西岩部屋~平成30年“たたき上げ”の第一歩~その①

九州場所も終わり、平成30年もあともう少し。今年の大相撲といえば、名古屋場所での御嶽海関の優勝、九州場所での貴景勝関の優勝と、若手の台頭で盛り上がりました。そして、相撲部屋にも期待の若手が登場した年でもあります。2月1日付けで元・若の里の西岩親方が西岩部屋を新設。そこで、今回は西岩親方と西岩部屋について大特集をいたします! 西岩親方とブログが話題のおかみさんのツーショットインタビュー、西岩部屋と関わりのある方々のインタビューも交えて、全6回シリーズでお届けします!

西岩部屋 平成30年2月1日誕生!

(西岩親方とおかみさんの古川彩さん)

第1回は、師匠の西岩親方のご紹介から。23年半の力士生活をふり返った著書「たたき上げ」のお話を中心に伺いました。

23年半の現役人生を一つの本にまとめたかった

-まずは、この本を出版する経緯から。
西岩親方:私の現役生活は23年半と長くて、その間にいろんなことを経験しました。それを覚えている範囲で一冊の本にして、現役人生を形にしたかったんです。そして、それを出すなら、引退相撲に合わせて出したいと思いまして。

-編集としてクレジットされている、相撲ジャーナリストの荒井太郎さんの勧めもあったのでしょうか。
西岩親方:そうですね。ただ、こうしたスポーツ選手の本なんかはゴーストライターが実際には書いていることが多いと思うのですが、私はどうしても自分で書きたかった。出す以上は自分で書きたいという思いがありました。

-おすもうさんって日記みたいなものを書かれている方も多いと聞きますが、ベースになったものがあったんですか?
西岩親方:いや、日記は書いてないです。

-えっ! じゃ、本当に記憶を頼りに?
西岩親方:はい。思い出しながら。

-結構詳細ですよね?
西岩親方:まず、子どもの頃から引退するまでのできごとを箇条書きにしていったんです。入門の話とか、師匠との出会いとか、ケガをしたときのこととか、輝とのこととか。そしたら40項目くらいできて。全部で200ページくらいと聞いていたので、1項目あたり5ページ。この5ページを目指して、ひとつずつ思い出しながら書いていきました。

-読みやすくて、あっという間に読んでしまいました!
西岩親方:そうですか。荒井さんにはいろいろとアドバイスをいただきました。たとえば、読んだ人の頭に景色が浮かぶように、まわりの情景を書きこんでいくといいといわれて。冒頭の部分「津軽平野の中心部。あたり一帯がリンゴ畑と田んぼの~」とか、上京するときのシーンも飛行機の窓の外の景色を「ミニチュアのように小さくなった故郷の雪景色は厚い雲に覆われ~」とか。そういった知識を得ながら書き始めました。

-原稿は手書き派ですか? パソコン派ですか?
西岩親方:パソコン派です。

-現役中もパソコンやられてたんですか?
西岩親方:ほとんどやっていないです。遊び程度ですね。

-これを書くためにやられた?
西岩親方:そうですね。でも、ブラインドタッチっていうんですか(笑)? 見ないで打つのはできないですよ!

-いやいや。それでもこれだけの原稿を書きあげられたのはすごい! 執筆期間はどれくらいでしたか?
西岩親方:半年くらいです。

-早い!
西岩親方:早いですか?

-早いです! しかも絶対引退相撲に間に合わさないといけないというプレッシャーもあるのに!
西岩親方:でも、小説を書いているわけではないですし、自分の経験を思い出して書いているだけなので結構スラスラいきました。

-文才があります。最初に挙げられた40項目は全部入りましたか?
西岩親方:入りましたね。

-後から、これも入れたかった……と思った項目はありましたか?
西岩親方:輝の話は多かったんですが、稀勢の里や髙安の話があまりなかったので、いろんな人に指摘されたっていうのはありました(笑)。

-輝関との話はみなさん感動したとよく耳にします。ところで、このタイトル「たたき上げ」は親方のアイデアですか?
西岩親方:そうですね。荒井さんと相談して。自分にぴったりなのは何かと考えていて、「たたき上げの誇り」とか、ほかにも全然違う候補もあったんですが、最終的には一番シンプルな「たたき上げ」でいこう!っていうことになりました。

-いいタイトルですね。
西岩親方:そうですか。とくに横綱になったわけでも、大関になったわけでもないし、自分にとって一番のよさは、15歳で何も知らないでこの世界に入って、強くなるだけじゃなくて、雑用もやって、ちゃんこの作り方も覚えて、下積みを経て関取になったというのがありますから。社会に出れば中卒の学歴しかないので笑われてしまうんですが、相撲界では、逆にこの中卒の学歴が一番の誇りだと思っているんです。

-相撲界では一番のキャリアですものね。

 

表紙の写真は誰が撮ったかわからない!?

-最初のグラビアや中面にもお写真が使われていますが、このセレクトも親方が?
西岩親方:はい。全部僕が。

-どういう写真から選ばれたんですか?
西岩親方:基本的に自分が持っているものから、ぜひみなさんに見ていただきたいっていうのを選びました。これとかもね……(アルプスの草原で寝転がっている写真のページを広げて)。

↑『たたき上げ』大空出版より

-お! これはスイスですね~。
西岩親方:そうです。家内と一緒に(にっこり)。

-いい写真です! 新婚旅行ですね。
西岩親方:これは家内が撮ったんですけどね(笑)。

-おかみさん、写真お上手ですよね。ブログとかでも撮られてますけど。
西岩親方:そうですかね(照)。

-はい。お上手です! あと、表紙のお写真は?
西岩親方:これは現役中の写真なんですが、誰が撮ったかわからないんです。

-???
西岩親方:「たたき上げ」というタイトルは決まったんですが、表紙の写真でいいのがなかなかなくって……。これは、ネット上で探したんです。

 

-え~! それで、誰が撮ったかわからないんですね!
西岩親方:はい。名古屋場所の宿舎なんですが、ファンの方がたまたまご自身のブログにあげておられたんです。「たたき上げ」というタイトルにぴったりだと思って、出版社の方がどうにかこうにか連絡を取ってくださって、使用許可をもらいました。だから私はどんな方が撮られたのか知らないんです。

-そんないきさつがあったとは……。
西岩親方:だから、ちょっと画質が粗いでしょ。

-それがまた雰囲気があっていいです!
西岩親方:そうですか。

-でも、その方も喜ばれてる思います!
西岩親方:そうだといいですね。

そして、さらに、このタイトルの字は親方が書かれたとのこと。すごすぎます! 実は親方は字だけではなく、絵や陶芸もお上手。そんな親方の多才ぶりは次回お届けいたします。

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photo/Tomoko HANAI

西岩部屋
東京都台東区寿4-4-9
稽古見学は自由(8:30~10:30頃)
詳細・お問合せはHPより

西岩 忍にしいわ・しのぶ)
本名・古川 忍(こがわ・しのぶ)
昭和51年7月10日生まれ、かに座、O型、青森県弘前市出身。
弘前市立第二中学校卒業後の平成4年、元・隆の里の鳴戸部屋に入門。「古川」のしこ名で同年三月場所で初土俵。平成9年十一月場所の十両昇進を機に「若の里」に改名。平成10年五月場所で新入幕を果たす。同場所で敢闘賞を受賞し、平成13年一月場所で関脇に昇進。平成27年九月場所で引退、年寄「西岩」を襲名し、田子ノ浦部屋の部屋付き親方として後進の指導にあたり、平成30年2月1日付けで独立、「西岩部屋」を開く。
プライベートでは、平成16年に結婚、引退後にスイスへ新婚旅行。平成29年に第一子が誕生。

さて、今回は特別に「たたき上げ」の版元側スタッフとして編集を担当された大空出版『相撲ファン』編集長の安田洋明さんにも制作秘話を伺いました。

安田洋明 やすだ・ひろあき
大空出版が発行する相撲雑誌『相撲ファン』の編集長。『たたき上げ』のほか、同社の人気シリーズ「歴史 ポケットスポーツ新聞」などの編集も担当。子どもの頃からのマニアックな相撲ファン。

西岩親方はモノ作りの文脈を理解されている方

-一緒に本を作る作業をされていて、西岩親方の印象は?
安田編集長:原稿はもちろんですが、表紙や写真一枚一枚に至るまで、「任せますよ」というのは一切なくて、すべてこだわりをもって作られていましたね。

-細かいところまでチェックをされた感じですか?
安田編集長:例えば、「語尾がちょっと違うな…」とか、細かいところまで気にされていました。「神経質というより、配慮が行き届いている」という印象です。

-それだけ思いが強い一冊だったのでしょうか?
安田編集長:「自分の人生を振り返った作品」という感覚が強かったのではないでしょうか。親方のご自宅の応接室に入られました?

-はい。取材のときに。
安田編集長:三賞の楯やトロフィーなどが飾ってあるショーケースにこの本も飾っていただいていて。おそらく、相撲人生23年半の集大成という意味が込められた一冊なんでしょうね。それを見たとき、我々としても「お手伝いできてよかった!」とうれしく思いました。

-親方は本を出されるのは初めてだったわけですが、そのあたりはどうでしたか?
安田編集長:ときどき「あれ? この方はアスリートなんだよな?」って思うことがあるほど。つまり、モノ作りの文脈をすごく理解されている方でしたね。文章を書いたり本を作ったりされたことがないと、わからないことっていっぱいあると思うんです。普通はそこからご説明する必要がありますが、親方の場合はそれがないんですよ。察しがいいというか。

-親方、クレバーな印象ですもんね。
安田編集長:はい。それと、親方としての在り方などにもいえますが、昔ながらのいいところを継承しつつも、新しいことに対する興味もすごくおもちですね。自分が専門ではないことを、専門の人から学ぼうとする姿勢とか。

-インタビューで、編集の荒井さんからアドバイスをもらって「新しい知識を得ながら書いていった」とおっしゃっていて、新しいことを吸収する柔軟な頭をおもちだなと、私も感じました!
安田編集長:本の中で「稽古場では笑顔は厳禁であるべきだと思いますが、気持ちを高めて気分良く稽古場に入ることは重要ではないかと思います」と書かれていますが、このあたりのバランスも絶妙なんだろうなと。古くからの伝統は大切にするけど、力士を育てるために必要なものも積極的に取り入れる姿勢は貪欲。

-たたき上げで15歳で角界に入って、洗濯板で洗濯させられるような超厳しい親方(元・隆の里の鳴戸親方)の元で育って、そんな先進的な考え方ができるってすごいですよね。
安田編集長:でも、もともと鳴戸親方もそういう方だったんじゃないでしょうか。食事の大切さや筋力トレーニングを取り入れたりと、ご自分なりの理論を作り上げた方っていう印象がありますよね。

-なるほど。今、具体的に本の一節をご紹介いただきましたが、他にも好きなところやぜひ読んでほしいところはありますか?
安田編集長:引退後、スイスに新婚旅行に行かれたときの部分で「子どもの頃からアルプスの少女ハイジに憧れていました」っていうところも(笑)。ストイックな部分とクレバーな部分と、そしてキュートな部分がバランス良く、すべてが魅力的ですよね。

―なんか、いいですよね~。表紙もいいですね! この題字は西岩親方の直筆なんですね。
安田編集長:そうなんです。タイトルの『たたき上げ』って言葉の強さを出したかったので、毛筆がいいなと思っていて、親方は字がお上手だったので「ぜひ書いてください!」ってお願いしました。

-親方の人となりがにじみ出ている字ですよね。
安田編集長:はい。(本の内容を知りたくない方はご注意!)この本の最後は、親方として第2の相撲人生を歩まれるにあたって「今はとてもワクワクしています!」という文章で終わっています。今、稽古見学に行かせていただける機会もありますが、この本の続きを実際に見ることができていることが、すごくうれしいし楽しい。親方やおかみさんのブログを拝見していても、その文面がこの本の後に続いていると思うと本当にうれしいですね。

まだまだ始まったばかりの西岩部屋。稽古は誰でも自由に見学できます。ぜひ、この本を読んで、西岩親方の“ワクワク”を共に体験してみてください!

 

 

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