『だれかに話したくなる相撲のはなし』十枝慶二著

秋場所直前に発売されたばかりの本書は、元「月刊相撲」編集長で、現在は同誌の編集はじめさまざまな媒体で相撲の記事を執筆されている十枝慶二さんの初めての著書です。十枝さんといえば、おすもうさんにご登場いただくのは2度目。おすもうさんが企画編集執筆を担当した『知れば知るほど 行司・呼出し・床山』のシリーズ第一弾的な位置付けの『大相撲 知れば知るほど』の担当編集者として以前インタビューさせていただきました。今回は初の著書の読みどころのほか、相撲記者としてのお仕事の話も伺いました! プレゼントのお知らせもお見逃しなく。

十枝慶二 とえだ・けいじ
子供のころから相撲が好きで、小学校の自由研究は5年生が「相撲の歴史」、6年生が「新大関、若三杉」だったとか。学生時代は京都大学で相撲部に在籍し、全国国公立大学対抗相撲大会個人戦で2連覇を果たす。大学卒業後はベースボール・マガジン社に就職。「月刊相撲」編集部に配属、同誌および「月刊VAN VAN相撲界」の編集長も歴任。現在はフリーランスの編集者・ライターとして相撲からサイエンスまで幅広いジャンルで活躍中。

意外と知らない相撲の歴史を楽しみながら理解できる一冊

―まず、この本の企画が立ち上がった経緯から教えてください。
版元である海竜社の担当編集者さんとはベースボール・マガジン社のお仕事でご一緒してからのご縁で、今回相撲の本を作りたいので何か企画はありませんか?とお話をいただいたのが始まりです。

ーこれは十枝さんが温めておられた企画なんでしょうか?
なんとなくですが、こういうのが出せたらいいなって思ってましたね。

ー今回の本はどのように書き進めていかれたのですか?
ウエブ媒体に掲載されたもの、Yahooの個人ページに書いたものや、以前、「月刊相撲」などに書いた記事を参考に、新たに書き直したものもあります。ウエブでは、時事的なテーマを依頼を受けて書くことが多く、その中でいろいろと自分の考えがまとまっていったような気がします。そういう意味では、ウエブの記事を書いたことがこの本の原点といえるかもしれません。

ー目次を見ただけでワクワクしてしまって、まさに誰かに「ねぇねぇ知ってる?」って話したくなるような感じです。この『だれかに話したくなる相撲のはなし』というタイトルは十枝さんの案なんですか?
仮のつもりで、軽い気持ちで私が考えたんですが、そのまま採用されました(笑)。

ーよくある話ですよね。
タイトル負けしてるんじゃないかと……。

ーそんなことないです! 目次をちょっと挙げてみますと……。
・「すもう」の語源はヘブライ語の「シュモー」?
・神話の中のすもうの決まり手は「蹴り殺し」
・7月7日は「すもうの日」 
・幕末から明治時代、欧米人との異種格闘技戦が行われた!
などなど、「え! なになに」って興味をそそられます。ヘブライ語から始まるとは意外でした。
貴乃花親方が相撲協会を退職した頃にテレビで話して話題になりました。そんな、一般の方にも興味をもってもらえるようなエピソードを取り入れることは心がけるようにしました。

ーなるほど。1つ1つのエピソードがトリビア的な感じで、へぇ~って読んでいくうちに実はちゃんと相撲の歴史を理解できるような構成になっていてすごいなって思いました。
まさしくそんな感じにしたいと思っていたので、そう感じていただいてうれしいです。

「三賞って基本的にご褒美だと思うんです」

ーほかにコンセプトみたいなものはあったんですか?
相撲って伝統を守って変わらないものと思われがちですが、実はそんなことはなくて、歴史を紐解いていくと時代に合わせて変わってきてるんだということを伝えたいというのはありました。あと、今話題になっていたり、当たり前と思われていることの始まりはどんなことだったのかとか。横綱ってなんなのか、三賞ってどうやって始まったのか、女子が土俵に上がるってこともそういう話の中で読んでいただければと。

ーここをぜひ読んでほしい!というところはどこでしょうか?
三賞のことはぜひ伝えたかったですね。三賞って、基本的にご褒美だと思うんです。そもそもそんな感じで始まったものだし。がんばった人にはご褒美として何かあげるっていうふうにしてほしいですね。審査するものではなく、そういう賞であってほしいと思っています。

ー三賞は日本相撲協会と相撲記者クラブで受賞者が決まるものですが、誰に何票入ったとかは公表されてるんですか?
「月刊相撲」に掲載しています。
*各場所総決算号にて選考の経緯が三賞選考委員会風景の写真とともに紹介されています。

ーその場で挙手して決めてるんですよね。
そう。それで手が挙がった数を数えてですね。

ーなかなか挙げにくかったりもするのかなって思ったりもしますが……。
そうなんですよね。顔が見える形で話すのはいいと思うんですが、候補者が多いと票が割れて誰も過半数にいかないということが起こる。すると、そのまま該当者なしになってしまうことがあります。これはおかしいと思います。ぜひ決戦投票をやってほしいです。あんまりきっちり決まってないのが相撲のよさでもあるのですが、こうしたところは変えてもらってもいいかなと思います。

手さばきの記事が書きたくてベースボール・マガジン社に入ったようなもの

ー<物言い審議の場に「タブレットを」>って話も斬新でした。
テレビ中継では、勝負がつく瞬間の映像を何度も再生しますから、協議している審判も当然、その映像を見ているように思いがちですが、実は、審判は、土俵下から自分の目で見ているだけで、映像はまったく見ていないんですよね。それは変えた方がいいと思うんです。タブレットを使って、土俵上で映像を見てもよいのではないかと。やってみてダメだったり、おかしかったらやめたらいいんです。私は「月刊相撲」で手さばきのページ(各場所総決算号の<熱戦グラフ>。幕内全取組の内容を文章で再現)を担当してますが、ビデオがないととてもじゃないけどわからないですから。

ーあのページ、15日間の幕内全取組が書かれていますが、毎日その日に原稿を書かれてるんですか?
そうですね。序盤戦は溜めてしまうこともありますが(笑)。

ー毎日、書くのにどれぐらいの時間かかるんでしょうか?
写真選びの時間も合わせると、2~3時間でしょうか。

ーさすが!十枝さん相撲経験者でいらっしゃるから。
それは・・・関係ないと思いますが・・・。でも、子供の頃から相撲雑誌のなかであのページがいちばん好きで、何度も繰り返し読んでいました。手さばきを書くのが夢でしたね。

ーすごい!子供のころの夢がかなったなんて!
そうですね。あれが書きたくてベースボール・マガジン社に入ったようなものです。

ーとはいえ、大学時代は個人戦2連勝されてるじゃないですか!(全国国公立大学対抗相撲大会)
でも当時5校ほどしかありませんでしたから。

ー何級だったんですか?
当時は無差別級しかありませんでした。私、100㎏あったんですが、100㎏あるのは私とあと1人しかいませんでしたから。体で勝ってたようなもんですよ。

ーいやいや。優勝盾とかは家に飾ってあるんですか?
どこにいったからわからないです。

ーえ? 京大の相撲部に置いておくもんなんですか?それとも持ち帰る?
うーん。覚えてませんね。

ーあら、、、そうですか。

「月刊相撲」連載の<アマ翔る>の取材エピソード

―学生相撲ご出身といえば、「月刊相撲」では<アマ翔る>というアマチュア相撲のページも担当されてますね。ここで取材されて、今、関取として活躍されてる方はどんな方がいらっしゃいますか?
最近では、十両に上がったばかりの琴ノ若関がそうです。琴ノ若関は、佐渡ケ嶽部屋のある柏市の相撲スポーツ少年団で小学生の頃から稽古していたんですが、ちょうどその時、〈アマ翔る〉で取材しました。大会でも見ていましたが、昔は飛び抜けて強いわけではなかったんですよ。足が長いから腰が高くて、いつも寄っていっては土俵際でうっちゃられるとかね。でも、それをいつも会場でお父さんの佐渡ヶ嶽親方やおかみさんが見ておられて、負けたのを怒るでもなく、見守ってらっしゃる感じだったのが印象的でした。親にやらされているのではなく、自分で選んで埼玉栄高校に行って、強くなって、今があるのは素晴らしいなと思いますね。

ー埼玉栄といえば豪栄道関、妙義龍関がいらしたころに取材されてますね。
はい。今の関取が入門前に相撲を取っていた道場や相撲部を〈アマ翔る〉で取材したことは何度もあるんですが、当時はその人が目当てで行ったわけではなかったことがほとんどなんです。鳥取城北高校に取材に行ったときも、後から写真を見たら「あ、このご飯食べてるの逸ノ城関だった!」とか、足立新田高校のときもとくに千代大龍関は目立っていたわけではありませんでしたし。埼玉栄は、高校横綱になって全日本選手権でも活躍した豪栄道関目当てで行きました。

ーほぅ。妙義龍関はどうでした?
取材したときにはあまり意識していませんでした。でも、そのとき何気なく撮った写真に、立ち幅跳びの記録があったんですが、後から見てみると妙義龍関の記録がすごくいいんですよ。やっぱりあの腰が下りた相撲は当時からだったんだって思いましたね。

ー長くアマ相撲を取材されていて、昔と今で変わってきたことってありますか?
女子が増えたことが大きいですかね。ついこのあいだ、わんばく相撲で初めて女子の全国大会もありました。今では、小・中学生が通う道場やクラブには、ほとんどどこでも女子がいるような印象です。10年前くらいはいたら珍しいという感じだったんですが。

ー十枝さんはこの著書でも「女子も国技館の土俵で」とおっしゃってますが…。
柔道やレスリングのように女子も盛んになればと思います。男女平等でないスポーツは相撲だけのように思われるかもしれませんが、半世紀前の東京五輪では柔道もレスリングもサッカーも女子はありませんでした。それが今では、当然のように五輪でも行われているわけですから、相撲もそうなってほしいですね。

ー女子相撲の殿堂となる土俵を作るっていうのはどうですか?
そうですね。でも女子相撲の選手はみなさん、「国技館の土俵に上がりたい」っておっしゃるんです。私も学生のころ、1回だけ国技館の土俵に上がったことがあるんですが、やっぱり違います。それに男子相撲部の部員が「国技館の土俵は特別だ」って言うんだそうで、それを聞いて自分も上がりたいと思うのは自然なことだと思いますから。

続編があれば、ぜひ部屋制度や一門のことを!

ー「月刊相撲」で女子相撲を取り上げられるだけでも違うと思います。少しずつ変わっていくかもしれませんね。それでは、最後に本の話に戻りますが、入れたいけど入らなかった、この本の続編があればこれを書きたいということがあれば。
少し触れてはいますが、部屋制度のことはちゃんと書きたいですね。相撲部屋のよさとか。一門のつながりのよさとか。

ー一門ができた経緯とかおもしろいですよね。
そうなんです。今の一門は昔からあるように思われてますが、時代を築くような強い力士が現れたとき、その力士を中心に新しい一門ができるものなんです。時津風一門も双葉山を慕う人が集まってできた一門。出羽海も今でこそ名門ですが、常陸山が出るまでは小部屋でしたし。

ーそうなんですね。今私たちが普通と思ってることは意外と昔はそうではなかったとか、実はそうなったのは最近だったとか。知らないことがまだまだあります。そんな大相撲の話が満載のこの1冊、ぜひ手にとってみてください!

『だれかに話したくなる相撲のはなし』
十枝慶二著(海竜社)
1,400円+税

PRESENT
この本を3名様にプレゼントいたします!
件名を「書籍希望」としていただき、お名前、メールアドレス、おすもうさんの記事で面白かった記事を3つご明記の上info@osumo3.comまでご応募ください。締め切りは2019年11月15日まで。応募者多数の場合は厳正なる抽選のうえ、ご当選者にのみメールでご連絡いたします。*お預かりした個人情報は適切に管理し、プレゼントの発送やサイト制作の参考にさせていただく以外の目的で使用いたしません。

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十枝慶二さんの過去のインタビューを見る
『大相撲知れば知るほど』「相撲」編集部編著(ベースボール・マガジン社)
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