先で細く書きます。でも白が大きすぎると頭でっかちに見えてしまう。

―ちなみに、容堂さん現役の四股名で書きにくいのは?
容堂:臥我丸の臥ですね。どうしても右が空いてしまうので。

 

……質問コーナーでこんな質問が!
<東西で力士の数が違うのに字の大きさが同じに見える様な気がしますが……?>
容堂:人数が多いほうは少しずつ縮めて書いてます。字によって、同じ寸法で書いていても大きさが違うように見えるものもあります。たとえば「白鵬翔」と書かれているのと「稀勢の里寛」と書かれているのは字の数が違うんで、同じ寸法の中に書かれていても、どうしても「白鵬翔」が大きく見えてしまいます。あと「豪栄道豪太郎」はどうしても小さく見えてしまう。まぁ、目の錯覚といいますか。「豪栄道豪太郎」と「髙安晃」を並べると「豪栄道豪太郎」が小さく見えてしまうんですね。

―では、最後にお2人で1つの色紙に書いていただきたいんですが、軍配によく書かれる文字で「公平無私」を合作でお願いします。
鵜池:先に書いて(笑)。
容堂:どっちにしましょう。
鵜池:なんでもいいよ。
容堂:では、「公平」と書きます。

まずは容堂さんが「公平」と書かれるのを見守る鵜池さん。

「無私」を書かれる鵜池さんを見守る容堂さん。

そして、完成!

すばらしい! ちなみにこの色紙は鵜池さんからリクエストがありまして、「鳥の子」という色紙で、墨を吸うので乾きが早くて書きやすいということです。ただ、おすもうさんの手形を押したりするのには向かないということなので、行司さんに何か書いていただきたいときはぜひこの「鳥の子」を。

おすもうさん過去記事では鵜池さんの相撲字動画を公開中!

1時間目→筆のおろし方
2時間目→山、川、花、海、錦
3時間目→四股名ほか(蒙御免、千代の山、御嶽海)
4時間目→相撲字の応用(賀正、御祝)

photo:Kaori MURAO

【special present】

ご応募を締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました!
(厳正なる抽選のうえ、ご当選者にのみメールでご連絡いたします)

実演コーナーで書いていただいたものは、30代庄之助と3代容堂のご署名を入れていただき、ご来場の方々に抽選でプレゼントとなりましたが、この記事をお読みの皆様にも、この貴重な色紙をゲットするチャンス! トークショー終了後に新たに書いていただいた「行雲流水」の合作色紙を1名様にプレゼントいたします。

ご希望の方は、件名を「容堂色紙希望」としていただき、お名前、メールアドレス、「おすもうさん」サイトでおもしろかった記事を3つご明記のうえ、info@osumo3.comまでご応募ください。締め切りは2019年1月31日まで!
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お預かりした個人情報は、適切に管理し、プレゼントの発送やサイト制作の参考にさせていただく以外の目的で使用いたしません。

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