『利樹之丞の呼出し歴史講座』開催レポート〜その2〜

2019103日に蔵前・厳念寺にて行われた『利樹之丞の呼出し歴史講座』、レポート第2弾!利樹之丞さんの理想の呼び上げや、柝入れについてうかがいました。聞き手はもちろん、佐々木一郎さん(日刊スポーツ)です!

お客様には自然に受け入れられ、力士には「力の声」になりたい

佐々木:呼び上げで心がけていることはありますか?という質問がお客様からよせられています。

利樹之丞:心がけていることは、声は一番ですけれど、節、姿、土俵上の所作…自然な流れに見えるように、ですかね。

佐々木:土俵にスッとあがるときれいに見えますよね。

利樹之丞:お客さんから見て「不自然だな」と思うのはやっぱり美しくないですね。ちょこまか動いたりとか。動きも声も、お客さんが自然に受け入れられるものがいいなと思います。

佐々木:やはり取組前の大事な場面ですから、お相撲さんの気持ちを高める意味もありますね。

利樹之丞:そうですね。「力の声」になりたいな、と思うんですよ。力水って言いますけれど、お相撲さんの力が出るような声ですね。呼び上げも力いっぱいやります。でも、力むのはダメで。

佐々木:というのをふまえて、ここで呼び上げの実演です。

お客さんのリクエストで「東 豪栄道 西 御嶽海」の呼び上げを実演!練習ナシの一発勝負!近くで聞くとものすごい迫力!!

佐々木:ありがとうございました。相撲ファンのみなさまにはおなじみの利樹之丞さんの呼び上げなんですけれど、入門から今までは、どのように変化してきたのでしょうか。

利樹之丞:入門当初は、腹から大きな声を出しなさい、しか言われないんです。僕、五月場所で入門したんですが、出番前に相撲教習所の土俵に連れてきてもらって、なんとなく真似事でやりなさいって言われます。節もなんにもない呼び上げです。それだと10番も20番も呼び上げられるんです。

佐々木:どういう意味ですか?

利樹之丞:こぶしが入っていないですから。入門から1年ぐらいしたときに、米吉さんっていう方に「おまえ、もう1年経ったんだろ?節を変えてみなさい。明日の朝見に来るからな」って言われたんです。米吉さんは、そのころは幕内の兄弟子さんだったんで、朝早く来るはずはないんですが、本当に見に来てくださいました。これは節を変えてやるしかないな、と思ってやりました。でも節を変えるというのは難しくてなかなかできないんですね。ひとこぶし入れるのに1年かかるんですよ。僕が憧れていた寛吉さんは何こぶし入っていたかなぁ。すごい数入っていました。ひとこぶし入れるのに1年。そして思い通りのところにこぶしを入れるのに、それからさらに2~3年かかります。入門から10年ぐらいたったとき、徐々に今の呼び上げの節を始めました。でも稽古のときはできるんですが、土俵に上がるとできないんですよ。誰かに「前の節のほうがいいぞ」って言われたこともあります。だけど、そのおかしいと言われた呼び上げをずっと続けていたら、自分の流れにそっていけるようになったんです。それが、今の節の形になっているのかなって思います。

佐々木:今の呼び上げは、ご自身のなかでは完成形ですか?

利樹之丞:完成はしないでしょうね。あと少し変えていきたいという思いはあります。

佐々木:これからは加齢とともに、体のコンディションも変わってきますでしょうし…

利樹之丞:そうなんですよね。僕、今年で46歳なんですけど、50代になれば出せるものもあるでしょうし。哀愁とか。若いうちは、元気で大きな声でいいんですよ。僕も最近、5~6年目の若い子には、元気なのは卒業して次の段階にいったら、と言いました。僕がそうだったように、誰かに言われないと変えないんですよね。

佐々木:基本はこれだ、という教えはないんですね。

利樹之丞:そうですね。楽譜もなにもありません。○○兄弟子のここを真似したいなというのから始まってるんで、個性をいかしていいと思います。

佐々木:お客様からの質問。のどにいいことしていますか?

利樹之丞:ふだんは特になにもしていないのですが、調子が悪いとあらゆる手段をつくします。でも、調子が悪いときは、何をやっても一緒ですね。

佐々木:風邪をひいたら大変ですよね。

利樹之丞:なので場所が近づくころはマスクはしますけど、どうにもならないときはありますからね。

佐々木:冬場は乾燥しますね。

利樹之丞:九州場所とか、初場所とか。そういうときは寝るときもマスクをします。

佐々木:呼び上げをやり直したいときはありますか。

利樹之丞:今日はイマイチだなというときは、出番後にもう一度練習に行ったりします。次の日に引きずりたくないので。

佐々木:どこに行くんですか?

利樹之丞:国技館だと相撲教習所。大阪場所だと地下駐車場。福岡国際センターだとボイラー室でこっそり。大阪の地下駐車場なんてバツグンに響くので、そこで自信をつけてから土俵にあがります。

佐々木:国技館だと教習所で練習されている呼出しさんをお見かけします。

利樹之丞:僕も教習所で朝、一発声を出しますね。

佐々木:まったくやらない人もいますよね。

利樹之丞:いますいます。のどが丈夫な人もたくさんいます。

呼出しの拍子木で、相撲全体が動く

佐々木:へぇ。次に拍子木のお話を。柝入れのタイミングって本場所中は、いろんなときにありますよね。

利樹之丞:相撲は「拍子木に始まり拍子木に終わる」といいます。お相撲さんはみんな、この拍子木の音で動くんですね。土俵で拍子木をうつのはお客さんにも見えますけど、実は見えないところでも柝を入れているんですね。まずは「一番柝」といって、毎日取組開始の30分前になると入れる、「そろそろ支度をしたらどうですか?」という柝。

佐々木:朝の8時ごろですかね。

利樹之丞:そうですね。次に二番柝。「そろそろ花道に向かってくださいね」という意味です。入門したころに先輩から聞いた話では、両国はそこらじゅうに相撲部屋があったので、一番柝を各相撲部屋をまわって入れていたらしいんです。「そろそろ場所入りしないさいよ」という意味合いがあったようで。そうやって知らせていたので、お相撲さんも行司さんも親方たちも、すべて拍子木の音で動くようになっているんです。

支度部屋に入れるのは、一番柝、二番柝ともう2回。十両土俵入りのだいたい7分前と、幕内土俵入りの三番前に支度の柝というのを入れます。関取衆に「土俵入りの準備をしてくださいよ」という意味です。これを入れると、関取衆が一斉に化粧まわしを締め始めて、花道に向かいます。

佐々木:私どもは支度部屋で取材をするのですが、この柝が入ると支度部屋から出ないといけないんです。このへんはお客さんには聞こえない柝ですが、お客さんにわかるときに入れる柝も何度かあります。

利樹之丞:「呼び柝」といって「相撲が始まりますよ」の合図ですね。力士を花道から土俵まで迎え入れる意味があります。それから「跳ね柝」。1日の相撲がすべて終わったときに入れます。自分たち(呼出し)は「あがり柝」といいます。それから土俵入りの柝、十両最後の一番と、幕内結びの一番の柝。ここでは「とざいとーざい」という声が入ります。「雑踏触れ」といって「ちょっとお静かに聞いてください」という意味があります。あとは初日と千秋楽の協会ご挨拶。千秋楽は三本締めをします。

佐々木:誰がどの柝を入れるかは決まっているのですか?

利樹之丞:決まっています。紙に書いてあるわけではありませんが、みんなちゃんとわかって動いています。土俵入りは当番制ですが、あとは当日の取組表を見て、ここの場面は誰がやるっていうのを把握します。

佐々木:間違えちゃったりすることは……

利樹之丞:まずないですね。

佐々木:誰かが指示を出しているわけではないんですね。

利樹之丞:してないですね。相撲はリハーサルはないですからね。ぶっつけ本番です。

佐々木:みんなが阿吽の呼吸であわせるのがすごいですよね。

今回はここまで!次回をお楽しみに!!!

利樹之丞-りきのじょう-(高砂部屋)
昭和48年生まれ、山形県酒田市出身。平成元年4月入門。令和2年初場所に幕内昇進。

聞き手
佐々木一郎ささき・いちろう)日刊スポーツ新聞社
サッカー、オリンピック、大相撲担当記者を経て、現在は大相撲などのデスク担当に。自身の筆による相撲部屋の俯瞰イラストが大好評だった「月刊相撲」(ベースボール・マガジン社)の連載「稽古場物語」は、来年早々に同社より書籍化予定。ツイッター@Ichiro_SUMO

Photo:村尾香織

 

厳念寺

https://www.gonnenji.com/

建長5年(1253)武州足立郡槙村にて遊琳法印が「真言宗證誠山護念寺」として創建。覚如上人の教化により浄土真宗に。寛永20年(1643)に浅草鳥越村に移転し「厳念寺」を定める。その後大火などで移転しながら文化13年(1817)浅草新堀端に「證誠山成就院厳念寺」としてお寺をかまえ、現在に至る。仏教講座やワークショップ、各種イベントを開催する地域に開かれた寺院。

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