2022年前半に発売されたおすもう関連書籍をどどーんとご紹介する「おすもう図書室スペシャル」第2弾!
Index
その1:スペシャル対談 佐々木一郎さん×錦風真悟さん(押尾川部屋世話人)前編・後編
『関取になれなかった男たち』(佐々木一郎著)→前編の記事を読む
その2:著者ミニインタビュー&サイングッズプレゼント
『けっぱれ相撲道 安美錦自伝』(安治川竜児著)
『七転び八起き 豊ノ島自伝』(井筒大樹著)
『真っ向勝負 嘉風自伝』(中村雅継著)
その3:担当編集者の編集後記
『平成新入幕力士物語―第1巻』(「相撲」編集部編<おすもうさん編集部編集>)
『力士のいる風景 琴剣大相撲イラストブック』(琴剣淳弥著)
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今回は、その1の後半をお届け!
『関取になれなかった男たち』(佐々木一郎著)
〈スペシャル対談–後編– 著者・佐々木一郎さん×錦風真悟さん(押尾川部屋世話人)〉
本書で登場する元幕下・現押尾川部屋の世話人・錦風真悟さんと、著者の日刊スポーツ新聞社・佐々木一郎さんに、取材時のエピソードや、出版後の反響などをお話しいただいた対談後編です!
前半を読む→コチラから
(左)錦風真悟、(右)佐々木一郎。佐々木さんにサインを入れてもらった錦風さん私物の本書を手に。*取材時は感染対策を実施し、撮影時のみマスクを外していただきました。
反響が大きかった世話人のお仕事について
佐々木:須磨ノ富士さんのところ(→前編を参照)でも言いましたが、幕下上位5番のせめぎ合いは、やっぱりおもしろいと思うんです。相撲をよく見てる方はよくする話ですが、「この本を読んであそこの取組をもっとちゃんと見ようと思いました」という感想をいただくことが多くて、書いてよかったと思いました。実際にあそこは生活かけたところですからね。
あと、反響というところでは、思いのほか世話人さんって何をしているのか知らなかったっていう方が多かったんです。友鵬さんと錦風さんのところで世話人の仕事についてけっこう書き込むことができたので、世話人さんへの理解が進んだのはよかったと思います。
錦風:私達も、こういう仕事があるって知ってもらえたのはうれしいことですね。
佐々木:世話人の仕事の説明にご苦労されてるっておっしゃってましたよね。
錦風:そうなんですよ。相撲協会のために働いてるってざっくりすぎますよね。
世話人と若者頭の違いをよく聞かれますが、頭(かしら<若者頭の略>)は土俵の進行を任されてる。だから、土俵周りにいる。世話人は運営の方ですね。
各所の警備とか、国技館では南門の門番じゃないですが、変な人入ってこないように見張ってたり、若手力士に挨拶の声が小さい!って怒ったりね(笑)。あとは地下の駐車場とか、支度部屋で消毒したり、マスク着用を促したり。
コロナ前はエントランスで総合案内ってあって、ラジオを貸し出したり、多少の英語なら外国人に英語で対応したりしてました。
地方に行くと、各地方の持ち場があって、名古屋だったら電光掲示板とか。各地方場所の先発親方に持ち場を振り分けられるので、そこを担当します。
佐々木:名古屋の電光掲示板って陸奥北海さんがやってますよね。
錦風:以前はそうですね。数年前から私が担当しています。
編集部:勝った方のボタンを押したりしてるんですか?
錦風:電光掲示板と別に、ボタンのところにパネルがあって、勝ったほうのボタンを押すと点灯しますが、実は、1回だけ間違えました。それは、パネルを東西逆に置いてしまっていたんです。すぐに電話がきまして「違ってるぞ!お客さんが言ってるよ」って。あ、すいません!って。ちょうどNHKのニュースの時間だったので、すぐばーって変えて。
佐々木:セーフですね。
錦風:親方衆が「よかったね〜。みんな見てるってことだから気をつけないとね」と、すごくやさしかったです。
場所前の仕事でいうと、地方場所なら関取衆の明荷を集めて送るのはもちろんですが、相撲競技用具、つまりトロフィーとか土俵築の道具とか、土俵の四方の房とか、もっといったら、お客様に配る割(取組表)を印刷する印刷機とか、ビデオ室のビデオとか、すべての運搬を管理してます。国技館をまるごと持っていくようなものです。
あとは、トロフィーの飾り付けとか、幟を立てたり、国技館なら溜まり席の設置とか。溜まり席って、卓球台みたいなやつをパズルみたいにはめて設営してるんですが、なかなか時間のかかる作業なんです。
佐々木:けっこう力仕事も多いんですね。
錦風:多いですね。場所以外では、横綱の綱打ちは若者頭と世話人が中心になって一門でやってます。
佐々木:部屋でのお仕事ってどんな感じですか?
錦風:各部屋で違うものはあると思いますが、稽古場の指導だったり、ちゃんこづくり、部屋のお客さんの対応、地方の準備とか、部屋の細々としたお手伝いで、気づいたことは全部やってる感じですかね。
尾車部屋時代は、千秋楽パーティーとか激励会の司会もやってました。
佐々木:そうなんですか!?
錦風:「司会いないな〜錦できるか?」「錦できるんじゃないか?」って言われて「やってみます」ってなって(笑)。
佐々木:今回は押尾川部屋の立ち上げに関わられたわけですが、部屋が新しくできるとなるとご苦労も多かったと思いますが……。
錦風:僕も押尾川親方も尾車部屋で育ってるし、ベースは尾車部屋かもしれないんですが、押尾川部屋の方針っていうのをちゃんと作っていきたいというので、部屋のルール作りやシステム作りを一緒に考えてほしいと押尾川親方に言われました。
力士が集中できる環境づくりをお手伝いしてるという感じです。
具体的にいうといろいろあるんですが、ちゃんこづくりにしても、掃除にしても、次に入ってくる人にも伝えていけるようにシステム作りを、いろいろやりながらですが。新しい部屋を一から見れるのは楽しいですね。
佐々木:師匠の熱量もまたすごいですからね。
錦風:現役時代とは違うこだわりがあって。今は力士ファーストって言葉を使いますが、力士が一番やりやすいようにをモットーにチームワークを固めてるって感じです。
そこで僕は親方と力士の間のワンクッションになれればなと。やっぱり言いづらいこともあるだろうし。そういう存在になれればと思ってやっています。
佐々木:風賢央さんも各段優勝されたり、部屋としてはいいスタートきれたんじゃないですか。
錦風:おかげさまで。
佐々木:四股名の頭に「風」つけるってなかなか斬新な発想ですね。
錦風:でも、四股名って育てるものですから、馴染んでくると思うんです。風なんとかって四股名だと、押尾川部屋かって。風を継承するっていう意味ではいいんじゃないかと思います。
大きかった家族の反響
佐々木:錦さんのまわりで本が出た後の反響はどうでしたか?
錦風:やっぱり僕自身のことなので、家族の反響がすごかったです。
母親が、読みながら涙が止まらなかったって言ってくれました。お父さんに見せてあげたかたね、とも。
姉は現役時代もずっと近くで見てくれていましたから、僕が18歳くらいでなかなか上がれないでいたころにタイムスリップしたような感覚になる本だって言ってくれてました。
新弟子のころからお世話になっている方からは、小見出しの「真面目だからこそ」っていうところに反応されて「真面目だからこそ(笑)」ってメッセージが送られてきて、それがちょっとウケました。
あと、一郎さんの本読みましたよってけっこう言われました。国技館の清掃スタッフの方からも言われましたね。
佐々木:そうですか! 奥様はどうでした? 昔の力士だったころのことはあんまりご存知ないですよね?
錦風:そうですね。世話人になってから知り合いましたから。
佐々木:奥さんはなんかおっしゃってました?
錦風:あらかじめ対談テーマをいただいたときに、「家族の感想は?」っていうのがあったので、聞いてみたら、LINEしてくれました。
佐々木:今まで聞いてなかったんですか?
錦風:実は、きっと感動してしまうからって、なかなか読んでくれなくて。
出版記念の一郎さんのトークイベントにお邪魔する予定だったので、その数日前にしっかり読んでました(笑)。
佐々木:で、LINEはなんて書いてあったんですか。
錦風:あ、いいですか。
「主人と知り合ったのが、主人が現役を引退して、世話人になって間もないころでしたので、私が主人から見せてもらったビデオでしか錦風の現役時代を知りません。そのビデオは錦風が勝ち名乗りを受ける取組ばかりなので、全勝中です(笑)。
ですので、『関取になれなかった男たち』の出版を知り、とても楽しみにしていました。
実際に読ませていただき、ほかの方達もそうですが、関取になるために相当の稽古や努力をしてこられたことが、想像以上すぎて衝撃的でした。
三段目優勝や幕下優勝など輝かしい実績に目が行きがちですが、主人も同様、その裏ではすごい相撲人生を歩んできているのだなぁと思うと、涙が止まりませんでした。
正直なところ、いつもそばにいてくれる、ニコニコ温和で優しい主人が、この本に出てくる錦風と同一人物とはいまだに信じられません。」
だそうです。
佐々木:素晴らしい感想ですね。
錦風:これをうまいこと言っておいてって言われたんですが、そのまま読んじゃいました。
(編集部:そのまま載せちゃいました!)
佐々木:そういえば、尾車親方から何か感想ありました?
錦風:3親方からは、特に何もありません(笑)。
佐々木:ないんですか!
錦風:正直言って、僕たちが培ってきた一部が書かれているわけですから、僕と尾車親方の間では書かずともわかるみたいなところがあって、読んでも、あ、そういうことあったなぐらいで。
僕にとってはこの本が出たことで、あ、俺関取になれなかったんだなって思い出したんですよ。もう世話人に集中していたんで。だから、尾車親方が停年の折に、「僕は関取にはなれませんでしたが、立派に育てていただいてありがとうございました」って親方にお礼が言えました。「世話人としても今まで師匠に恥をかかせないようにとの一心でやってきました。これからも、その一心でやっていきます」って親方に誓うことができたので、そういう意味では、いいきっかけになった本だったと思います。
押尾川親方からは、この本を読まれたからかはわかりませんが、「現代版友鵬さんになって欲しい。それで、友鵬さんを超える存在になってほしい」と言われました。本については何も言われてません。
佐々木:書いてあることはお互いみんなわかってることなんでしょうね。
錦風:そうなんです。それが文章化されて、世間の方に読んでいただいたって感じですね。でも、読んでるけど、あえて何も言わない方々なのかもしれないですね。
朝日山親方は審判部なので、僕が支度部屋の前にいるとしょっちゅう前を通られるんですが、「取材きたぞ!しっかり褒めといたから」っておっしゃるんです(笑)。「あんなの書いてもらってよかったな」って。お弟子さんにも見せておられたようで、朝日山部屋の若い衆にも「読みましたよ」と言われました。
あと、風賢央も読んでくれて、「世話人さんってこういうことされてるんですね。勉強になりました」って。
佐々木:そっち!?(笑)
錦風:でもまぁ、僕も入門したころは世話人さんて何してるかわからなかったですもんね。
錦風さんから佐々木さんへの質問コーナー
佐々木:さきほど奥様のお話で、僕のトークイベントに来ていただいた話がでましたが、帰り際に奥さんがカミングアウトされたときはびっくりしました。質疑応答のときに質問されてましたよね。
錦風:一番最初に質問したのが、妻の妹なんですよ。
佐々木:え!そうなんですか。
錦風:一郎さんが、「じゃ、その黒い服の方」って指名してくださったのが、妻の妹で、彼女が、錦風のエピソードもうちょっとって聞いて、最後にうちの妻が手を挙げて、この6名の方の順番はどうやって決めたんですか?という質問をしたんです。あれは、僕の質問でもあったんです。
佐々木:そうですか。順番は、まず錦風さんは友鵬さんの次っていうのがあって、でも友鵬さん1人目だと、お亡くなりになってる方が最初っていうのはちょっとなと思って。できるだけ引退が最近で、最近の相撲ファンがとっつきやすい人だれかなってなったときに、白鵬、日馬富士、鶴竜が出てくる春日国さんかなっていう流れだったんですね。
錦風:では、もう1つ。関取になった人たちのことを書くのが普通だと思うんですが、関取になれなかった男にフィーチャーされたのはなぜでしょうか?
佐々木:気になってしょうがなかったんです。筆頭まで行って何があったの?って。決して敗者ではないんですが、そっち側に寄り添いたい気持ちもありますし。
あとは、自分に投影するというか、自分もうまくいかないことは人生でいっぱいあるし、世の中みんなが社長とか関取になれる人たちばっかりではないので、そこの気持ちは共感できるものがあるだろうと。
それと自分しか書けないものってなんだろうと考えたときに、このテーマは自分の仕事じゃないかなと。
錦風:おそらく、書きづらかったこともいっぱいあって、何度も書いては消してみたいなことがあったんじゃないかなという気がするんです。
やっぱり僕らのことも考えて、書いてくださったと思うんです。傷つけないようにとか、こういう表現はよくないかなとか。
多分いろんなことがあったんじゃないかと思うと、そういうことも含めて、この本はいい本だなって他の方のお話も読みながら思いました。
佐々木:ありがとうございます。
錦風:でも、こうやって僕らのこと、筆頭で止まった人のこと、よくぞ焦点をあててくださいました。
佐々木:今日のご家族の感想とか伺うと、地味な本ではありますが、書いてよかったと思いました!
佐々木一郎 ささき・いちろう
千葉県出身、獅子座。日刊スポーツ新聞社入社後、サッカー、オリンピック、大相撲担当記者などを経て、現在はデジタル編集部長(2022年6月)。著書に「稽古場物語」(ベースボール・マガジン社)がある。ツイッターで大相撲に関する情報を発信中 @Ichiro_SUMO
錦風真悟 にしきかぜ・しんご
北海道出身、水瓶座(2月14日のバレンタインデー生まれ)。元幕下力士(尾車部屋)、現押尾川部屋所属の世話人。平成5年三月場所で初土俵、最高位は幕下筆頭。平成27年三月場所で引退。
【押尾川部屋の情報は】
公式HP https://oshiogawa.com/
公式ツイッター @oshiogawabeya
錦風さんツイッター @singo19780214
対談終了後に、錦風さんご持参の本書にサインを入れる佐々木さん。
photo / Kaori MURAO
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