相撲博物館へ行こう!

平成30年の幕開けを飾る一月場所は、栃ノ心関の初優勝で幕を閉じました。
おすもうが終わってしまったら国技館に用事はない、なんて思ったら大間違い。国技館には、本場所以外にも訪れるべき場所があるのです。それは、正面玄関右にある「相撲博物館」。年に6回の企画展を開催し、ほかでは見ることのできない、貴重なおすもう資料や美術品などを目にすることができるんです。今回は相撲博物館で学芸員を務める中村史彦さんに、その成り立ちと展示のみどころなどを伺いました。

相撲博物館は無料で公開されています。

開館日などの詳細は日本相撲協会のホームページ

初代館長は相撲好きで知られた旧姫路藩の当主

―相撲博物館はいつ開館したのでしょうか?
現在の両国国技館の前身である蔵前国技館が開館した昭和29年に同時に開設されました。
初代館長に就任したのは、酒井忠正で、旧福山藩(備後)最後の藩主・阿部正桓の次男として生まれ、旧姫路藩酒井家の養子となって、明治維新以降は貴族院議員や農林大臣を務めた人です。とにかく相撲が大好きだったそうです。まぁ、元殿様ですから、お金があったんでしょうね。相撲に関するあらゆるものを収集していたんです。そこで、その膨大なコレクションをもとにこの相撲博物館がつくられたというわけです。

 

―どれくらいコレクションしていたんですか?
詳細を数えたことはありませんが、現在の収蔵点数が約3万点で、その約半数は酒井さんのコレクションになるんじゃないでしょうか。

―へぇ~。それはすごいですね。でも残りの半数は、開館後に収集したものなんですね。
はい。番付なんかは、自然と毎場所増えていきますし、寄贈を受けたりします。錦絵などはオークションでいいものが出れば買うこともあります。目録がくれば全てチェックしていますよ。

―古いものだと、どの時代のものがあるのでしょうか?
江戸の中期ですかね。

―あ、そんなものなんですか……。平安時代の相撲節会とかのものって残っていたりしないんですか?
そんなに古いものは残ってませんね。たまに古墳から出た力士像とかって聞きますけど、それを除くと鎌倉時代でもあんまりないんですよ。

―さきほど、毎場所の番付とおっしゃってましたが、巻もここに収蔵されるんですよね?
行司さんが2場所毎に持ってきますね。あれは、本場所中の対戦相手や勝敗がすべて記された大事なものなんですが、どんどん増えちゃいますからね……。一応10年間保存ということで、それ以降はデジタル資料としてのみ残すようにしています。

―あんなに長いものを写真に撮るのって大変ですね!
あ、業者さんに任せてますよ。どうせ撮るならちゃんと残したいというのもありますしね。

*巻:巻物状の細長い紙に、上段に東、下段に西の力士名が番付順に書かれ、その場所の全取組結果が書きこまれたもの。これをもとに取組編成会議や番付編成会議が行われる。

―古い相撲雑誌もすべてそろってますよね。
すべてではないかもしれませんが、明治時代以降の雑誌を残しています。古いものは劣化を防ぐために、昨年デジタル化しました。

―相撲関連図書なんかもすべて所蔵されているんですか?
すべてっていうのは難しいですね。納品いただいたものは残していますけど。

―私たちの本(「裏まで楽しむ! 大相撲」KADOKAWA刊)は残していただいてますかっ!?
もちろんです。

―ホッ。「裏まで楽しむ~」の取材のときに、昔の学芸員の方のメモ書きのようなものを見せていただきましたね。
あれは、私の先輩方が調べたことや見聞きしたこと、当時起こったことなどを細かく項目別に整理したファイルですね。今では調べようがないいろんな史実が書きとめられた貴重な資料です。

―あらゆる相撲の資料が揃っているんですね。さすが。

 

2カ月ごとに独自のテーマで企画展を開催

―現在は年に6回、2カ月ごとに企画展をされていますが、これは開館当初からされていたんですか?
最初は基本的に常設で、適宜入れ替えしつつ、たまに企画展をやる程度だったようです。あるときから、テーマを決めて定期的に企画展をやるようになって、いっときは一カ月に1回テーマを変えていた時期もありました。

―それは学芸員さんにとっては、けっこうキツイですね。
ええ。それは大変なんで、2カ月に1回ということになってます。定期的にあらかじめテーマを決めて、宣伝なんかもちゃんとするようになったのは、かれこれ15年くらい前からじゃないでしょうか。

―基本的に所蔵品だけでやるんですか?
借りてくることもありますが、親方とか元力士といった関係者からですね。他の美術館や博物館からというのはほとんどありません。

―15年もやってると、相当な数の企画をされてますよね。
やってますねぇ~。でも、ダブっているテーマもあるんですよ。とはいえ、全く同じにはなりませんから、大丈夫なんです。切り口を変えてやりますから。例えば双葉山の展示は数回やっていますが、69連勝ということで当時戦った力士にスポット当てた企画があったり、双葉山の歴史を追う形でやったりという具合です。

―中村さんが知りうる限りで、一番人気の高かった展示はなんだったんですか?
昨年(2017年)の5月にやった「横綱」展はすごかったですね。

―ちょうど稀勢の里関が昇進したときでしたからね。
そうなんです。実はこの展示の企画は実現まで3年くらいかかっているんです。どうせなら新横綱が誕生したときに、と温めていた企画で、当初は照ノ富士関が上がってきていよいよかと思いましたが、ケガがあったりで……。その後、琴奨菊関、豪栄道関と大関の優勝が続いたんですけど、あともうちょっとで届かず……。その後、稀勢の里関の綱取りが続いていて、できるかな、できないかな、と気にしながら見ていたのですが、横綱に昇進したので、やっと開催することができました。

―テーマはそんなに前々から決まってるんですか?
ものによりますね。何かメモリアルな年とかだとあらかじめ決めていたりもしますし。まぁ、メモリアルはうっかり忘れてることもあるんですけど(笑)。

―学芸員の方が持ち回りで考えられるんですか?
なんとなく割り振っています。今は3人いますので、1人がやったら、次は別の人がという感じです。

―中村さんが個人的にこれはどうしてもやりたくてやったという企画は何だったんでしょうか?
2005年の9月場所のときにやった「相撲博物館蔵美術品展『相撲と芸術家』」ですね。博物館がもっている美術品で、芸術家が相撲が好きで作った作品を集めました。相撲博物館ってこんなにいいものも持ってるっていうところを知っていただきたくて。

―具体的にはどんなものが出ていたのですか?
2代目館長で彫刻家の石井鶴三のものや、前田青邨といった方々の作品ですね。小説も少し。

―え! 直筆原稿ですかっ!
あ、それはないです。本を開くということで……。夏目漱石とか相撲好きだったみたいですよ。一応、すべて検証したんです。本当に相撲が好きだったかどうか。いろんな資料でね。それで、作品があってもそうでもなさそうな人は除外しました。

―へぇー。裏をとったわけですね。あと、2016年に「力士の作品展」ってやられてたのおもしろかったです。式秀親方のビーズから書画まで多彩でしたね~。
あれはたまにやるんですよ。親方に書を書いてもらったり、絵を描かれる方も多いですから。

―書道は力士のたしなみなんでしょうか。
まぁ、昔はそうだったんでしょうね。昭和の戦後すぐくらいまでじゃないでしょうか。現代は日常的に筆を使いませんから。でも、先代の九重さん(千代の富士)はうまかったですね。あと、北の湖さんも。最近では、今の九重親方(元千代大海)もよく書くそうです。

―師匠の影響でしょうか。
それもあるんじゃないでしょうか。

 

現在開催中「明治時代の大相撲」のみどころ

―今開催中の展示について教えてください。
「明治時代の大相撲」ということで、企画したのは1年くらい前だったんですが、当初は常陸山をテーマにやろうと思ったのが始まりです。考えているうちに、明治時代の相撲について最近取り上げていないなということで、範囲を広げました。すると、たまたま今年が明治元年から150年という節目の年でした。

―明治という時代性がポイントですね。
はい。日本という国が大きく動いた時代ですし、大相撲も大きな変化があったわけです。一番大きいのは国技館ができて、相撲が屋外から屋内のものになったこと。そして、今までは興行という芸能的な側面が非常に強かったのが、スポーツとしての要素も入ってきたことです。

―そもそも、スポーツという概念が日本に入ってきたのも明治以降ですものね。
そうですね。あと、番付に初めて「横綱」という記載が見られたり、いろいろな出来事があって、そんな時代性がわかる資料を展示しています。

上から、常陸山のシルクハット、洋装の常陸山、大砲万右衛門の土俵入りの錦絵と写真。

―これは中村さんの企画ですか?
はい。

―中村さん的に一押しの展示物はどれでしょうか?
やっぱり常陸山ですかね。この人は、とても時代の先を行っていた人で、海外に相撲を広めたいと言って、弟子3人を連れてアメリカ~ヨーロッパへ行っちゃうんです。本場所を休場してね。今では考えられないですよね。

―海外公演のはしりですね。
はしりもいいところですよ。ホワイトハウスで土俵入りをやったりしたようです。その洋行のときに着用していたシルクハットが結構珍しいかもしれませんね。シルクハットは専用の箱も残っていて、本名の「Ichige」と名入りです。

―錦絵なども出ていますね。
はい。明治時代は写真も入ってきて、ちょうど絵から写真への過渡期で、両方が残っているんです。当時の写真は当然モノクロですから色がわかりませんが、錦絵と照らし合わせることで色がわかったりという発見があります。ちょうど、大砲万右衛門の横綱土俵入りのシーンは、錦絵と写真が両方残っているので、並べて展示しています。この2つが並んでいるのも見ものです。ちなみに、絵ってかなりデフォルメされているので、真実かどうかが疑わしいのですが、写真が残っていると検証できるんですよ。筋肉はかなり盛られていますが、化粧廻しなどは正確に描かれているのがわかります。

―ほー。いろんな見方が楽しめるんですね。今後はどんな企画展が予定されているんでしょうか?
5月には、雷電爲右衛門の特集を予定しています。昨年が生誕250年だったので、地元の長野で大規模な展示があって、いろいろ相撲博物館からも貸し出しをしていたんです。それが戻ってきたので、雷電展をやる予定です。

―国技館のお食事処「雷電」でコラボメニューが出たりするんですかっ!?
残念ながら、予定はないです。

―あ……。好物のメニューとか……。
まぁ、雷電の好物は酒ですよ。

―そうなんですね。でもないんですね。では、雷電のほかは……。
9月は双葉山を予定してます。没後50年の年なんで。

―あ、ちゃんと抑えてますね。メモリアル。楽しみです! 今日は企画展の裏側が覗けて楽しかったです。ありがとうございました!

<現在開催中の展示>
「明治時代の大相撲」
会期:開催中~2018年2月16日(金)
開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日:2月3日、2月12日(ただし、2月4日、10日、11日は相撲の観覧券が必要)
料金:無料

記事をシェアする

コメントは受け付けていません。