おすもうファンにおすすめの映画をピックアップ! 大正末期の日本を舞台に「女相撲」と「アナキズム」を題材にした映画『菊とギロチン』。女相撲一座の新人力士・花菊ともよ役で主演した木竜麻生さんにお話を伺いました。
役作りのため、日大相撲部での稽古に2カ月以上通う
――女相撲一座のみなさんの相撲っぷりが本格的でとても驚きました。オーディションで決まったとのことですが、最初から花菊役として応募されたのですか?
一次審査では、一座の女力士の役のどれかということで全部の役を受ける感じで。ほぼ全員が出ているシーンを6~7人で演じました。二次審査ぐらいから、それぞれの役を受ける人が決まっていった感じです。四次審査が最終でした。審査に進めば進むほど、花菊を演じたいという気持ちが大きくなったので、決まったと言われたときは本当に嬉しかったです。
――花菊の家庭環境はとても複雑ですが、役作りはどのように?
花菊はどこまでもまっすぐで一生懸命、そして純朴な女性です。あまり演技経験のない私が演じるには、どうしたらよいだろうと考えました。でも、一生懸命な女性を演じるなら、私も一生懸命やるしかない、と。とにかく私がやれることに全力で向かっていくしかないと思いました。
――役が決まり、相撲の稽古は日大相撲部でされたそうですね。どのぐらい稽古したのでしょうか。
役が決まった人から相撲の稽古に入りました。私はトータルで2カ月半ぐらいですね。
――あの、阿佐ヶ谷の日大相撲部へ?
そうです、阿佐ヶ谷の! 週2回行っていました。女力士役のみんなで駅で待ち合わせをして、歩いて稽古場まで。女子部員の方がつきっきりで指導してくださいました。
――週2回を2カ月半!もはや相撲部員ですね。女力士役の方たちは、みなさん相撲初心者とのことですが、なんの稽古から始めたのですか?
最初は股割りです。みんなの柔軟性を見なければならなかったので。私は初日からすり足もぶつかり稽古もやりました。すり足は、脇をしめて、でも力を入れず柔らかく。そういった細かい指導を丁寧にしていただきました。そして実は2日目からもう〝かわいがり〟をされました(笑)
――えー!2日目で!!
私が演じる花菊自体が、相撲経験がなくて一座に入ってしごかれていたので、役作りの意図もあったのだと思います。相撲の基本が何もできないまま、転がされて立たされて引きずられて(笑)。私がやってもらった〝かわいがり〟なんて、全然軽いものだとは思うのですが、それでも足が本当にあがらなくなって。でも頭をつかまれると立ち上がらないといけない。そうなると、声を出さないと足も手も動かないんです。そのときはすっっっごく辛かったんですけど、そんな経験はこういう役をいただかないとできないので、今思うと貴重な経験をさせていただきました!
まわしをパンパンとやる仕草が自然と出てくるように
――稽古のときの恰好は?
レオタードの上にTシャツを着て、まわしを巻いていました。
――まわしはペアを組んで締めていたんですか?
そうです。まわしって1人だと、どこを押さえるんだろうとか、しっくりいくところまで締まらなかったりして難しいんですよね。ギュッときつく締めてもらったほうがしっくりしました。あと、まわしが緩むと自然とパンパンッてまわしをたたいちゃうんです(笑)。あれを自然とやるようになったとき、相撲をやっている自分に馴染みだしたなって感じました。取組中にまわしをとられると緩むので、みんな自然とパンパンッてやっていて。今考えると、おもしろいですね。
――それって、まわしを締めて相撲をとった経験がある人じゃないと、絶対に出てこない感想ですね。相撲に真剣に取り組んだ人ならでは!
うふふ。ギュッて締めたくて、思わずたたいちゃう(笑)
――撮影で大変だったことは?
取組のシーンは気合いが入りました。立ち合いや相撲の流れは、(瀬々)監督と日大相撲部のコーチとで話し合いをしていました。もっと見せ場を作りたいからこういう技を出したらどうか、とか、最後は豪快にのど輪で倒したい、とか。流れが決まっていたので事前に練習はしていたのですが、いざ本番、撮影となると、とても緊張しましたね。撮影前日に、戦う相手と念入りに打ち合わせや稽古をして、撮った動画をみんなで確認したりして、いかにかっこよく見せるかというのを意識しました。
食べることも稽古のうちを実践!
――とても迫力のある取組でした。撮影期間も長かったのですよね。
まるまる1か月ぐらい、滋賀と京都で撮影しました。大部屋で雑魚寝をしたりして、部活の合宿のようでした。親方役の渋川(清彦)さんが私たちをごはんに連れて行ってくれるんですけど、相撲をとるから運動量が増えるぶん、みんな圧倒的に食べる量も増えて(笑)。鍋の食べ放題とかで思いっきり食べていました。渋川さんはそれをにこやかに見ていてくださったので、本当に親方みたいだなって思いました。
――体重、増えました?
みんな増えたと思います。撮影前は、スタミナをつけたり筋肉になりそうなもの、鶏肉とかを選んで食べていました。撮影中は、ごはんは食べたいだけ食べていました(笑)。新潟出身で白いごはんが大好きなので、ごはんを我慢しなくていいっていうのは嬉しかったです。でも、運動量がすごくて、食べても体重が減ってしまうこともあって。最初のうちは食べて、動いて、動くからまた食べたくなるんですけど、それに慣れてきたら食べても体重が減ってしまう。で、そのうち食べたくなくなって『今日はアイスキャンディだけでいい…』っていうときもありました。でも体重が減ってしまうので、意識して食べるようにしていました。
――まさに、食べることも稽古のうち、ですね! 花菊を含め、女相撲の一座はみなさんとても魅力的でした。木竜さんがこの映画でここを見てほしい、というのはありますか?
女性が相撲をとるっていうのは、馴染みがない方が多いと思います。精神的に強い女性が登場する映画というのはよくあると思いますが、女性が肉体をぶつけあって戦うという映画は、ここ最近なかったと思うので、体を張って戦うところを、ぜひご覧いただきたいです!
――本当に素敵でした! 木竜さんのすり足、お見事でした。
嬉しいです!
新潟出身の力士を木竜さんにご紹介♪
――ところで、この作品にかかわるまで、大相撲を見られたことは?
祖父がテレビで見ているときは一緒に見ることはありました。でも、自分から積極的にというのはなかったですね。
――木竜さんは新潟県ご出身ということですが、この方、ご存知ですか?(といって、『DVDマガジン 大相撲名力士風雲録 第22号』を取り出す担当編集)豊山さんといって、新潟出身で大関にまであがられ、相撲協会の理事長もつとめられた方です。
あ! 新潟にドライブイン豊山というのがあります! その隣のケーキ屋さんによく行っていました。
――時津風部屋の先々代の師匠です。今も時津風部屋に伝統の四股名をついだ豊山関がいますよ。新潟市出身です。よかったらこれ、お持ちください。(といって、豊山関の大相撲カードを手渡す)
ありがとうございます!(豊山関の情報を読みながら)平成5年生まれ! 兄と同い年です。応援したいですね。
――豊山関は、新潟県出身として15年ぶりに入幕したので注目されています。木竜さんにぜひこのカードをお渡ししたくてお持ちしました。
この作品に携わってから、街でときどきお相撲さんを見かけると、かっこいい!って思って注目しちゃうんです。私が相撲部で経験した以上のハードな稽古を大相撲の力士の方たちは積まれているわけで、それで日常も着物を着てって本当にかっこいいな~って思います。
――花菊も、相撲に取り組む真摯な姿勢がとてもかっこよかったです! 今日はありがとうございました。
〜編集部より〜
上映時間は3時間を超えますが、あっという間に感じるパワーあふれる作品でした。女力士たちの相撲っぷりはもちろん、おすもうさん編集部的には、若錦を演じる仁科あいさんの相撲甚句と“いっちゃな節”にも感動! ぜひ劇場でご覧ください。
© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎
「自由」を求めてそれぞれの闘いに挑む女力士とアナキスト
大正末期、関東大震災後の日本。軍部が権力を強める中で、民衆は貧困と閉塞感にあえいでいた。ある町に女相撲一座〝玉岩興行〟がやってくる。そこに集うのは、夫の暴力に耐えかねて家出をした新人力士の花菊(木竜麻生)や、元遊女の十勝川(韓英恵)などワケありな女たちばかり。興行初日に観戦したのは〝格差のない平等な社会〟を標榜するアナキストグループ〝ギロチン社〟のメンバー。女力士たちの熱気あふれる相撲に魅せられたメンバーは、彼女たちと交流を深めていく。
『菊とギロチン』
監督/瀬々敬久 脚本/相澤虎之助、瀬々敬久 出演/木竜麻生、東出昌大、寛 一 郎、韓英恵ほか 配給/トランスフォーマー
7月7日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
公式サイト http://kiku-guillo.com
『菊とギロチン』公開を応援するクラウドファンディング実施中!
【実施期間】2018年4月18日〜7月6日
↓
https://motion-gallery.net/projects/kiku-guillo
予告編はこちらから!
↓
Hair&Make:Chihiro Tsurunaga
Styling:TAKAO(D-CORD)
Photo:Kaori Murao