呼出の商売道具「柝」のおもひで

呼び上げの極意に続き、今回も呼出さんのお仕事のおもひで。大事な商売道具である「柝」について伺いました。
現役時代に愛用されていた柝は、今でもご自宅に飾られています。

秀男さんのお気に入りとは?

―あそこに飾ってある柝は何代目ですか?(「呼び上げの極意とは!?」でご紹介したご自宅にて写真や色紙が飾られた壁と反対側に吊るされていました!)

3代目かな?

―最後にお使いになってたものですか?
それは、下に置いてあるよ。

―え?どこですか?
その裏にない?

―あ、ありました(テレビの後ろに発見!)。柝は桜の木なんですよね?
桜だね。そのテレビの後ろにあるやつはね、富山の人で相撲甚句が好きな人がいて、三郎さん*の甚句の会にも入ってた人なんだけど、その人が「これ作ってきたんです」って持ってきたの。まぁ、後で使おうかなと思って、とりあえずもらっておいたって感じだったんだけど、これがいざ音を出してみるといい音なんだ。で、これしかねぇなってなって、最後までこれを使ってたね。

秀男
本名・山木秀人(やまき・ひでひと)、元立呼出。1949年生まれ。1969年伊勢ヶ濱部屋に入門、同年三月場所で初土俵。桐山部屋を経て、定年時は朝日山部屋所属。2008年一月場所より呼出のトップである立呼出を務め、2014年十一月場所にて、惜しまれつつ定年退職。見事な呼び上げの美声で相撲ファンから愛され、「土俵の妖精」のニックネームも。

*三郎:富山出身の元呼出で、「三郎節」といわれた相撲甚句の名調子で知られる。相撲協会定年退職後も「呼び出し三郎」の名で活動。

―その方は秀男さんのファンだったんですね。
どうかな。

―でも、秀男さんに使ってもらいたいって持ってこられたんでしょ?
そうそう。

―お知り合いだったんですか?
とくに知り合いじゃないよ。

―それまでは、どこかで作られていたんですか?
柝はね、もともとは両国に大工がいてね、そこで一番最初のを作ったんだ。そこに何十本もあって、ひとつひとつ全部音を確かめてさ。選んだんだよ。それでも、あんまりいい音じゃなかったけどね。それがこの柝かなぁ(つるしてあるやつを指さして)。もう忘れちゃったけど。

―使っていくうちに、すり減ったりして音が変わるんでしょうか?
すり減るっていうかはわからないけど、古いほどいい音が出るっていうよね。拓郎(現・立呼出)も先輩が使ってた柝を、その人が亡くなったときに奥さんから譲り受けて使ってるんじゃないかな?

―土俵入りのとき、東側の力士が退場して、西側の力士が入ってくるとき、東西の柝が少し重なるときがあるでしょ。あれ、ぜんぜん音が違うんですが、音が混ざらないように打ち分けしてるんですか?
そんな器用なことできないよ。柝自体が違うから音が違うんだよ。1本の同じ木から作ったものだって、切り方によって音が違うだろうし、あと合わせ方ね。どことどこを合わせて打つかでも変わる。

―呼出さんによって、高い音が好きな人とか、音の好みってあるんですか?
それはあるね。

―秀男さん好みの音は?
最後に使ってたやつだね。

―高い音? 落ち着いた感じ?
落ち着いた感じでしょうね。落ち着いてても、それなりの響きがあるっていうかね。

―会場によって音は変わりますか?
うん。東京の国技館が一番いいね。大阪はそんなに悪くないけど、名古屋はちょっとおかしい。音がどっか割れるんだよね。

―でも、マイクも通さずにあれだけ響くもんなんですね。力を入れるんですか?
入れない。入れたらかえっておかしくなる。

―若いころは練習とかされたんですか?
巡業でね、叩きながら歩き回って、それがいい稽古になったね。

―始めて土俵入りで叩いたときは緊張しました。
そりゃしますよ~。

―ちなみに、柝のサイズは決まってるんですか?
ある程度はきまってるよ。倍もあったら叩けないでしょ(笑)。

―も、もちろん……。これ、ちょっとツヤがありますが、何か塗ってあるんでしょうか?
えーっとなんだっけな、、、、、あ、椿油ね。

柝バッグは先輩呼出のお手製!

―このお気に入りの柝は素敵な袋に入ってますね。
それはね、先輩が作ってくれたの。

―裏地もすごい凝ってますねぇ。
三平さんって人がいてね。高砂部屋の呼出で。まだ生きてるよ。死んだって聞かないから。

―亡くなられたら連絡網が回ってくるんですか?
来ると思うけどね。
その、三平さんは器用なんだよ。

 

―三平さんってなんか聞いたことありますね…。
綱だよ。ミニチュアの横綱の綱作ってた人。

―そうですそうです! お父さんとお兄さんも呼出さんなんですよね。
そうそう。戦後間もないころね。

―へぇ~。袴の修繕なんかもやられてたんですね。
あ、そう。この袋さ、あと一まわり大きいといいんだけどね。

―ジャストサイズですね。

(柝の写真を撮っていると、秀男さんの傍らに「アウトレイジ最終章」のパンフレットを発見)

―あ、秀男さん、「アウトレイジ」観に行かれたんですか?
うん。

―映画お好きだって、ご著書にも書かれてましたね。近所で観られるんですか?
近くにアレがあるんだよ。

―シネコンですか?
そうそれ。

―洋画派? 邦画派?
両方観るよ。

―一番最近観られたのは?
アウトレイジ。

―パンフレット買う派なんですね?
買う派ですね~。

―買って、観る前に読む派ですか? 観た後に読む派ですか?
後派ですね~。

最後は余談になってしまいましたが、また秀男さんオススメ映画の話も聞いてみたいと思います!

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