日本相撲協会の職務分掌、おすもうファンなら一度はチェックしたことがあるのでは?
いろいろな職務のなかでも、若手の親方が多く所属しているのが「社会貢献部」。国技館周辺の清掃(=掃き清め)や、ひよの山ランドセルカバー贈呈などはX(旧Twitter)でも紹介されていますが、それはほんの一部のようです。
社会貢献部って何をするところ? 社会貢献の内容はどうやって決めているの?
社会貢献部の三保ケ関親方に、お話しを伺いました。
相撲ならではの支援、62年ぶりの勧進大相撲
――先日の勧進大相撲、とても楽しかったです! 入場料などの収益を被災地に寄付とのことですが、あちらも社会貢献部の主導だったのですか?
楽しんでいただけてよかったです。もともと七尾市で巡業を行う予定だったのですが、地震の影響で開催が見送られました。相撲協会として何かできないかと、西岩親方(元関脇若の里)や高崎親方(元幕内金開山)、岩友親方(元幕内木村山)と話していて「勧進相撲やりたいね」ってことになって。社会貢献部として、ということではないのですが。
勧進相撲って、神社仏閣の建立や修繕の資金集めのために行われていた興行ですから、復興支援にぴったりだなと思いました。なので「勧進」という言葉にはこだわりましたね。
――プログラムも充実していました。
相撲のすごいところなんですが、私たちが「勧進相撲をやりたい」と言って会議で決まると、若者頭がパパッと段取りや時間配分を決めてくれるんです。今回は「前日も巡業で力士は疲れているから昼からにしよう。14時から17時までの3時間でできるプログラムはこれとこれと…OBは土俵入りから取り組みまでに準備の時間があるから、そこに初切を入れよう」と、全部組んでくれました。
62年ぶりの勧進大相撲では、歌自慢の力士による十八番の披露も。国技館がまるでライブハウスのよう!写真は平戸海関による「ライジングサン」(編集部撮影)
――時間配分は頭が決めるんですね! 館内のいろんなところで関取衆に会えたのもおもしろかったです。
最初は「誰が何時にどこにいる」みたいに決めようと思ったんですが、最終的には1階か2階かだけ決めて「みんな行ってきて〜!」となりました。誰にどこで会えるかわからないっていうのも楽しいかなと思って。ディズニーランドとかそうじゃないですか。
――グリーティングですね! たしかに思わぬところで出会えるとテンションあがります。本編の司会のお三方(呼出し重夫さん、木村吉二郎さん、北陣親方〈元幕内天鎧鵬〉)がとても息があってました。
あの司会、台本なかったんですよ。
――ええええええ!
本番前にちょっと打ち合わせをしただけです。吉二郎さんは去年のファン感謝祭でも名司会でしたし、北陣親方も親方ちゃんねるなどで司会されています。はじめは2人の予定だったんですが、前日に急遽重夫さんも力を貸してくださることになりました。
――ほぼぶっつけ本番であの司会ぶりはすごすぎます!
相撲界は本当に人材豊富なんです(笑)
呼出し利樹之丞さんがこの日のために作った相撲甚句を、美声でおなじみ元関脇勢の春日山親方が披露。感動に包まれる場内(編集部撮影)
東日本大震災、被災地のために何かをしたいという思いが結実
――相撲界ならではの復興支援、素晴らしいです。社会貢献部の立ち上げは、東日本大震災がきっかけと聞きました。三保ケ関親方は立ち上げから関わられたのでしょうか。
2011年は前年から不祥事があり、三月場所が中止になりました。そんななか、あの震災が起こって……被災地のために何かしたいと思い執行部にも相談したのですが、やはり不祥事があったので「今はまだじっとしていよう」ということになって。
それでも、何かせずにはいられないという思いがどんどん強くなり、出稽古でよく会う高崎親方に話をしたら、親方も同じ思いをもっていたんです。そうこうするうちに八角親方も応援してくださるようになって、徐々に活動が始まりました。
――八角親方、当時はまだ理事長ではないですね。
理事でもなかったのですが、企画やアイディアを会議にかけるときにアシストしてくださったりして、心強かったですね。
社会貢献部という名前も、八角親方がつけたんです。最初は「ファンサービス部」といっていたのを「一般社会、相撲界という社会、相撲ファンという社会に貢献する」という広い意味づけができるから社会貢献部がいいんじゃないか、ということで。
今も社会貢献部に部長はなく、八角理事長直轄の部署なんです。
若い親方衆からのいいアイディアをどんどん実現させたい
――社会貢献部の活動はX(旧Twitter)でも拝見しています。ランドセルカバー、かわいいです。
うちの子どもが一年生になるとき、トラック協会さんからランドセルカバーをいただきまして「これいいな、相撲協会でもできないかな」と思って企画しました。ひよの山がデザインされていて、相撲字は木村庄太郎さんに書いてもらったんです。
――墨田区の新一年生がうらやましいです!
本当は防犯ブザーもつけたかったんですが、予算的に難しくて。次の目標は防犯ブザーもつけることです。
――掃き清めやこども食堂、こどもホスピスの訪問もXで拝見しました。活動内容は話し合って決めているのでしょうか。
最近は社会貢献部の親方から直接、こういうことをやりたいですって来ることも多いです。
相撲界として何ができるか、親方衆はみんないろいろなアイディアをもっています。警備室などで集まると、ワイワイしながら「あれどう?」「これやってみたい」なんて話が飛び交っているんです。
そういう若い親方からのアイディアを吸い上げて、執行部に伝えるのも私の役割かなと思っています。有名な人の言葉でありますよね「実現しないアイディアは、アイディアとは呼べない」とかなんとか。いいアイディアはぜひ実現させたいですね。
若手親方の自主性も育つ人気の親方売店
――親方売店の売り上げの一部が、社会貢献部の活動に使われているそうですね。
一部の報道で「降格されたりするといくのが売店」みたいな伝え方をされたりするんですが、それは大間違いだと言いたいです。親方売店で接客をしているのは、精鋭部隊。なんといっても、お客さまと直接触れ合うわけですから。
執行部の親方にお願いしていることがあって、新人の親方はまず社会貢献部に入れてください、と。関取衆って現役中はやっぱりチヤホヤされるじゃないですか。でも社会に出たらそうじゃない。お客様と直接触れ合ったり、社会貢献を通じたりして、相撲界として何ができるかを考えることができると思います。
――売店の親方たち、レジ打ちや呼び込みがどんどん上手になっていて、毎場所行くのが楽しみです。
最初のころは私もちょこちょこ様子を見に行ったり、手伝いに行ったりしていたんですが、今はみんな優秀すぎて、行ってもやることがないので、後ろの椅子に座っているだけ、のようなこともよくあります(笑)
売店をやるようになって、親方たちに自主性が出てきたと思います。相撲界ってどうしても上下関係が厳しいので、ひと昔前なら「それは師匠に聞かないと」ということも多かったんですが、いまは若手の親方たちがいろいろ考えて実行しています。やっぱり自分のアイディアが実現すると嬉しいし、やる気も出ます。そういったところが活気につながっているのではないでしょうか。
――社会貢献部として、これからやりたいことはありますか。
子ども食堂などお子さんにかかわる企画は実現したいですね。相撲に興味をもってくれた子どもが、未来の力士になるかもしれないし、相撲ファンになるかもしれない。そういう機会をできるだけもうけたいです。
コロナも落ち着いたので、福祉施設などへの慰問も行いたいです。「おすもうさんに来てほしいけど、どうしたらいいのかわからない」という声もよく聞くので、希望があれば相撲協会に直接問い合わせいただければと思います!
photo:Kaori Murao
三保ケ関 篤史 みほがせき・あつし(元前頭筆頭・栃栄)
昭和49年6月27日生まれ。佐賀県佐賀郡富士町(現佐賀市)出身。埼玉栄高校では高校横綱に。春日野部屋に入門し、平成5年一月場所初土俵。平成10年三月場所で新十両、平成12年九月場所で新入幕を果たし、埼玉栄高校出身の幕内力士第1号となる。平成20年一月場所で引退。