東京で行われる本場所中、両国国技館内だけで聴ける限定放送『どすこいFM』。
平成29年9月場所をもって、惜しまれつつも終了してしまいましたが、人気の親方衆の素顔や人柄が感じられると大好評でした。
開始当初から実況キャスターをつとめた下角陽子さんが上梓された『「大相撲」知ったら面白すぎる70の話』には、下角さんが見た、聞いた、大相撲の奥深い世界のこぼれ話がいっぱいです!
画期的だった相撲協会独自の放送
――『どすこいFM』 はどんな経緯で始まったのですか?
先代の伊勢ノ海親方(元関脇・藤ノ川)が歌舞伎をご覧になって、歌舞伎のイヤホンガイドを聞いて、国技館でもファンサービスでやったらどうかと提案されたのが始まりです。NHKの中継も、国会中継や有事で中止や変更になることがありますよね。そういう時も場内でお客様に相撲の醍醐味を楽しく伝えられる協会独自の放送があったら…と。
――下角さんにお声がけがあったのは…?
そのころ、寺尾関(現・錣山親方)が引退された頃で、私がテレビのドキュメンタリー番組のナレーションを担当させていただいたんです。その番組のプロデューサーが「ラジオできる人を親方が探しているよ」と声かけてくださって。
――ご縁ですね。お相撲はいつから好きだったのですか。
ニッポン放送のアナウンサーになってすぐ、当時の甲山部屋(師匠・元大雄)の朝稽古に連れて行っていただいたんです。お相撲さんが6人、関取がまだ誕生していない小さな部屋で、「これから頑張るぞ!」っていう雰囲気で。「稽古でできないことは本場所ではできないんだぞ!」ってみんな怒られていました。私も入社したてで、同い年ぐらいの力士の頑張りに、胸が熱くなりました。おかみさんもすごく素敵な方で、相撲部屋っていいなぁって思ったのがきっかけです。ニッポン放送には6年半いたのですが、辞めるときには「私、お相撲の仕事したいので辞めます」と言ったんです。そのころは相撲ブームが下火だったこともあって、周囲からは無謀だって言われたりもしたんですが、結果的に『どすこいFM』を担当させていただいたりとご縁がありました。
『どすこいFM』ではアナウンサー兼ディレクター!
――『どすこいFM』で大変だったことは?
スタッフは私と音響さんしかいないので、私はディレクターを兼ねていました。解説に来ていただく親方も、私がお声がけをしてローテーションを組んでいました。放送席も最終的には2階の最後列に落ち着きましたが、それまでは放浪していたんです(笑)。空いてる席で放送していて、お客さんがいらして移動する、なんてこともありました。でも、親方がみなさん協力してくださったのでとても楽しく進行できました。感謝ですね。
――この本には、親方衆と間近で接してきた下角さんならではの、大相撲の裏側がのぞけるエピソードが満載ですね!
放送時や取材でのこぼれ話はたくさんあったのですが、マニアックな話も多く、正直どこまで書いていいのかな、という迷いはありました。出版社の方からは、お相撲をあまり知らない人も読んでいておもしろい本にしたい、とも言われていて。ですので、詳しいかたも初心者のかたも、どなたが読んでも楽しめる1冊になっていると思います。
数秒で勝負がつく「儚さ」も相撲の魅力
――楽しいお話がいっぱいで、どれもイキイキと描かれているので、どんどんページをめくってしまいました。実名でのエピソードも多く、読み終えたあと「あの話してたの誰だっけ」と、顔を思い出しながら再読するのも楽しかったです。年もあらたまり、初場所も始まりますが、下角さんが今後期待をよせる力士は誰ですか?
相撲界は今戦国時代!誰が出てきてもおかしくないと思います。『三年先の稽古』って言葉が相撲界にはありますよね。私も大好きな言葉なんですが、やっぱり稽古は裏切らないから、きちんと稽古をしている人が不思議と上がってくるんです。それから引く相撲をとらない力士が魅力的だなと思います。よく武蔵川親方(元・横綱 武蔵丸)が放送で話されてました。「若くて体が大きいのに引く相撲をとっていると、いつか大けがするぞ」って。引く相撲でのケガと押す相撲でのケガでは、引く相撲でのケガのほうがダメージがすごいんですよね。だから、目先の勝利より、我慢して積極的な相撲を取り続けている力士を応援しちゃいます。また、メンタル面も大切ですね。相撲って戦っている時間がものすごく短い。早いと2~3秒で勝負がつきますし、長くても1~2分。そのために朝から準備をして……でもすべって転んでも負け。15日間メンタルを整えるってとても大変です。前の日の負けを引きずらないカラッとした性格の力士がうまくいったりしますよね。他のスポーツと比べて、相撲はすごく儚い…。そこが魅力のひとつでもあると思います。
――なるほど。大相撲はいろいろな楽しみ方ができて本当におもしろいですよね!またぜひ、お話を聞かせてください。ありがとうございました!