浅坂さんの「ニックネーム力士列伝」〜その1〜

伊勢ノ海部屋マネージャー・浅坂さんの新連載!

大相撲の歴史に詳しい浅坂さんが、ニックネームから名物力士を語ります。

最近では、小兵の炎鵬が「ひねり王子」といわれるなど、その取り口などからキャッチフレーズがつけられる力士も見られますが、明治〜昭和の時代は、ユニークなニックネームの力士が多数。

そこで、おすもうさん編集部がニックネーム力士を独自に分類。浅坂さんの解説と、浅坂さん私物お宝画像でご紹介します!

【取り口編〜その1】

荒々しさ炸裂!部門

怒涛の寄り
東富士謹一[第40代横綱]
入門時より双葉山に「キン坊」と可愛がられ、最後の黒星を与えて恩返しをした第40代横綱。江戸っ子初の横綱で、当時史上最重量(160kg)の巨体を預けての寄り身は「怒涛の寄り」と称され、戦後の混乱期の角界人気を支えた。

優勝6回、髷をつけたままプロレスラーとしてデビュー、力道山と組んだタッグで人気を博したが、力道山主演の映画が「怒涛の男」というタイトルであるのは、東富士のイメージを使ったか?

あずまふじ・きんいち 東京都出身、富士ケ根部屋→高砂部屋、初土俵:昭和11年1月場所、入幕:昭和18年5月場所、引退:昭和29年9月場所

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↑初めて部屋以外の大きな会場で断髪式を行った力士。場所はサンケイホール、止め鋏は力道山(浅坂さん私物より)

荒れ狂う白象
小錦八十吉[第17代横綱]
鋭い立ち合い、猛突っ張りで、21歳の新入幕から39連勝。素早い動きで、激しい取り口。色白で若く、20世紀最初の横綱力士として、人気・実力の備わった「花形力士」であった。

「荒れ狂う白象」と呼ばれた取り口とは対照的に優しい風貌で、昭和の黒船といわれた小錦(元大関)とは、同じ高砂の同名力士として印象が全く逆のなのはおもしろい。その人気にあやかり、「小錦織」という着物も売り出された。

こにしき・やそきち 千葉県出身、高砂部屋、初土俵:明治16年5月場所、入幕:明治21年5月場所、引退:明治34年1月場所

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↑ドイツで発行された日本の紹介本に載った、躍進時代の小錦の珍しい写真。外国人に好まれていたようでたくさんの写真が残されている(浅坂さん私物より)

フックの花
福の花孝一[関脇]
敢闘賞ばかり7回、61場所幕内をつとめ、35歳で引退。北の富士を一発で張り倒した取り口で「フックの花」といわれた。若々しい取り口と派手な締め込みが印象的だった。

ふくのはな・こういち 熊本県出身、出羽海部屋、初土俵:昭和33年1月場所、入幕:昭和40年9月場所、引退:昭和50年11月場所

傍若無人
大達羽左衛門[大関]
明治初期の無敵大力士。初代梅ケ谷(第15代横綱)が、その対戦を避けたがったと噂されたその実力と怪力は、鋭い眼光の写真を見ると納得するほどの迫力だ。

明治17年3月の芝迎賓館での天覧相撲で、梅ケ谷との引き分けの大熱戦を演じ、続く5月の本場所で押し倒しで黒星をつけた。

番付上の大関問題の不満から師匠と対立して破門となり、一時、伊勢ノ海部屋へ移籍した。晩年は大酒で体を壊し、見る影もなく弱くなり、番付も急降下した。 「傍若無人」と呼ばれた土俵態度の反面、弟子に対しては人情家であったと伝えられる。明治を代表する「怪力士」といえよう。

おおだて・うざえもん 山形県出身、立田川→高砂→伊勢ノ海→千賀ノ浦部屋、初土俵:明治6年12月場所、入幕:明治15年6月場所、引退:明治28年6月場所

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↑梅ケ谷(左)と大達(右)の決戦(浅坂さん私物『大相撲名力士100選』より)

まだある“荒々しさ炸裂!ニックネーム”

喧嘩山
錦華山大五郎[前頭2]
上突っ張りを得意とした
きんかざん・だいごろう 兵庫県出身、小野川→陣幕→小野川部屋、初土俵:昭和2年1月場所、入幕:昭和6年5月場所、引退:昭和15年1月場所

怒りの金時
名寄岩静男[大関]
すぐカッとくる立ち合い
なよろいわ・しずお 北海道出身、立浪部屋、初土俵: 昭和7年5月場所、入幕:昭和12年1月場所、引退:昭和29年9月場所

東北の暴れん坊
陸奥嵐幸雄[関脇]
強引な吊り技や吊り落としなど荒々しい取り口
むつあらし・ゆきお 青森県出身、宮城野部屋、初土俵:昭和36年9月場所、入幕:昭和42年3月場所、引退:昭和51年3月場所

ちびっこギャング
鷲羽山佳和[関脇]
鋭い出足から土俵せましと暴れ回った
わしゅうやま・よしかず 岡山県出身、出羽海部屋、初土俵:昭和42年3月場所、入幕:昭和48年5月場所、引退:昭和60年11月場所

弾丸野郎!部門

弾丸巴潟
巴潟誠一[小結]
165センチの短躯(たんく)で、まわしは、相手に取られないように腰がしびれるくらいに硬く締めたという。つかまると全くダメという極端な取り口。

晩年、友綱親方としてテレビの解説で、弟子の魁輝(かいき・関脇)が、横綱北の湖に挑戦する際「北の湖には軍艦に鰯です」と表現していたのが印象的だが、本人は弾丸相撲で軍艦の横綱・男女川を沈めたのだから、激励を込めての気持ちだったのであろう。

ともえがた・せいいち 北海道出身、高島→友綱部屋、初土俵:大正15年5月場所、入幕:昭和7年5月場所、引退:昭和15年5月場所 褐色の弾丸

イラスト/てぶくろ星人

褐色の弾丸
房錦勝比古[関脇]
躍進時の横綱大鵬に三連勝したり、柏鵬(柏戸・大鵬の両横綱)に対する対戦成績が5勝6敗という大物食いで、浅黒くて丸い体は「褐色の弾丸」と呼ばれた。

その取り口は激しい押し相撲で、「横綱玉錦の隠し子か」といわれたり、養父である行司・式守錦太夫の捌きで勝ち名乗りを受ける『土俵物語』という映画も作られ、また、「蔵前小町」といわれたおかみさんも評判の美人で、まさに、柏鵬時代の人気花形力士であった。

若松親方として長く審判を務め、先代伊勢ノ海親方と手が合って、一緒に若者同士と合宿をしたりしたので、私らにもよく声をかけてくれた思い出がある。

ふさにしき・かつひこ 千葉県出身、若松→西岩→若松部屋、初土俵:昭和27年1月場所、入幕:昭和32年5月場所、引退:昭和42年1月場所

 

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↑房錦が登場した焼酎の宣伝(浅坂さんの私物より)

 

人間重機!部門

起重機
肥州山栄[関脇]
双葉山時代の吊りの第一人者。関西角力では天龍より実力的に上といわれた。昭和15年5月に立浪三羽烏を総なめにしたり、横綱羽黒山の優勝場所に唯一の黒星をつけたりと、玉ノ海らとともに力感溢れる相撲をとった。

眼光が鋭く「シェパード」と恐れられたというが、笑うと優しい顔で、落語家の5代目円楽に似ていた。とにかく当時の二大横綱、双葉・羽黒を吊りまくって倒したのだから、戦前の起重機No.1力士だ。

ひしゅうざん・さかえ 長崎県出身、出羽ノ海部屋、初土俵:昭和2年1月場所、入幕:昭和6年1月場所、引退:昭和20年6月場所
*立浪三羽烏・・・名寄岩(大関)、双葉山(35代横綱)、羽黒山(36代横綱)

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↑「角力道」雑誌の表紙を飾る肥州山(浅坂さんの私物より)

超重機
明武谷清[関脇]
スラリとした長身に彫りの深いエキゾチックな二枚目で、外国の映画スターにでもいそうな雰囲気を持ち、事実、海外巡業では人気バツグンであったという。

当時の力士は吊り方に特徴があり、若浪(怪力の吊り)、麒麟児(柔らかいこんにゃく吊り)、玉の海(腹にのっける吊り)、陸奥嵐(無茶苦茶な暴れん坊の吊り)などがいたが、明武谷は長身を生かした吊りだった。

優勝決定戦に2度出場したり、横綱・大鵬に5場所の間で4勝したりと実力もあり、戦後の起重機No.1である。

みょうぶだに・きよし 北海道出身、高島→吉葉山→宮城野部屋、初土俵:昭和29年3月場所、入幕:昭和34年7月場所、引退:昭和4411月場所

イラスト/てぶくろ星人

 

牛若系部門

今義経
若瀬川栄蔵[前頭筆頭]
小柄で非力であるが、早い動きで「今義経」といわれた時期もあり。昭和ひとケタの力士だが、取り組みの映像が残っている。

長寿を保ち、二代、三代の若瀬川との対談も実現し、技の伝授をして、兄弟子である幡瀬川(はたせがわ)からの極意を語っていた。

わかせがわ・えいぞう 秋田県出身、楯山→伊勢ヶ濱部屋、初土俵:大正10年5月場所、入幕:昭和5年1月場所、引退:昭和9年1月場所

 

今牛若
藤ノ川豪人[関脇]
土俵上でひらりと相手をかわす印象が強いが、基本は頭からぶちかまし、突っ張る激しい押し相撲、横綱・柏戸の鋼鉄の胸に毎日ぶつかり、羽目板にぶつけられているうちに出足を磨いたと自身が証言している。

スケートや野球で鍛えた運動神経と強い足腰で土俵せましと暴れ回り、大物食いで鳴らした。二枚蹴り(対高見山、義ノ花)、蹴たぐり(対北の富士)、蹴返し(対玉の海)と足技も豪快で、一方大鵬を真っ向から押し出したり、佐田の山を素首落としで這わせるなど、派手な取り口と、基本の押し相撲から変化、逆転技も出たもので、「正攻法の牛若丸」として三賞も全て受賞したが、怪我により26歳で引退したのは惜しまれる。

ふじのかわ・たけと 北海道出身、伊勢ノ海部屋、初土俵:昭和36年5月場所、入幕:昭和41年11月場所、引退:昭和47年11月場所

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↑当時のイラストレーターに描かれた牛若丸藤ノ川(浅坂さんの私物より)

次回は引き続き【取り口編】をお届け予定です。お楽しみに!

 

浅坂直人
あささか・なおと 伊勢ノ海部屋マネジャー。北海道利尻島生まれ。札幌旭丘高校出身。元三段目・雪光山(昭和55年五月場所初土俵、平成4年九月場所引退)。同期の関取は栃ノ華、旭道山。相撲文化を愛し、相撲関連書籍、資料を多数所有し、専門誌の連載や講演も行う。相撲趣味の会会員。好きなアーティストはジェフ・ベック、エリック・クラプトン、アニマルズ、ザ・ショッキングブルー、日本のGSなど。

 

力士プロフィールなど・・・参考文献/『大相撲人物大事典』(ベースボール・マガジン社)

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