浅坂さんの「ニックネーム力士列伝」〜その2〜

伊勢ノ海部屋マネージャー・浅坂さんの新連載第2回目!

大相撲の歴史に詳しい浅坂さんが、ニックネームから名物力士を語ります。

最近では、小兵の炎鵬が「ひねり王子」といわれるなど、その取り口などからキャッチフレーズがつけられる力士も見られますが、明治〜昭和の時代は、ユニークなニックネームの力士が多数。

そこで、おすもうさん編集部がニックネーム力士を独自に分類。浅坂さんの解説と、浅坂さん私物お宝画像でご紹介します!

今回のラインナップ
【取り口編〜その2〜】
●早い!部門・・・乗り物から動物、小僧におじさん!
●鈍い!部門・・・鈍いけど強い!
●しぶとい!部門・・・くいついたら離さない!?
●華麗なる○○部門・・・華麗なる掛け技、桜色の音楽、そしてマンボ!?
●強烈!部門・・・強烈な技が代名詞に!
●おまけ

【取り口編〜その2〜】

早い!部門

猪突
山錦善治郎[関脇]
関西大学中退で角界入りしたインテリ力士の先駆者。天龍と行動を共にし、相撲協会脱退後、関西角力協会の幹部をつとめた。昭和5年5月場所には、上位陣総ナメで、全勝優勝を果たし、独自の押し相撲は「猪突」とよばれた。
やまにしき・ぜんじろう 大阪府出身、初土俵:大正6年5月場所、入幕:大正12年1月場所、引退:昭和7年1月場所

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昭和7年新興革新力士団発行絵葉書(浅坂さん私物より)

イラスト/てぶくろ星人

消防自動車
鹿島洋起一[前頭筆頭]
鋭い出足で、全盛期の双葉山を2度破った。一門の同じ押し相撲の豊嶋、関西相撲出身の桜錦とともに、双葉山攻略の小兵、押し相撲の先駆けとなった。豊嶋同様、現役中に死亡した悲劇の人でもある。
かしまなだ・きいち 茨城県出身、春日野部屋、初土俵:昭和5年5月場所、入幕:昭和13年5月場所、引退:昭和21年11月場所

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昭和14年のブロマイド(浅坂さん私物より)

 

突貫小僧&突貫おじさん
前田川克郎[関脇]/富士桜栄守[関脇]
同じ高砂部屋で関脇まで昇進した両者は、ともに「突貫小僧」の異名をとり、小兵の押し相撲で上位陣を悩ました。前田川は柏鵬にも勝った。真摯な稽古態度の富士桜は、後輩にも力士の手本と慕われ、晩年は「突貫おじさん」とよばれた。
まえだがわ・かつお 岩手県出身、高砂部屋、初土俵:昭和27年9月場所、入幕:昭和35年11月場所、引退:昭和42年5月場所
ふじざくら・よしもり 山梨県出身、高砂部屋、初土俵:昭和38年3月場所、入幕:昭和46年9月場所、引退:昭和60年3月場所

D51
黒姫山秀男[関脇]
全盛期のぶちかましは、北の湖を数度撃破した破壊力。長く審判をつとめ、若い力士にもよく声をかけ、まじめな指導ぶりで、力士に慕われた。
くろひめやま・ひでお 新潟県出身、立浪部屋、初土俵:昭和39年3月場所、入幕:昭和44年7月場所、引退:昭和57年1月場所

F1相撲
琴錦功宗[関脇]
平幕で2度優勝。初代琴錦を上回る出足で、上位陣を悩まし、「史上最強の関脇」長谷川を超えたと評価される、平成の「史上最強の関脇」との声も高い。
ことにしき・かつひろ 群馬県出身、佐渡ケ嶽部屋、初土俵:昭和59年3月場所、入幕:平成元年5月場所、引退:平成12年9月場所

鈍い!部門

分け綱
大砲万右衛門[第18代横綱]
鈍く慎重な相撲っぷりから引き分けが多く、9日間引き分けたという別名「分け綱」。明治の時代を彷彿とさせ、常陸山とは7回引き分け、横綱小錦との映像も残っている。身長194㎝、当時の大巨漢力士として抜きん出ている、巨人横綱だ。
おおづつ・まんえもん 宮城県出身、尾車部屋、初土俵:明治20年1月場所、入幕:明治25年6月場所、引退:明治41年1月場所

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明治38年、回向院での土俵入り写真(浅坂さん私物より)

鈍州
高見山酉之助[関脇]
栄えある第1回優勝掲額者。動きの鈍さから「仙台鮪」とも呼ばれたが、あまりよい意味ではないらしい。相撲は実力者で、さしずめ「ミスター1分明治版」か。当時としては、絶大な「お腹」を誇っていた。
たかみやま・とりのすけ 千葉県出身、高砂部屋、初土俵:明治28年5月場所、入幕:明治40年1月場所、引退:大正2年5月場所

ミスター1分
琴ノ若晴将[関脇]
入門当初の琴今野時代からの有望力士。優しくおだやかな好青年だが、朝青龍をひっくり返して取り直しの大物言いがついた一番にみられるように、右上手をを取れば長い相撲で相手を苦しめ「ミスター1分」と呼ばれた実力者。
ことのわか・てるまさ 山形県出身、佐渡ケ嶽部屋、初土俵:昭和59年5月場所、入幕:平成2年11月場所、引退:平成17年11月場所

しぶとい!部門

ダニ
玉椿憲太郎[関脇]
当時でも小兵の関脇力士。食い下がるしぶとい相撲で常陸山に引き分けたり、大物力士を悩ませ「ダニ」と呼ばれた。初代梅ヶ谷の弟子で、雷部屋を牽引した。
たまつばき・けんたろう 富山県出身、雷部屋、初土俵:明治30年1月場所、入幕:明治36年5月場所、引退:大正5年1月場所

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明治40年発行絵葉書。優勝祝賀会での横綱大関三役力士のなか、左から2人目の一際小さい玉椿(浅坂さん私物より)

ピラニア
旭国斗雄[大関]
怪我や病気に負けずに、巧みな技をくり出し、しぶとい取り口から「ピラニア」と嫌がられた。相撲博士と呼ばれるほど、研究熱心な一面も。
あさひくに・ますお 北海道出身、立浪部屋、初土俵:昭和38年7月場所、入幕:昭和44年7月場所、引退:昭和54年9月場所

マムシ
栃錦清隆[第44代横綱]
エラの張った風貌からついたニックネームながら、しぶとい取り口に、食い付いたら離さないイメージが「マムシ」と呼ばれたゆえん。体が大きくなり、押し相撲を磨いて大横綱となった。栃木山〜栃錦〜栃ノ海へと、春日野部屋の技能三横綱をつなぎ、指導力にも溢れていた。
とちにしき・きよたか 東京都出身、春日野部屋、初土俵:昭和14年1月場所、入幕:昭和22年6月場所、引退:昭和35年5月場所

華やかな○○!部門

ケンケン
鳳 谷五郎[第24代横綱]
華やかで見事な掛け投げで絶大な人気を誇った横綱。「鳳のケンケン」と呼ばれたが、大関時代までのはつらつとしたイメージは、横綱になってからは影をひそめてしまった。
おおとり・たにごろう 千葉県出身、宮城野部屋→勝ノ浦部屋→宮城野部屋、初土俵:明治36年5月場所、入幕:明治42年1月場所、引退:大正9年5月場所

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大正8年ごろの巡業の生写真。太刀持は大潮、露払は藤ノ川(浅坂さんの私物より)

桜色の音楽
照国万蔵[第38代横綱]
双葉山に3勝2敗と勝ち越し、巡業でも双葉が大の苦手にしたというリズミカルな攻め口は、その色白な体と風貌から「桜色の音楽」と称された。戦中〜戦後の長い間、相撲界を支えた1人でもある。「相撲の神様」とよばれた名人・幡瀬川の薫陶を受け、前さばきもうまく、神経痛に悩まされながらも長く横綱を保った。
てるくに・まんぞう 秋田県出身、伊勢ヶ濱部屋、初土俵:昭和10年1月場所、入幕:昭和14年5月場所、引退:昭和28年1月場所

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昭和18年、新横綱のブロマイド(浅坂さん私物より)

マンボの松っちゃん
松登晟郎[大関]
若乃花と同時に大関に昇進したが、その若乃花に負けて大関を陥落した。若乃花は「心を鬼にして戦った」とコメントしている。土俵上の「くるりと回る」動きが、当時流行のマンボを踊っているようで、マンボの松っちゃんと親しみをこめて呼ばれた。陥落後も真摯な土俵態度で大衆に愛された人気大関。
まつのぼり・しげお 千葉県出身、大山部屋、初土俵:昭和16年1月場所、入幕:昭和26年9月場所、引退:昭和36年11月場所

イラスト/てぶくろ星人

豪快な技!部門

仏壇返し/45日
太刀山峰右衛門[第22代横綱]
古今史上、強さだけではNo.1ともいわれる超豪力士。常陸山の薫陶を受け、ライバル駒ヶ嶽との昇進を争い、栃木山、大錦を育てた大横綱。その勝ちっぷりは「太刀山は むごたらしくも 今日も勝ち」とよまれた。小常陸や釈迦ケ嶽は突き飛ばされてケガをし、千年川はじらし戦法で1時間以上仕切りを重ねるもあっけなく倒れるなど、逸話も多い。とくに、太刀山の呼び戻しは「仏壇返し」とよばれ、一月半(ひとつきはん)の語呂合わせから45日とも。六十歳で還暦の土俵入りをし、絵もたしなみ、富士山の絵は今でも数多く残っている。
たちやま・みねえもん 富山県出身、友綱部屋、初土俵:明治35年1月場所、入幕:明治36年1月場所、引退:大正7年1月場所

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太刀山の鉄砲の豪快さを描いたイラスト(大正6年、時事画報より)。飛ばされているのは、小常陸か、釈迦ヶ嶽か千年川か? 実際に被害にあった力士多数といわれる(浅坂さん私物より)

土俵の鬼/呼び戻し
若乃花幹士[第45代横綱]
映画にもなった、昭和の戦後、一番の大人気横綱。小部屋の悲哀と、長男を亡くす悲劇を乗り越えて横綱に昇進し、その哲学は「人間辛抱だ」と著書にもなった。「土俵の鬼」と呼ばれ、その荒技「呼び戻し」は若乃花の代名詞となった。
わかのはな・かんじ 青森県出身、二所ノ関部屋→芝田山部屋→花籠部屋、初土俵:昭和21年11月場所、入幕:昭和25年1月場所、引退:昭和37年5月場所

 

おまけ部門
ほかにも、取り口由来のユニークなニックネームが!

待った博士
響舛市太郎[関脇] 何回も待ったをすることからついたニックネーム。
ひびきます・いちたろう 石川県出身、鯨波部屋(京都)→中立部屋→境川部屋→高砂部屋、初土俵:明治15年1月場所、入幕:明治22年5月場所、引退:明治32年5月場所

バケツ
青葉山徳雄[前頭4] 水入りの相撲が多かったことから、仲間内でこう呼ばれた。
あおばやま・のりお 宮城県出身、陣幕部屋→小野川部屋→陣幕部屋、初土俵:昭和4年1月場所、入幕:昭和12年5月場所、引退:昭和19年1月場所

バンザイ三杉
大豪久照[関脇]改名前は若三杉の名でとっていた。ワキが甘いことから。
だいごう・ひさてる 香川県出身、花籠部屋、初土俵:昭和30年3月場所、入幕:昭和33年11月場所、引退:昭和42年5月場所

次回は「見た目でニックネーム編」です! 浅坂さんのお宝画像も大放出。乞うご期待!

浅坂直人

あささか・なおと 伊勢ノ海部屋マネジャー。北海道利尻島生まれ。札幌旭丘高校出身。元三段目・雪光山(昭和55年五月場所初土俵、平成4年九月場所引退)。同期の関取は栃ノ華、旭道山。相撲文化を愛し、相撲関連書籍、資料を多数所有し、専門誌の連載や講演も行う。相撲趣味の会会員。好きなアーティストはジェフ・ベック、エリック・クラプトン、アニマルズ、ザ・ショッキングブルー、日本のGSなど。

 

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