まわしメーカー、三福商事さん〜その①

相撲はまわし一丁で行う競技です。まわしはいわば、おすもうさんの戦闘服! 今回は大相撲で使う木綿製のいわゆる「白まわし」「黒まわし」の販売を一手に担う、三福商事株式会社を訪問し、代表取締役社長、菅原通明さんにお話しを伺いました。

おじいさまの代からまわしを作り続けている三福商事。社長の菅原さんは、学生時代ボクシングをされていたそう。

相撲が大好きだった祖父が、まわし制作を開始

――はじめまして。近くに友綱部屋や鳴戸部屋があり、相撲とかかわりのある土地に会社があるんですね。

菅原社長(以下、菅):はい。もとは神田岩本町にありましたが、代がわりのときにこちらに引っ越してきました。相撲部屋とは直接のお付き合いはあまりないんですけどね。

――早速ですが、三福商事さんがまわしを扱うようになったのは、いつからですか?

菅:弊社は産業用、工業用の資材を扱っている会社です。現在求められる資材というのは、防水性や防炎性、耐熱性など機能性の高いものが多いので、ほとんどが合成繊維なのですが、昔は「帆布」だったんです。まわしは帆布(綿)でできていますので、作ることになりました。始めたのは私の祖父ですね。今の会社とは別ですが同じような業種の会社をやっていまして、相撲が大好きだったので、まわし制作を始めたようです。そのときから相撲協会さんにまわしを納めています。

――ずいぶん長いお付き合いですね。

力士からの要望で、分厚くてかたい特1号の白まわしが完成

菅:これが、うちでは「特1号師範用」と呼んでいるまわしです。

――関取以上が締めるいわゆる「白まわし」ですね。わ~分厚い!!!

菅:10番手という糸を使うんですけれど、他の帆布と織り方がちょっと違います。

――織り方が違うというのは、私たちのような素人にもわかるのでしょうか…

十両になって初めて身につけられる「白まわし」は「特1号師範用」という種類。厚みは約2.2ミリ。

菅:こちらが子ども用のまわしです。

――やわらかい!普通の帆布、といった手触りです。

菅:こちらも糸は同じ10番手の糸なんですけれど、織り方が平織(ひらおり)という織り方なんです。力士用のまわしは、糸の打ち込み本数を多くして、なおかつ厚みを出すので綾織(あやおり)という織り方で作っています。

――力士用はかたいですね!

菅:関取衆のほか、学生相撲などアスリートがお使いになっています。この厚みと硬さは今制作できる帆布の限界に近いですね。

――テレビなどで見ていると、まわしがこんなに硬いなんて感じませんね。なぜこんなに硬いのでしょうか。

菅:お相撲さんからの要望だったんじゃないかと思います。これまで試行錯誤を繰り返してきた結果ですね。

高度成長期の遺産とも言える国産織機を使い、まわしの生地を作る

――まわし作りはどんな風に行われているのでしょうか。

菅:先ほど申しましたが、まわし用の帆布は綾織という織り方で作っています。『鶴の恩返し』じゃないですけど、タテ糸を成形して、このシャトルと呼ばれるものに入れたヨコ糸を交差させ、往復させて織っていきます。ですが、現代の織機というのは往復するのではなく、一方通行のものがほとんど。往復させて織る織機がなくなりつつあるんです。だから今稼動しているのは、昭和30年代の国産の織機です。これがスピードが非常に遅いんですね。効率から考えたら、とてもコストに見合わないんです(笑)。まわし用の特1は、1時間で3メートルぐらいしかできません。さらに、シャトルに入れるヨコ糸は3分に1回ぐらいなくなってしまいます。それを手作業でつないで、また機械にセットするので、そのぶん人の手が入ります。織機自体は自動で動きますが、糸をつなぐのは手作業なので、全自動ではありません。スピードも最新の織機に比べたらとても遅いです。新幹線と蒸気機関車という感じですね。

まわし生地を織るときにヨコ糸を織っていく「シャトル」。木工職人のハンドメイトという貴重品。

――手間がかかるのですね…

菅:さらには、このシャトルは織っていくうちに削れたりする消耗品なので、木工屋さんに作ってもらっています。織機も昭和30年代のものなので、部品もありません。鉄板を削ったりして作っています。東京タワーができるぐらいのときの機械ですからね。それを通勤電車のダイヤに乗せて、使い倒しているという状況です。

――機械がなくなったら、まわしが作れなくなってしまいますね。

菅:そうですね……職人さんも高齢化しているので、後継者の問題もあります。現在制作をお願いしている方には、地方にあった織機を弊社で買い上げて、それを使って作っていただいています。息子さんも一緒に加わってくださっているので、とてもありがたいですね。

――機械と技術の両方を後世にのこしたいですね。ここに「特1号黒」というのがあるのですが、これが「黒まわし」(幕下以下の力士が使用する)ですか?

菅:いえ、それは大相撲では使っていません。大学の相撲部や個人の愛好家の方がお買い求めになります。「1号黒」というのが、大相撲の黒まわしです。

白まわしと黒まわしの意外な価格差

――白まわしより黒まわしのほうが高いのですね!逆だと思っていました。(1本の価格、白まわし=1万1700円、黒まわし=1万2900円)

菅:黒は染めるので高くなってしまいます。黒まわしは、正直なところ利益がほとんどありません。先ほどもお話しましたが、まわしを作るのは大変手間がかかりますし、そのうえ織機も年代物を使用していますので、いつ壊れるかわかりません。シャトルや部品も手作りで消耗品です。職人さんも高齢化しています。正直、まわしを作るのは危機的状況だと言っても過言ではありません。少し前に価格の見直しについてのお話を協会さんにさせていただいたことがありました。1時間に3メートルしか織れないというのも、そのとき初めてお知りになったそうです。昔はどこにでもあったアナログで作るようなこういうものが、今では貴重なものになりつつあります。弊社はそれによって値段を不当につり上げようとは全く思っていませんが、まわしを作る方、お使いになる方、提供する弊社、この3つがバランスよくやっていけるようにしないと事業として続かないので、協会さんも快くご理解くださいました。

奥が特1号の「白まわし」。手前が1号の「黒まわし」。黒まわしは糊が落ちているので柔らかい感触です。

――黒まわしは糸の段階で染めるんですか?

菅:織りあがったものを関西にある染色工場で染めています。1度に600メートルまとめて染めるんです。600メートルためて、なおかつ1号の白いまわしの需要もあるので、在庫量を多くしないと染められません。圧力をかけた高温の洗浄機械の中に入れて染めるのですが、手染めではなく工業製品ですから、黒い染料を槽に入れて使い切らなくてはいけないという、経済ロットがあるんです。そのために、一気にまとめて染めています。相撲協会さんでは、黒1号というのはよく出るものですから、1号のまわしをかなり多く作って、在庫を切らさないようにしています。

――まわし1本作るのにも、大変な努力をされているのですね。

次回は、引き続きまわしのお話と、まわし以外の相撲用品について伺います。

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三福商事株式会社

相撲用品の製造、発売元。80年以上もの間「本物のまわし」を作り続けている。日本相撲協会、および日本相撲連盟の認定店。

http://www.e-sanpuku.co.jp/

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日乃本帆布 東京駅グランスタ丸の内店

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