寛吉さんへのインタビューも今回が最終回。寛吉さんデザインのマッチや、得意の喉で甚句をご披露いただきます。
昭和2年生まれの寛吉さんは、力士や親方衆含め、国技館で働いている人の最高齢。
ご当地出身力士は番付にかかわらずやっぱり応援
――本場所に毎日いらっしゃる寛吉さんが今注目の力士はいらっしゃいますか?
寛:特にはいませんね。というのも、相撲が好きになりすぎちゃうと、これも具合が悪いもんでね。取組が気になっちゃうから。でも自分の出身地の力士は応援しています。今は関取がいないけど、番付が下のほうでも頑張ってほしいなあっていう思いです。群馬県出身の関取は、多いときは5人ぐらいいたんですよ。幕内に3人、十両に2人ぐらいいて。今、群馬出身の親方は4人おります。起利錦(勝ノ浦親方)、琴稲妻(粂川親方)、琴錦(朝日山親方)、湊富士(湊親方)ですね。
――群馬のおすもうさん、もっと出るといいですね。
寛:初場所まで弓取り式をしていた序二段の力士(聡ノ富士さん)が群馬出身でしたね。弓取り式が上手で、お客さんも最後まで帰らなかったですね。
(ハッと思い出して)マッチあげましょう。
寛吉さんデザインの藤しま家さんオリジナルマッチ
――マッチ……?
寛:これ。私が蔵前時代に作ったやつ。蔵前当時、あるお客さんがマッチくれないかっていうの。うちの店になかったから、おかみさんが作りなさいっていうの。どんなマッチにしましょうかっていうと、自分で考えて作りなさいって。で、作ったのがこれ。私、絵だけは得意でデザインが好きなのよ。
国技館内で喫煙できた時代、お客様に配ったと言うマッチ。
――素敵~!!藤色なのは「藤しま家」さんだからでしょうか。
寛:そうです。この藤の花の絵を私が描きました。
――デザイナーですね!
寛:デザインが好きでね、子どものころは夏になるとこしらえる洋服のデザインを自分でしていました。大人になってからも、子ども服を作るとき、こんなのがいいんじゃないかって描いたこともありました。
――おしゃれさんですね!出方さんの装束も、着こなしにはこだわっていましたか。
寛:浴衣の仕立てを頼むんですが、ポケットをつけてもらったりしてね。厄介だって言われたり、料金も多くかかりました(笑)。
――出方さんの浴衣にポケットがついていたら便利ですね。今、お仕事中は裁着袴は履いていらっしゃるんですか?
寛:いえ、今は着流しです。恰好だけは番頭で店に出ております。裁着袴脱いで5~6年ですかね。
――裁着袴は呼出しさんが履いていたものを出方さんがいただくこともあると伺ったことがあります。
寛:ええ、私もいただきましたね。三郎さんっていう甚句をやる人と、長八さんや栄太呂さんにもいただきました。呼出しさんがお客さん連れてきてくれたりして、ふだんから仲良かったよね。三郎さんっていうのは富山の方で、甚句が一番上手だね。昔は、お茶屋の若い衆もみんな甚句をやったもんだけど、最近はなかなかね。
必聴!寛吉さんの相撲甚句
――寛吉さんは?
私はいくらかやります。「きゅうりとかぼちゃ」っていうのをやりましょうか。
注)音声が出ます。再生音量にはご注意ください。
――素晴らしいです!!聞けてうれしい!!どういうときにご披露されていたんですか。
寛:そこいらへんでやってくれって言われたときにね。用意も何もいらないから。
――どなたかに教えてもらったんですか?
寛:呼出し三郎さんですね。警察予備隊当時から、部隊じゃ声が出たほうでね。運動会なんかやると、その部隊の応援団長なんかをやってね。お袋も大きな声が出たんですよね。
――今でもご披露されることはあるんですか?
寛:旅行なんか行ってやるときもあります。銀座のクラブでやったり。
――それはモテるでしょう!レパートリーはいくつぐらいあるんですか。
寛:十ぐらいですね。私が存じ上げているのは。
息ぴったりに合いの手を入れる一郎さん。
長く続けるためには、まず自分を信じること
――先ほどは一郎さん(寛吉さんと同じく藤しま家の出方さん)が合いの手を入れてらっしゃいました。
寛:やっぱり合いの手が入らないとね、調子が出ないよね。
――最後にお伺いしたいのですが、66年も続けてこられた理由を教えてください。
寛:まず、自分を信じるということですね。たとえばおみくじを引いても、全部よい方向に考えます。
――おみくじはよくひかれるんですか?
寛:ひかないです。でも占いをみることはあります。それも全部良い方向にとらえます。
笑顔がとても素敵な寛吉さん。生涯現役を宣言!
――ポジティブですね。
寛:主人や仲間がよくしてくれたのが長く続けられている理由ですね。よその店の方にも励まされました。
――やめようと思ったことは…
寛:ありません(きっぱり)。生きている限り続けようと思っています。この仕事だけじゃなくて、今までやってきた仕事全部に対して誇りをもっています。
――90歳を過ぎても現役でいられる秘訣ですね。今日は甚句まで聞かせていただき本当に楽しかったです。これからも頑張ってください。五月場所でまた、お会いできることを楽しみにしています。
PHOTO:Kaori Murao
藤しま家
国技館に20軒ある相撲案内所のひとつ。番号は17番。戦後、第31代横綱常ノ花夫人、山野辺静代さんが経営にかかわって以降、代々受け継がれている。現在の代表はひ孫の秀明さん。
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「相撲茶屋のおかみさん」横野レイコ著