『相撲茶屋のおかみさん』横野レイコ著

元祖スー女であり、女性の相撲記者の草分け的存在でもある横野レイコさんが、今までベールに包まれていた「相撲茶屋」を総力取材、そのおかみさんたちにフォーカスした1冊ができ上がりました。

江戸時代に始まった「相撲茶屋」は、チケットの販売はもちろん、飲食の注文やオリジナルのお土産といったサービスを行い、国技館には現在1番から20番まで20軒が存在します。その多くは、力士と親類縁者にあたるおかみさんが代々切り盛りしてきたといいます。本書では、各お茶屋のなりたちを、細かな家系図とともに紹介しているのが興味深い点です。

また、お茶屋さん初心者には心強い、お茶屋さん利用法も詳しく解説。国技館観戦ガイドとしても役立つ情報も満載。

 今回は著者の横野レイコさんに本の制作裏話を伺いました!

取材は一月場所と五月場所の合間をぬって敢行

――この本はどのようないきさつで?

現代書館の社長さんからの話で。相撲を取材してこのかた30年になりますが、お茶屋さんの取材をしたことはなかったので、お受けしました。お茶屋さんってベールに包まれすぎていて、相撲が好きな人でもあまり知らない人もいるだろうし、この本を書くことで、いざ自分がお茶屋さんを利用するときの参考にしてもらったり、出方さんのことなどを知ってもらうきっかけになればと思ったんです。

 

――でも困難を極めたとあとがきにも書いていらっしゃいますね。

そうなんです。相撲部屋のおかみさんにはよく取材していましたから、同じような感覚で考えていたら・・・。うふふ。困難をきわめました。お茶屋のみなさんが口を揃えておっしゃったのは、自分たちはあくまでも裏方と考えておられて、「私たちより力士を取材してください」と。最初は断られることが多かったですね。もう昔のことはわからないっておっしゃったりね。

 

――20軒すべて取材されるのも大変ですよね。

19軒取材して1軒はなしとはできませんから、みなさんにお話を伺いたいと説得したり、そのお茶屋さんならではのお話を聞き出したりするのが大変でしたね。

 

――最終的には1番から20番まですべてのお茶屋さんに取材されてますが、1番から順番に取材されたんですか?

いいえ。アポをとるっていうか、みなさんの空いてる時間に随時という感じでしたね。

 

――取材はどこでされたのですか?

国技館におかみさんたちがいらっしゃるときを狙って。来られるのは本場所中の15日間と、土俵祭りのときなど限られた時間で、この取材のために別に時間をいただくという事はなかったですね。お仕事中の合間をぬって、朝早めに行ったり、打ち出し後に少し話を伺ったりしました。あまり早く行っても準備もあるし、タイミングが難しい。ちょっとした合間に長居しないでお話を聞いて、またちょっと覗いてっていうのを、2場所続けました。今年の一月場所と五月場所ですね。1回目より2回目のほうが心も開いていただけました。

 

――場所中は横野さん、力士の取材もされてますよね?

はい。私もこの本の取材だけをやってるわけではなく、これまでのように通常の相撲の取材もしないといけないので、初場所は稀勢の里が優勝し横綱に昇進しましたし、それは大変でした。

 

――20軒全部登場されるので、いろんなおかみさんや出方さんの顔が見える感じで興味深いですね。

90歳の出方さんがいたり、若い人がいたり幅広くて、名物的な存在の方もいらっしゃいました。

 

――出方さんってイケメンの方が多いイメージなんですが……。

呼び出しさんと混同している方も多いと思いますが、あのたっつけ袴姿という格好も国技館の雰囲気作りに一役買ってるんじゃないですか? 格好いいですよね。

 

――手書きの家系図もこの本ならではですね。

はい。いろいろ資料を揃えて確認していくのもまた大変な作業でした。

 

「元祖女性相撲記者・横野レイコ」の誕生秘話

――小さい頃からおすもうがお好きだったんですか?

もともと若嶋津(現:二所ノ関親方)さんのファンだったんです。顔が好きで……(ウフ)。大関になられたときだったと思いますが、相撲専門誌の表紙が若嶋津さんの本だったのを本屋の店先で見て、アイドルじゃないけど、「この人が好き!」ってなっちゃったんです。それまでも相撲は好きで見ていましたが、顔に惚れて、相撲好きの友人と一緒に巡業や本場所を見に行くようになりました。18歳から22歳くらいのころ、当時は大阪に住んでいたんですが、大阪から国技館に通ってましたね。阿佐ヶ谷の旧二子山部屋にも行ったりして。

 

――大阪から稽古見学に行っていたんですか!

大阪から行くから、着いたらもう稽古が終わってしまってて。でも、プレゼントを持って表で待ってたら、ガラッてドアが開いて、そこに土俵の鬼(二子山親方/初代若乃花)がいて「あ!鬼だ!」って思って(笑)、恐る恐る「こんにちは」って挨拶したら、「中に入りなさい」って言って部屋に入れてくれたんです!

 

――すごい!当時は女性ファンって珍しいですよね。

でも、女性とか関係なく、すごくファンを大切にする人なんだと思いました。わざわざ若い衆を呼んでくれて、そこで若嶋津さんにも会ったんです! もしそこで冷たくされてたら相撲ファンではいられなかったと思います。その話を若嶋津さんが二所ノ関親方になられてから話したら「いい話だね。僕は鬼としか思ってなかったけど」(笑)って。「先代はやさしい人で、力士にはきびしかったけどファンにはやさしかったよ」っておっしゃってました。

 

――では、若嶋津さんがきっかけだったんですね。

はい。それからいわゆるスー女みたいなことやってましたよ。私のお友達が北天祐さんのファンだったんで、一緒にいろいろ行ってましたね。

 

――今はお二人とも娘さんが芸能活動をされてますね。

雑誌で若嶋津さんの娘さんのアイリさんと北天佑さんの娘さんの有希奈さんの対談があって、それ私が担当したんです。すごい縁ですよね。お母様のみづえさん(現二所ノ関部屋のおかみで元歌手の高田みづえさん)も取材させていただいているから、親子2代を取材もさせてもらうという。

 

――横野さんが本当におすもうファンだからこそのつながりですね。今回の本の帯に白鵬関のメーッセージが入っていますが、これも横野さんと横綱とのつながりからですか?

はい。この本の制作期間中、横綱と巡業や部屋で会ったときに、今こんな本作ってるんですって話していたんです。横綱はすごく相撲の歴史とか勉強してるので、へ~どんな本か教えてよって興味を持っていてくれて。「いつ出るの?」って気にしてくれていたんで、「もうすぐだけど帯書いてくれる?」って聞いたら二つ返事で「いいよ」って快諾してくれました。白鵬関、お茶屋さんにもこの本が楽しみだって話してくださっていたみたいで、高砂屋のおかみさんさんから「白鵬関から帯の話、聞きました」って言われたり、あちこちでこの本のこと話してくれたようです。

 

お茶屋さんを利用するプチアドバイス

――横野さんもお茶屋さんでチケット買われたことは?

ありますよ。買うお茶屋さんは特に決まっていなくていろいろです。持ってる席もいろいろだから。

 

――この本にもお茶屋さんを活用するヒントが書かれていますが、他に何かテクニックってありますか?

たまに、出方さんがなかなか来てくれなくて、お酒飲みたいのに飲めなくてやきもきしたっていう話を聞きますが、その方は女性だったから逆に少し気を使って遠慮されたのかもしれませんね。今は、女のほうが飲むのにね(笑)。だから、女性でよく飲む人は最初に「私たちけっこう飲むんでマメに見に来てください」とか、「中入り後に一度のぞいてください」とか、最初に一言伝えるといいんじゃないでしょうか。

 

――なるほど!

やっぱり通ううちにそのお客さんの飲む飲まないも含めて、好みやなんかもわかってもらえると思うので、何度か同じお茶屋さんで通うというのも大事かもしれません。あちらはサービスのプロですから。

 

――そうですね。こちらの好みや希望を伝えることも全然アリなのですね。勉強になりました。みなさんもぜひ、この本をきっかけに、お茶屋さんを通して江戸時代からの粋なおすもう文化にふれてみてください。きっとおすもうの奥深さにまたずずっとはまってしまうはず!

 

今回は横野さんの最新著書の裏話をお伺いしましたが、次回は「おすもう人」のコーナーで、横野さんが携わったあの関取のドキュメンタリー番組制作秘話、そして昭和の巡業復活で話題となったお台場巡業の舞台裏についてのお話をお届けする予定です。お楽しみに!

 

「相撲茶屋のおかみさん」横野レイコ著

(現代書館)

 1200円(+税)

 

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