江戸から変わらぬ粋なスタイルで相撲界を支える呼出しさん。今回は呼出しさんが身に着ける「裁着袴(たっつけばかま)」の製作を手掛ける富永皓さん、山口由紀さん親子にお話しを伺いました。
真新しい髙安関の四股名入り裁着袴!
相撲部屋が点在する深川地区にある工房。お邪魔すると袴制作の真っ最中。まっさらな紺地の裁着袴が目に留まります。腰板には「髙安」の刺しゅうが!
「相撲界では、大関昇進の際にご祝儀として呼出しさん全員に裁着袴を贈る慣例があります。昔は横綱に昇進するときも作っていたのですが、今は大関のときだけが多いですね。これは去年昇進した髙安関が呼出しさんに贈られるものです。こうやって腰板の表側に四股名、裏側に呼出さんの名前を刺しゅうしています」(山口さん)
傍らには、呼出しさんの名前と細かく記載された寸法のメモ書きが。1人1人採寸して作るオーダーメイドなんですね。
「古いものもとってありますよ。帳面に書いたり、同じものをメモに書いたり、その裏にそのときの袴の生地を貼ったりしています」(富永さん)
と言って、富永さんが取り出したノートには、歴代の呼出さんたち全員の寸法が書いてあります。すごい! オーダーメイドになったのはいつからなのでしょう?
「昔は大・中・小の3サイズで作ってたんだけど、『大』じゃ入らない人がいてね(笑)。その人を採寸してから、他の人も測り出して徐々に、ですね」(富永さん)
歴代の呼出さんの寸法が細かく記されたノートを手にする富永さん。
本サイトでも連載中の元立呼出し、土俵の妖精・秀男さんの寸法。裏には歴代の裁着袴の生地を添付。裁着袴の変遷がひと目でわかります。
『大』じゃ入らなかった人……どなたでしょうか、気になります。呼出しさんたちの体型もさまざまですものね。昔の人と今の人では体型は変わりましたか?
「全然違いますね。昔は2反で3人分は作れましたが、今は3人分とれません。昔に比べて背が高くなっているので、足も長くなっているんですね」(山口さん)
おお、それでは反物も前よりたくさん必要になりますね。全て手作業でやってらっしゃるのは、今は富永さんだけと伺いましたが……
「腰板の刺しゅうは外注しています。あと、こはぜを縫う特殊な糸は、足袋屋さんに作ってもらっています。あとは全部手作業ですね。私と娘(山口さん)と家内で作業しています。昔は昇進して次の場所には仕上げてくれって言われていましたが、今は人手もないので納期は待ってもらっています」(富永さん)
足袋屋さんに発注し、特別に撚ってもらった糸はこはぜなどを縫い付けるのに使用。この糸でないと切れたりしてしまうのだそう。
丁寧な仕事と技術の高さで、呼出しさんたちから長年にわたって厚い信頼を得ています。
1針1針、丹精込めて作るので、それなりに時間が必要なのは納得です。髙安関の裁着袴を履いた呼出しさんたちを見られるのが楽しみですね。
裁着袴職人は次回もつづきます!第2回は袴の修繕のおはなしです。
富永皓さん(右)と山口由紀さん(左)
2018年3月11日(日)亀戸梅屋敷・多目的ホールにて、富永さんと山口さんの裁着袴製作の実演が行われます。
匠の技に触れられるまたとないチャンス!ぜひ足を運んでみてください。
詳しくは、江東区のホームページをチェック!
https://www.city.koto.lg.jp/index.html
Photo/Kaori Murao