今年、五月場所後に引退された元関脇・勢の春日山親方。入門までのこと、親方としての抱負などをうかがいました。
※この記事は、取材対象者と十分な距離を保ち、可能な限り接触を避け、十分な換気を行うなど感染症対策を講じたうえで取材したものです。取材対象者には撮影時のみマスクを外していただきました。
引退した実感は。。。まだ、ありません
――現役生活お疲れ様でした。
ありがとうございます。2005年に入門して17年間、あっという間でした。
――引退された実感は?
ないですね。マゲもついていますし、稽古では胸を出していますし。コロナ禍なので、イベントもないので、フェードアウトした感じなので、全然実感がないですね。
――引退直前まで、休場はされませんでした。
休んでケガを治したら、もっと長く相撲をとれたんじゃないかという意見もありました。休む人、休まない人、それぞれいると思いますが、自分のなかでは「休まない」ということをモットーにしてきたので、十分やったという気持ちですね。
自分は入門する前に、数年、時間をかけて相当悩んだので、入門したら休まない、と決めていました。
――先代の伊勢ノ海親方とは家族ぐるみのおつきあいだったそうですね。
はい。小学校4年生のときに先代の親方に出会って、いろんな部屋に声をかけてもらいましたが、入門するなら伊勢ノ海部屋と決めていました。
先代にはすごくすごくお世話になって。うちのおばあちゃんが先代と仲がよかったんです。入門してからは、もちろん師匠と弟子という関係ではありますが、自分のなかではそれより深いものがありますね。自分が悩んでいた時期も「おまえが考えて納得してからでいいよ」と言ってもらえていたので、先代がいたからこそ、相撲界に入れました。
――今回の引退は、先代には?
最初に報告しました。「おつかれさん。体に気をつけてやってくれ」と言われました。
悩み抜いたから、入門してからは休まないと決めていた
――親方は大阪の交野市ご出身で、相撲道場では武隈親方(元大関 豪栄道)とご一緒でした。
交野市は自然に恵まれていて水がおいしいところです。相撲道場には自転車で通っていたんですが、武隈親方も一緒で。たまに自転車で待ち合わせて一緒に行ったりしたこともありましたね。そんな青春時代でした(笑)。
小、中と相撲に明け暮れた毎日で、中学を卒業後、一瞬、相撲がしたくなくなってしまったんです。人間だれでも悩む時期があると思います。高校出て悩む人、大学出て悩む人、就職してから悩む人。自分はそれが中学を出たときだったんですね。
相撲界に入門することも、もちろん選択肢のひとつでしたが、入門しても辞めたら戻れないし、大怪我をする可能性もある。そう考えると悩んでしまって。
でもその期間があってよかったと本当に思っています。無駄じゃなかった。あそこで時間をかけたから、入門してから「場所だけは何があっても休みたくない。休んだらあかん!」と思ってやってこれたので。
入門してからも大変でしたけど、辞めたいと思ったことは一度もありません。悩んでいる期間に心配をかけた方もたくさんいるので、なにがなんでも番付を上げないと、という思いでした。
目指すは「歌う親方」!
――名古屋場所で初めての親方としてお仕事でした。
わからないこと、知らないことで不安だらけでしたね。でも年齢の近い人と3人同時に引退をしている(桐山親方・元旭日松、山科親方・元豊響)ので、先輩親方に聞きながら、教えてもらいながらやりました。名古屋では親方売店をやりましたが、お客さんがすごかったですね。朝早くから会場に行くこともありましたし、花道の警備をしたり、打ち出し後の抽選会に出たり、とても充実した場所でした。
次は国技館ですからね。館内のどこになにがあるかっていうのも覚えないといけないですし、まずは一年を通してやってみないとですね。
――スーツはいかがですか?
34歳で生まれて初めてのスーツを着たんですが、思ったよりラクでしたね。ネクタイは少しきつかったかな。もともとスーツは憧れだったんで極めたいと思います。品のある爽やかな着こなし術を勉強したいです。靴もオーダーで作ってみたいですし、ハットもかぶってみたい。今まではできなかったことを楽しみたいです。メガネもいいですね。目は悪くないんですけど、おしゃれメガネをかけてみたいです。それを考えると楽しいですよね。
――春日山親方といえば、美声で有名ですね。
コロナなのでなかなか歌う機会もないのですが、これからも歌っていきたいと思っています。小さいころから歌が好きで、歌手になりたいという思いもありました。お相撲さんにも歌手にもなりたかった。増位山さん2世みたいな生き方をしたいと思っていたんです。
お相撲さんが歌うってちょっと特別な「力」があると思っています。自分自身が歌で励まされてきたので、あつかましい言い方かもしれませんけど、歌でみんなを元気にしたいですね。慰問で施設を訪問したとき、おじいちゃんおばあちゃんの前で「北国の春」を歌ったら、みなさん一緒に歌ってくださって。本当にうれしかったです。
余談ですが、運動ができる人ってみんな歌がうまいと思うんですよ。おなかから声を出しますし、リズム感がありますし。僕のデータ上では(笑)
――これからどんな親方になりたいですか。
強い力士を育てたいですね。自分自身は「歌う親方」になりたいです。歌が相撲普及の切り口のひとつになればと思います。それからもう少し痩せて、スーツがもっと似合う体型を目指します。
春日山翔太(かすがやま しょうた)
昭和61年生まれ。大阪府交野市出身。伊勢ノ海部屋所属。元関脇・勢。
平成17年三月場所で初土俵を踏む。平成24年三月場所に新入幕、平成26年十一月場所に新三役に昇進。令和3年初場所千秋楽まで休場はなく、連続出場は1090。令和3年五月場所後に引退。敢闘賞4回、金星5個獲得。十両優勝2回。
歌唱力に定評があり、現役時代よりさまざまな場面で美声を披露している。実家は交野市で「すし家の繁」を営んでいる。
photo:Tomoko Hanai
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