今回も、伊勢ノ海部屋に現在所属する力士の四股名を一人一人フィーチャーします!
(前回はこちらから→第2回柏戸になると必然的に伊勢ノ海部屋を継ぐ説)
すもうのアレコレに詳しすぎる浅坂さん。一を聞けば百が返ってくるその博識ぶりに圧倒されながら、取材は進みます。
――勢関も伝統的な四股名ですか?
浅:昔は、一文字の四股名が結構あったんです。勢って意味がいいでしょ。「いきおいッ」って。だから相撲界には何人もいたんです。大阪相撲にもいたかな。幕末のころから明治初期にかけて活躍した幕内力士にもいますよ。でも実は伊勢ノ海部屋でつけるのは初めて。
――伊勢ノ海の「勢」でもありますしね。
浅:そうそう。先代の師匠がつけたんです。初土俵の次の場所から勢。
――一文字の四股名、伊勢ノ海部屋にはほかにもいますね。
浅:頂と漣ね。頂仙之助っていうんだけど、昔、超人気力士がいたのね。錦絵もたくさん残ってる。幕末にいた秋田出身の力士でね。頂仙之助の資料館もあるぐらい、地元でも有名な人気力士。五代目の伊勢ノ海親方も頂を名乗ってたの。そのあと柏戸になって伊勢ノ海を継ぎました。大関までいきました。そうやって名前がどんどん大きくなるようにって期待して四股名をつけるんです。
――出世魚ですね。はまちネーム。
浅:そうそう、はまち。若い人にいきなりビッグネームをつけちゃうのもね。背負うものが大きくなっちゃうから。はまちがブリになればいいのよ。
――そうですね。
浅:人気があったのは、伊勢ノ海を継いだ頂じゃなくてその次の頂。頂になる前の名前が変わった名前で人気があったの。「鱝野上曑太夫(えのえあきだゆう)」っていうの。
――よ、読めない…
浅:今の漣は岩手・奥州出身だけど、昔、漣大五郎っていう東北出身の力士がいたの。東北だからちょうどいいってなりました。下の名前は、本名の陸だけど。漣もはまちネームで、柏戸にはなってないけど、荒熊になりました。出世して親方になるかなってところまでいったんですけどね。
――荒熊!強そうな四股名ですね。
浅:四股名には、強そうな漢字を使うことも多いです。「熊」とか「虎」とか。動物じゃないけど「荒」も多いですね。うちに荒虎っているけど、あれもいい四股名なんですよ。明治時代に伊勢ノ海部屋にいた荒虎は、小結までいっています。期待してつけてるんですよ。今の荒虎は京都出身で同志社大学だから、甲山親方の後輩。
――京都、多いですね~。
浅:京都といえば鳴滝もいます。京都の右京区出身で、右京区に鳴滝っていう滝があるんですよ。幕末に伊勢ノ海部屋にも鳴滝っていう力士がいたし、地元にも部屋にも関連する名前ってことで鳴滝になりました。
――すごい、ダブルミーニング。
浅:四股名をつけるときに昔の番付を見せたりして、実際にいたよって見せると力士も納得するんです。口だけだとね、疑われる(笑)
有明吾郎は今の代で三代目。初代は長崎の島原出身で、有明海からとったの。小結まで出世したから、これもはまちネームですよね。すごく人気があった力士ですよ。二代目は、34代の庄之助親方、伊藤勝治さんのお父さんね。双葉山時代の幕内力士だから、知ってる人も多いと思います。三代目の有明は、佐賀の唐津出身だから有明海の近くだし、地元にも部屋にも合っている四股名です。
――有明さんは下の名前も継いだんですね。
浅:地元に縁があるといえば、柏葉かな。出身が柏葉中学校って名前だったの。柏戸の「柏」と双葉山の「葉」で、いいんじゃない?ってことで。地元にも部屋にあってる四股名ね。
――ほぉ。偶然にもいい名前の学校に通ってらしたんですね。
浅:鬨王、鬨龍は、師匠(元幕内・北勝鬨)の四股名からひと文字もらいました。彼らの本名は田中くんと伊藤くん。四股名をつけるときは、自然現象、動物、由緒ある土地の名前とか、そういうのを大事にしてますけど、全部がぴったり当てはまるのは難しいから、最終的には部屋に関連する名前をつけますね。
――浅坂さんの四股名は、雪光山。
浅:本名で相撲とってるときに四股名つけるっていうんで、図々しいんだけど師匠のところに「自分で考えました」って言ってもっていったの。どういう意味なんだって聞かれて、いいなって言われて。北海道出身だから雪。雪が光るように、と光を足しました。雪光山っていうのは北海道にはないんだけど、高知県にある国見山っていうのが別名雪光山なんだって。あとから知りました。
四股名にはいろんな思いが込められているんですね。
浅坂直人(あささか・なおと)
伊勢ノ海部屋マネジャー。北海道札幌市中央区出身。元三段目・雪光山(昭和55年五月場所初土俵、平成4年九月場所引退)。相撲関連書籍、資料を無尽蔵に所有。相撲の歴史を勉強中の生き字引的存在。相撲のみならず、洋楽にも造詣が深い。好きなアーティストはジェフ・ベック、エリック・クラプトン、アニマルズなど。