呼出さんといえば、裁着袴姿が粋ですね。今回はこの裁着袴の着こなしについて、秀男さんのこだわりやお好みなどを伺いました。
着こなしのお手本は兄弟子の米吉さん
―呼出さんの着物には広告が入ってますが、あれはいつから入ってるんでしょうか?
あれ、花相撲のときに森永(製菓)が太郎さんに出したのが最初だと思うんだよ。俺はね。
―昭和初期ですか?
だれの花相撲かわかんないんだけどね。
―引退相撲?
うん。でも戦前ってそんなにやる人いなかったから、戦後だと思うよ。
―森永さんはもう出されてないですね。秀男さんが入門されたころは出されてました?
もうなかった。でも、映像でしか見たことないけど派手な着物だったよ。
―裁着袴職人の富永さん(→おすもう人のコーナー参照)が、呼出さんそれぞれに着こなしのこだわりがあって、それに合わせて寸法測って作ってるっておっしゃってましたが……。
あ、そう。こだわりがあるって?
―裾の部分を短く、とか。
へぇ~~。
―秀男さんの着こなしのこだわりは?
ないない。俺は上手いほうじゃないし、来たものを着る。
―着物は、今日どれを着るって決まってるんですよね。
それはね、もう場所前に広告代理店が持ってくるの。すべて広告代理店だよ。
―袴は自分で選ぶ?
個人で自由にね。15日間、同じのを履く人もいるし。新弟子なんてそんなに持ってないもん。
―部屋の力士が勝ってたらゲンを担いで替えないとかあるんですか?
そこまで考えてる人いないでしょ。
―袴も柄が違うじゃないですか。着物とのコーディネートって考えるんですか?
それは考えて着てましたよ、私はね。
―どういうポイントで? お洒落ポイントってあるんですか?
同系色でまとめるとおもしろくないからさ、自分なりの色合わせってのがあるんだよ。
―お手本の兄弟子がいたりしたんですか?
この人は上手いなって人はいたけどね。着物の着方とかね。
―どなた?
米吉さん*。
*米吉:1947年6月場所が初土俵、3代目の立呼出となり、2002年7月で定年退職。美声で知られる。
―かっこよかったんですね、米吉さん。
キザだったね。悪く言えば。
―普段から言うこともキザ?
生き方がキザなんだよ。でも、着こなしも上手かったよ。
退職後の着物の行方は?
―富永さんが、裁着袴の生地は昔は「縞」が多かったけど今は変わってきたっておっしゃってました。
そうだね。
―生地は呼出さんが選ばれるんですよね。秀男さんが選ばれたこともある?
呼出会で作ったやつがあるんですよ。それは反物を京都の呉服屋にいくつか持ってきてもらって、悩んだけど決めたことあるよ。
―それはどんな柄?
縞だったかな~。あんまり縞が目立たない感じだったかな~。
―まだあります?
あるとは思うけど……。
―引退したらあの着物はスポンサーか協会に返すんですか?
返しませんよ。
―着物とか全部家に持って帰って来られてる?
何着かは残ってるよ。
-富永さんのところに残っていた昔の裁着袴の資料なんかは博物館に寄贈してもよさそうなものだと思うんですけど、秀男さんのもなかなかのお宝ですよね。
おれは、柝を一本、裁着けを1本、あげたよ。それぐらいなら邪魔にならないだろうって。
―おお! ではいつか「呼出展」なんかがあったら展示されるかもですね。その前に、お家に持って帰ってこられたのをちょっと見せていただけませんか。どこかにしまいこんでしまいました?
いや、そこにあるよ。(秀男さんのお部屋の押し入れを指さす)
秀男流! 着物コーディネート術
―秀男好みとしては、この山京商事の着物(右の青い着物)ならどんな袴を合わせますか?
若乃花のがいいね。
―コントラストがいいですね。こっち(白鵬関から贈られた袴)はどんな?
グレーだから何でも合うなとは思うけど、難しいんだよ。ま、グリーンとかいいんじゃない?
―きれいですね。
あと、白もいいよ。
―なるほど~。引きたちますね。
袴の腰板の表には、その袴の贈り主の四股名、裏には呼出さんの名前が刺繡されている。
(押入れからポロッと白扇が出てくる)
―この白扇は最後までお使いだったもの?
それは使ってないんじゃない?
―常時何本くらいお持ちだったんですか?
1本あって、予備っていうか巡業用は別に1本持ってた。
―(開かせてもらう)けっこう開くの力いりますね。やってるうちにやわらかくなるんでしょうか?
そりゃそうなんだけど、コツがあるの(実演)。
―そうそう片手でやってる! 秀男さん、なんなく片手で開きましたね。
まぁ、晩年は指が自由にならなかったけどね(笑)。
―あと、ぞうりは何か特別なものですか? 行司さんのとは違いますよね。
表を歩くからね。雨にぬれてもいいようになってんだよね。
-どこで買われてたんですか?
どこだっけな? 忘れたな。うーーん……出てこないな。
―では、次までに思い出しておいてくださいね。ということで、次回、秀男さんがぞうりのことを思い出していたら、そんなお話もお届けしたいと思います! お楽しみに!
秀男
本名・山木秀人(やまき・ひでひと)、元立呼出。1949年生まれ。1969年伊勢ヶ濱部屋に入門、同年三月場所で初土俵。桐山部屋を経て、定年時は朝日山部屋所属。2008年一月場所より呼出のトップである立呼出を務め、2014年十一月場所にて、惜しまれつつ定年退職。見事な呼び上げの美声で相撲ファンから愛され、「土俵の妖精」のニックネームも。
photo:Kaori Murao