おすもうがテーマの絵本は数々ありますが、アリス館から2019年12月に発売されたのは、主役がなんと呼出しさん!おすもうが好きで、なかでも呼出しさんが大好きな少年が、相撲界に入門し、少しずつ仕事をおぼえていく成長物語です。今回は、文を担当された中川ひろたかさんと作画の石川えりこさん、そして出版元のアリス館担当者、末松さんにお話をうかがいました。プレゼント情報もチェック!
『おれ、よびだしになる』
文・中川ひろたか 絵・石川えりこ(アリス館)
1,400円+税
主役は、ある呼出しさんがモデル
――力士が主役の絵本はたくさんありますが、呼出しさんが主役って新鮮です。この企画はどうして立案されたんですか?
中川さん(以下、中):彼女(末松さん)が、おすもうの本をつくりたいって言って。3年ぐらい前かな?
末松さん(以下、末):中川さんは、おすもうの絵本をすでに出されていて(「スモウマン」講談社)、それは力士が主役なので、違うアプローチをしたいなとおっしゃって。
中:それなら裏方さんだろうなっていうのはありましたね。
末:最初は、呼出しさんだけでなく、床山さんや行司さんなど、裏方さんの仕事を全部紹介する〝観察絵本〟みたいなものを考えていました。そこで、相撲に詳しい方にお話を聞こうと思い、どす恋花子さんにご協力いただいたんです。
中:「スモウマン」を発売したときに、取材していただいたご縁です。そしたら、ある呼出しさんのストーリーを伺って「これだ!」ってなったんです。
――絵本を拝読して、あ、あの呼出しさんのことだなってわかりました(笑)。
末:おすもうファンの方、すごいですよね。読者カードにも、あの呼出しさんのことですね、ってきてました。
中:某巡業でその呼出しさんをご紹介いただき、ちょっとお話を伺いました。で、相撲見ながらその日じゅうに、この本の原稿を書き上げちゃったんです。
――ええ!!!すごい!!!
中:ストーリーの前半は、ほとんど彼のインタビューそのまんまですよ。
石川さんと相撲の不思議な縁
――その後、石川さんに作画をお願いした経緯を教えてください。
末:この絵本は、呼出しさんが大好きな少年の話ですが、入門後も描いているので、それは年齢的には高校生なんですね。少年から青年に移行しているとき。それを子ども向けの絵本にするときに、どう見せたらいいかっていうのを考えました。主人公の気持ちだったり、見え方=構図だったり、そういうのがとても大事だなって。石川さんの作品は、前から大好きだったのですが、登場人物の気持ちを絵や大胆な構図で伝えるのが、とても上手な方だな、と思っていたのでご依頼しました。
――石川さんは、このお声がかかったときは、どう思われましたか?
石川(以下、石):私、じつは昔、日本相撲協会のポスターを描いていたんです。
――えええええ!それは末松さんはご存知だったのですか?
末:知らなかったんです…
石:知ってらしてのご依頼だと思ったんですけど、違いました(笑)。でも私、相撲にはご縁があって。親族のお寺が福岡にあるんですが、九州場所のとき、ある部屋の宿舎だったこともあるんです。私もちゃんこ鍋をごちそうになったこともあります。
絵を担当された石川えりこさん。
――それは運命ともいえますね!このお話を描くにあたって、一番大変だったことはなんですか?
石:人(観客)をいっぱい描かなくてはいけないところですね(笑)。お客さんのなかに、知り合いに似せた人を混ぜたりして、描くのに飽きないようにしていました。
――絵本のなかに、黒1色のところとカラーのところが出てきます。
石:相撲って、色が鮮やかなイメージがあるので、全部に色をつけてしまうと鮮やかさが際立たないかなと思いました。
――呼出しさんの日常生活はモノクロで描かれる一方で、本場所の様子は一部に色がついています。非日常感があって気持ちがアガりますね。印象に残っている場面はありますか。
石:人物の背中を描くのがすごく好きで。
中:最後の横綱の背中、いいよねぇ。
石:それから主人公の着物の色は、成長するにつれて、少しずつ濃くなっているんです。
――(ページをめくり、見返しながら)ほんとだ!!最後はとっても鮮やか!呼出しとしての自分の個性が出てくる、という意味にも受け取れます。
中:成長だよね。成長を描くというのは、石川さんがずっとおっしゃっていました。絵本の絵描きさんは、時間軸をものすごく意識しているというのを聞いたことがあります。
石:時間軸を気にしないと、ベタッとしたおもしろみのない絵になってしまうんですよね。
文を担当された中川ひろたかさん。
おすもう大好き少年のリアルな成長物語
――一番最初の5歳の顔と、最後の青年の顔。「大人になったなぁ」と読んでいるこちらが感慨深くなります。この本を製作して、これまでとおすもうを見る目が変わったりしましたか?
中:お話を聞いた呼出しさんのこと、いっつもテレビで探してしまいますね。見つけると「あ!いたいた!」って思います。
石:私は間違った描き方をしていないかなって、ちょっとドキドキしています。
中:この本の主人公は、小さいころから呼出しさんになるって心に決めて、中学を卒業して実際に入門し、相撲界で生きていきます。一般的には、なんとなく高校に行って、なんとなく大学に行って、なんとなく就職するっていう人が多いと思うんだけど、そうじゃない生き方っていうのがあるんだよっていう提示になるかなって思いますね。子どもたちが読んで、将来の指針になるかもしれないですよね。
末:呼出しさんというめずらしい仕事の絵本ではあるんですが、一方で普遍性もある物語だと思っています。大相撲だけじゃなく、どんな仕事でも、いろんな人の力が合わさって成り立っていますよね。そういうメッセージにもなるかな、と。
石:「呼出しさんになるよ」って子どもが言って、許してくれる親御さんもすごいですよね。
中:親御さんもうれしいと思うよ。テレビにいっぱい出てくるんだもん。
――石川さんと中川さんが、もし相撲界に入るなら、やってみたい職業はありますか?
石・中:洋服は着ていたいな(笑)
中:お土産売る人!
石:太鼓はたたいてみたいですね。
――最後に、どんな方に読んでほしいですか?
石:子どもたちですね。おすもうが好き、というわけじゃなくても、こういう仕事があるんだって思ってもらえたらうれしいです。
中:5歳のときに憧れた職業に、実際について、その世界でいきていく。ちょっとした出世物語、成長物語ですよね。そしてなんといっても、石川さんのセンスあふれる絵!いろんな角度から相撲の様子が描かれていて、本当にすごいなって思います。
石:少年が、みんなに見守られて成長していく様子をご覧ください。
ーーありがとうございました!
中川ひろたか(写真左)
1954年生まれ。元保育士。元バンド「トラや帽子店」リーダー。「みんなともだち」「世界中のこどもたちが」「にじ」など、たくさんの子どもたちに歌われている。令和元年、新バンド「ヒネるズ」結成。『さつまのおいも』で絵本作家としてデビュー。『ないた』(金の星社)で日本絵本大賞受賞。その他の作品に「ショコラちゃん」シリーズ(講談社)、「こぶたのブルトン」シリーズ『ぼくはうちゅうじん』『うみのそこたんけん』『ともだちになろうよ』『ぼくたちともだち』(アリス館)など多数。最新刊に『ウォッシュバーンさんがいえからでない13のりゆう』(文溪堂)、『ぼくたちのきせき』(鈴木出版)がある。
石川えりこ(写真右)
福岡県嘉麻市生まれ。デザイナーを経て、フリーのイラストレーター、絵本作家となる。幼少期の体験をもとに描いた『ボタ山であそんだころ』(福音館書店)は、2015年に第46回講談社出版文化賞および2017年に台湾でOpenbook再佳童賞を受賞。主な著書に『あひる』(くもん出版)、『てんきのいい日はつくしとり』『しぶがき ほしがき あまいかき』(福音館書店)、『流木のいえ』(小学館)、『こくん』(童心社)、『かんけり』『とねりこ通り三丁目 ねこのこふじさん』(アリス館)などがある。読売新聞にて「ばあさんは15歳」(作・阿川佐和子)連載中。