今年平成30年の2月1日に日本相撲協会で独立が承認され誕生した西岩部屋。更地の状態から、親方がこだわって建てた真新しい稽古場は浅草にあります。今回は稽古場にお邪魔して、親方の指導方針などを伺いました!
【西岩部屋データ】
師匠……
西岩 忍(元関脇・若の里、青森県弘前市出身、昭和51年生まれ、かに座、O型、平成4年三月場所初土俵、師匠1年目)
力士……
序二段 若中谷 晃(福岡県八女郡広川町出身、平成12年生まれ、牡羊座、B型、平成30年三月場所初土俵)
序二段 若佐竹 風汰(大阪市平野区出身、平成10年生まれ、ふたご座、A型、平成29年三月場所初土俵)
序二段 若野口 龍星(埼玉県深谷市出身、平成12年生まれ、いて座、A型、平成29年七月場所初土俵)
序二段 若松永 輝透(大阪市平野区出身、平成14年生まれ、いて座、B型、平成30年三月場所初土俵)
序ノ口 若小菅 広樹(茨城県土浦市出身、平成12年生まれ、水瓶座、B型、平成30年五月場所初土俵)
序ノ口 若藤岡 耕司(大阪府東大阪市出身、平成14年生まれ、さそり座、A型、平成30年三月場所初土俵)
番付外 若小山 源太(青森県弘前市出身、平成14年生まれ、牡羊座、O型、平成30年五月場所初土俵)
(番付は平成30年11月現在のもの)
おかみ……
古川 彩(京都府出身、A型、平成16年親方と結婚、おかみ1年目)
平成30年2月1日 相撲協会より西岩部屋の独立が承認され、田子ノ浦部屋より弟子2名(若佐竹、若野口)とともに独立。
平成30年3月場所 新弟子検査で3名(若中谷、若松永、若藤岡)の新弟子が合格・入門。
平成30年4月30日 西岩部屋の土俵開き。横綱・稀勢の里が土俵入りを行う。
平成30年5月場所 新弟子検査で2名(若小菅、若小山)の新弟子が合格・入門。
平成30年8月 部屋開き以来、親方初の巡業参加に若野口が付け人として同行。
筋力のために筋トレしているなんてまだまだ素人
―今日は稽古を見学させていただきました、ボールを持ってのすり足など他の部屋では見られない稽古がありましたが。
西岩親方:すり足だけでも何種類もやらせています。すり足だけでなく、稽古でやっていることはすべて自分が経験して、いろんなことをやってみて、必要だと思ったことをやらせています。なぜそれをやるのか、彼らはわからないかもしれませんが、「私が勉強してきたことを教えているんだから、やれと言われたことをやりなさい、絶対に間違ったことは教えていないから」と、言っています。
―他に筋トレも取り入れられていますね。
西岩親方:はい。それも必要だと思っています。昔は筋トレをやると筋肉が硬くなるといわれて、四股・テッポウ・すり足だけをやればいいといわれていましたが、今はそういう時代ではありません。最終的に技術が同じだったら力が強い方が絶対に勝ちます。でも、筋トレをやる本当の意味は筋力をつけることではないんです。
―え、そうなんですか?
西岩親方:はい。何のために筋トレをやっていますか? と聞かれて、筋力を鍛えるため、力が強くなるためなんて答えているようじゃ、素人です。
―それ、親方の著書で書かれていたことですね。
西岩親方:筋トレは精神を鍛えるものです。私も最初は筋力をつけるためにやっていました。でも30歳を過ぎたくらいから気づいたんです。その頃何が一番怖かったかというと、精神の衰えです。技術は一度身につけると、体が覚えていますから忘れません。でも、今日勝てるかなと不安になることがあり、それが怖かった。それを払拭するには自分を追い込むしかなかったんです。
―場所中もジムに行かれてましたね。
西岩親方:場所中は疲れるので、マッサージしたりしてケアするほうが体にはいいのはわかっていましたが、くたくたになっても自分を追い込むんです。そうすれば、これだけ俺はやったんだって自信がついて、次の日土俵に上がったときに「負けるわけにはいかない」って気持ちを作れるんです。ある種、爆発力というか、ハングリーさをつけるためにトレーニングしていました。
―若い力士にとってはどんな精神を鍛えるのでしょうか?
西岩親方:たとえば、相撲をやっているとガマンできるかできないかで勝負を大きく左右されることがあります。重いものを上げるときは、こらえて時間をかけて上げるでしょう。このときにガマンする精神をつくるんです。苦しくなって握力がなくなってきても、そこでガマンできるかどうか。
―筋トレの本当の意味はお弟子さんに言ってますか?
西岩親方:言ってます。でも、そこまで理解しているかどうかはわかりません。
―やっていくうちに自分で気づくときがくる?
西岩親方:いずれわかると思います。私もわからないことがいっぱいありました。今、師匠という立場になって、あの頃親方が言ってたことってこういうことか、って思うことはいっぱいありますね。
―たとえば?
西岩親方:自分で相撲取ってるほうが楽だってよく言ってたんです。お前らの相撲見てると疲れるって(笑)。今はよ~くわかりますね。
―稽古場でも本場所でも?
西岩親方:ええ。でも本場所は特にそうです。今は審判ですから土俵下で見ててドキドキですよ。
―声が出そうになるとおっしゃってましたね。
西岩親方:そう。もっと前へ出ろとか、まわしとれ!とか言いそうになります(笑)。
―そこは親方が、ガマン、ですね。
西岩親方:そうです。あと、自分が勝ったときより、弟子が勝ったときのほうがうれしいですよ。特に、うちの部屋はたたき上げでまっさらのときから育ててますから。絵と一緒ですよね。真っ白なキャンバスを買ってきて一から絵を描くように、一から相撲を教えてますから、少しずつできるようになっていく成長がよくわかるんです。やりがいがありますよ。
―毎日が進歩の積み重ねですもんね。
西岩親方:そうです。相撲じゃないところでもね。人間的にも成長していく姿が見られれば、こんなにうれしいことはないですね。
やる気のある子が強くなる
―スカウトは行かれるんですか?
西岩親方:行きます。
―どういうところを見て、この子はいいなって思われるんですか?
西岩親方:やっぱりやる気ですね。でもね、いつもこう答えていたんですが、それを髙安がくつがえしちゃった。5回も逃げてますからね(笑)。稀勢の里は10年後輩、髙安は13年後輩で、2人とも本当にいいものをもって入門してきたんです。稀勢の里はすごくやる気があった。髙安はまったくない。やる気がある子が強くなるって言ってたのに髙安がくつがえしちゃった(笑)。
―ま、髙安関は例外ということで。鳴戸親方は非常に厳しいイメージですが、鳴戸親方の言葉や指導法で引き継いでおられるものってありますか?
西岩親方:言葉というとちょっと出てこないですね。ありすぎて(笑)。自分は鳴戸部屋で育ちましたし、自分にとっては師匠は1人なので、教わったことはそのまま引き継いでます。夕方4時にみんなで部屋の掃除をするとか、9時半を門限消灯にしているとか。あとは、ちゃんこの作り方とかいろんなことをまねしてやっています。
―親方が入門された当時、鳴戸部屋はまだ新しい部屋でしたね。
西岩親方:はい。3年目でした。なので、親方がまわしをつけて稽古場で胸を出していたり、ちゃんこ場で教えながら一緒に作ったり、今自分が同じようにやってますね。
―鳴戸親方といえば糖尿病で食事にとても気を遣われていたと聞きますが。
西岩親方:あそこまではできませんね。でも、白米に玄米を混ぜてみたり、いろいろ考えてやっています。やっぱり食事が一番大事ですから。
―あと、鳴戸部屋は稽古が長いのでも有名でしたが。
西岩親方:そうですね。でもそれがあったから今があるので、私にはあれがよかったんじゃないかと思います。まぁ、それが耐えられなくて辞めていく人もいましたが。
―5回逃げたりね。
西岩親方:(笑)だって、朝4時からですよ。
―それはすごい!
西岩親方:他の部屋は10時すぎには終わってるのに、うちは12時前に終わったことなんかなかったですし、それから関取衆のごはんで、自分たちはその後。『笑っていいとも!』なんて見たことなかったですよ(笑)。昼寝もほとんどできなかったですし。昼寝したかったら強くなれと言われました。
―番付社会ですね。
西岩親方:強くなったら何でも手に入る世界です。師匠によく言われたんですが、序二段は序二段の生活をしなさい。三段目は三段目の、幕下は幕下の、十両は十両の生活。序二段でいきなり幕下の生活をしようと思うな、と。今そのまんまうちの力士たちに言ってます。
鳴戸イズムを継承しつつも、新しい考え方を取り入れた西岩親方なりの指導方法で、日々成長を続ける西岩部屋の力士たち。その稽古はだれでも自由に見学ができます。次回は親方とおかみさんの二人三脚物語、そして、西岩部屋を応援するあのおすもう人の登場です!
photo/Tomoko HANAI
西岩部屋
東京都台東区寿4-4-9
稽古見学は自由(8:30~10:30頃)
詳細・お問合せはHPより
西岩 忍(にしいわ・しのぶ)
本名・古川 忍(こがわ・しのぶ)
昭和51年7月10日生まれ、かに座、O型、青森県弘前市出身。
弘前市立第二中学校卒業後の平成4年、元・隆の里の鳴戸部屋に入門。「古川」のしこ名で同年三月場所で初土俵。平成9年十一月場所の十両昇進を機に「若の里」に改名。平成10年五月場所で新入幕を果たす。同場所で敢闘賞を受賞し、平成13年一月場所で関脇に昇進。平成27年九月場所で引退、年寄「西岩」を襲名し、田子ノ浦部屋の部屋付き親方として後進の指導にあたり、平成30年2月1日付けで独立、「西岩部屋」を開く。
プライベートでは、平成16年に結婚、引退後にスイスへ新婚旅行。平成29年に第一子が誕生。