伊勢ノ海部屋の名物マネジャー浅坂さんが教えてくれる、ちょっとためになる相撲話。今回は「相撲の歌舞伎」の後編です!(前回の記事はコチラをクリック!→力士のケンカが歌舞伎になっちゃった説)
――前回は「め組の喧嘩」が題材になった「神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)」について伺いました。
ほかにも相撲が題材の歌舞伎はありますよ。たとえば「幸助餅」ね。これは去年の12月に市川中車が演じてたはず。
――どんな話ですか?
餅問屋の幸助が、雷っていうお相撲さんに入れ込んで財産つぶしちゃうの。もう相撲は見ないって決めた幸助だけど、大関になった雷(いかずち)に会って、またつぎこんじゃって……ここからは内容言っちゃうとつまんないから。人情噺ですよね。お相撲さんって義理堅いなっていう。
――雷、今は親方名跡ですね。
そうそう。「幸助餅」は落語にもなっていますよ。
――へえ。
「一本刀土俵入り」も有名ですけど、あれは力士を辞めた人の話ですね。「幸助餅」も「一本刀土俵入り」も、お相撲さんが世話になった人に恩返しをするストーリーです。
――ほう。「おすもうさんは義理堅い」説、ですね。
そうそう。相撲界は人付き合いを大切にしますからね。人付き合いといえば、歌舞伎役者とおすもうさんも親しい付き合いをしている人がけっこういましたね。
――どちらも江戸庶民の娯楽で、伝統世界同士。共通点もあるんでしょうね。
双葉山関は六代目尾上菊五郎と交流があったのは有名です。ついこのあいだ、菊五郎が双葉山に送った手紙の全文が新聞に出ていましたよ。
――双葉山関と尾上菊五郎の交流は『横綱の品格』(ベースボールマガジン社)にも出ていました。
双葉山が安藝ノ海に敗れて69連勝でストップした翌日に、手紙を送ったそうです。双葉山と菊五郎は年齢が27歳も離れていたけれど、それ以来「穐吉〈あきよし〉くん(双葉山)」「寺島さん(六代目菊五郎)」と呼び合う仲だったそうですよ。
――年の差は関係ないですね~。
双葉山の連勝が止まった取組を菊五郎は現地で見てたそうなんですが、そのとき一緒に行ったのが、澤村田之助さん。少し前まで横綱審議委員会の委員でした。小さいころから相撲が大好きだったんだって。
六代目菊五郎は、相模川っていうおすもうさんも贔屓にしてたんです。相模川は、双葉山最後の対戦相手ね。
――浅坂さんの相撲話、掘れば掘るほど出てきますね。。。
浅坂さん所有の資料「演藝寫眞新報(昭和16年3月号)」より。歌舞伎座春興行にて「神明恵和合取組」が上演され、双葉山が楽屋を訪れた。
「神明恵和合取組」が上演された際のフライヤー。その下にあるのは島流しにあった半鐘が掲載されている芝大神宮のパンフレット。