「おすもうさん」では、“おすもうびと”のコーナーでのインタビューや、主宰イベントの司会などでご登場いただいている、日刊スポーツ新聞社の佐々木一郎さん。今年1月に初の著書『稽古場物語』が発売になりました。それを記念して開催されたトークショーの模様を、3回に渡ってお届けします。第2弾の今回は、『稽古場物語』の取材時に佐々木さんが資料用に撮影した写真から、約100枚をスライドショー形式でご覧いただきつつ、いろんな相撲部屋のお話をご披露いただきました。
↑令和2年2月8日、両国・回向院の念仏堂にて。『知れば知るほど 行司・呼出し・床山』(おすもうさんが企画・編集・執筆)の出版記念トークショーを開催したところと同じ場所です!(式守錦太夫さん、利樹之丞さん、床作さんをお迎えして佐々木一郎さんの司会で開催→レポートを読む)
*当日ご覧いただいた画像は資料用のため、トークショーでは関係各所のご許可をいただきご披露いただきましたが、当サイトではお話だけでお楽しみください!
ちゃんこ場物語
佐々木:私が部屋のイラストを描くにあたって資料用にたくさん写真を撮らせていただきました。1部屋あたり200枚くらい撮ったんですが、今回はそれを見ながらお話したいと思います。まずは、ちゃんこ場。相撲部屋の特徴としては、まわし姿のままでお料理を作るという。これは伝統的にこんな感じなんでしょうか?
西岩:稽古終わりで、すぐに作るってことですからね。
佐々木:この格好でフライパン振ったりするわけですよね。
西岩:そうですね。
佐々木:火傷したりする人はいないんでしょうか。
西岩:いますね。
佐々木:それはそれで・・・
西岩:しょうがないです。
佐々木:さて、これは親方がおられた田子ノ浦部屋です。田子ノ浦部屋は、つくりが機能的で、調理場とちゃんこ場の間にカウンターがあって、ここから料理を出すんです、これは新しい相撲部屋ならではの工夫だなと思いました。続きまして、佐渡ケ嶽部屋。人数が多いので、調理場も広いし、上がり座敷も広いです。ちゃんこ番のローテーション表がありまして、、、佐渡ケ嶽部屋の場合四股名にみんな「琴」がつくので、こういう部屋の内部資料になると「琴」が省かれてるんですね〜。 (ローテーション表を見ながら)
西岩:班に分かれてるんですね。最初に書いてあるのが班長ってことですか?
佐々木:はい。7人ずつ5班に分かれてるんですよ。
西岩:これだけの人数がいたら、これぐらいで作らないとね。材料を切るだけでも大変ですよね。
佐々木:西岩部屋は何人で回してるんですか?
西岩:うちは5人しかいませんから、3人ずつでやってますよ。
佐々木:すぐに順番が回ってくるけど、その分覚えが早いってメリットはありますよね。
西岩:それはあります。私は(旧)鳴戸部屋で育ちましたが、5年以内の新弟子っていうのは洗い物しかさせてもらえないんです。10年くらいたって上手にならないと作らせてもらえませんでした。西岩部屋は最初は2人の弟子しかいませんでしたので、やるしかないんです。やっぱり覚えますよ。他の部屋なら洗い物しかさせてもらえないところを、ちゃんこも作って味付けもさせてもらえるくらいに成長しますよね。
佐々木:なるほど、人数が多いのも少ないのも、それぞれにメリットデメリットがあるわけですね。続きまして、式秀部屋。ここはちゃんこ場にテレビのモニターがあるんです。稽古を撮影しておいて、それをちゃんこを食べながら見て稽古を振り返るということをやっていました。
西岩:へぇ〜。最先端ですね。いいですね。
佐々木:一昔前だと、自分の取組とか、稽古で申し合いをやっている姿を客観的に見るなんて、難しかったですから、これはなかなかよいなと。
西岩:よいですね。
佐々木:次は入間川部屋でちゃんこを食べているところ。この部屋の一番大兄弟子の磋牙司さんが一番奥に座ってますけど、「ちゃんこ食べて行ってください」って言っていただいて、、、ただ「うちのちゃんこまずいっすよ」って言われて。これはびっくりしました。
西岩:食べました?
佐々木:はい。
西岩:まずかったんですか?
佐々木:いや、おいしかったですよ。謙遜したのかな? でも「本当にまずいっすけど、食べて行ってください」って言われて・・・。なんだろう、鍋の味付けも決まってくるし飽きちゃうんですかね?
西岩:謙遜じゃないですか? 私も言いますよ。お客さんに「まずいちゃんこでも食べていってください」って。
佐々木:いや! でも磋牙司さん、本気で言ってるんですよ。まぁ、そんなわけで、この写真をご紹介しました。
鉄砲柱物語
佐々木:次は鉄砲柱を見ていただきたいと思います。宮城野部屋。ちょっと傾いております。親方もよくおっしゃってますよね。鉄砲柱ぶっ倒すくらい稽古してほしいって。
西岩:そうですね。でも傾いてるのは簡単に直るんですよ。ちょっと土掘ってググッとやるとね(笑)。
佐々木:続きまして、親方も稽古された田子ノ浦部屋。特徴としては、一番太いんですよね?
西岩:太いです。
佐々木:写真ではわかりづらいんですが、太さもいろいろで、規定はないんですか?
西岩:ないですが、個人的には細い方がやりやすかったですね。ですので、西岩部屋は細めにしました。
佐々木:大嶽部屋もちょっと細めでした。ここは、鉄砲柱の後ろに鏡があって、鉄砲うつ姿が確認できるんです。そして、その上に大鵬親方の若い頃の写真と、親方が書いた「夢」という字が掲げてあるのが、大嶽部屋ならではの風景でしたね。そして、佐渡ケ嶽部屋は4本あって、土俵まわりも広いです。親方は連合稽古でよく行かれていました?
西岩:よく行きましたね。同じ松戸にありましたから。この鉄砲柱もよく使いました。
佐々木:そして、高田川部屋。ここは角界最多の5本あります。
西岩:これは珍しいですね。普通は1本ですから。
佐々木:高田川親方がおっしゃるには、自分が二子山部屋で育ったときは、すごい人数で関取もいたし、鉄砲柱1本をケンカしながら取り合うようにして鉄砲をうったと。だから、ケンカしなくても好きなだけうてるようにという、親方らしい考えですね。
風呂場物語
佐々木:次は風呂場行ってみたいと思います。まずは伊勢ヶ濱部屋。錦糸町にあって立地が良い分、手狭になってしまって、風呂場も2人入るといっぱいというちょっと狭めです。旧山響部屋は北の湖部屋だったところなので、北の湖親方が作ったとあって風呂はでかいです。そして九重部屋! ホテルみたいに豪華なんです。
西岩:相撲部屋の風呂場とは思えないですね。
佐々木:千代丸関と千代鳳関が入ってもまだ足を伸ばせるという。御影石で、洗い場も広い。全部の部屋を見せていただきましたが、ここがダントツで広かったですね〜。続きまして、こちら、見覚えは・・・?
西岩:田子ノ浦部屋!
佐々木:そうです。どうですか?
西岩:私がいた頃と変わりましたね。
佐々木:さて、どこが変わったでしょうか?
西岩:湯船?
佐々木:そうなんです。
西岩:ここはね、地面に対して穴を掘って湯船を作っていたんで、体洗ってるとシャワーのお湯が全部湯船にはいってしまうんです。あと、湯船が全部土の中なのですぐにお湯が冷めてしまうって田子ノ浦親方がおっしゃってましたね。
佐々木:それと、深さがあっ多た分、水道代が半端なかったらしく。結構、風呂の水道代の話はいくつかの部屋で聞きましたね。
西岩:かかりますよ。金額は言いませんが、びっくりするくらいかかります。
佐々木:そうなんですね。続きまして、新鳴戸部屋。ここは浴槽が2つあるんです。鳴戸親方の考えで、一つは冷水、一つはお湯で、交代浴をして疲労回復に努めるという。
西岩:これはいいですね。
佐々木:科学的な実証に基づいたものだそうです。水道代かかりますけど。
西岩:倍ですね。
佐々木:そうまでしてやりたかったという。
西岩:力士のためを思ってですね。
佐々木:はい。これは新しい考えだなと思って紹介したかったんです。そして、大嶽部屋。ここはパイプが見えますが、循環式にして24時間入れるようになってるんです。
西岩:へぇ〜すごいですね。
佐々木:循環式で水もきれいにしてるので、多少水道代が節約できてるかもしれません。
西岩:でも、ずっとボイラーは動いてるんですよね?
佐々木:あ、ガス代はかかるかもしれませんね。
(一同笑)
佐々木:何の話かわからなくなってきましたが、次は友綱部屋です。先代の友綱親方に聞いたんですが、風呂はでかくしたかったということで、ここは深さがあるんです。おすもうさんは体が大きいから座ると肩まで浸からない人がけっこういるということで。なので、小兵の力士だと、頭まで被ってしまうっておっしゃってましたね。
稽古場&上がり座敷物語
佐々木:新しい部屋はいろんな建物をリフォームしていることがあります。朝日山部屋はある会社の社員寮をリフォームしているんですが、上がり座敷は作らずにパイプ椅子とテーブルを並べているんです。昔では考えられないですが。
西岩:相撲部屋って和の世界ですから、座布団に座って稽古を見るっていうのが普通ですもんね。
佐々木:これは新しい発想ですね。二子山部屋も新しい部屋ですが、ここもパイプ椅子です。
西岩:珍しいですね。
佐々木:ここはパイプ椅子の数がすごいんですよ。これ大変だったんですよ。一個一個ちゃんと書いてあるんで本を見ていただければ・・・(詳しくはおすもう図書室のインタビューを)。そして、陸奥部屋。国技館に一番近い部屋なんですが、もと予備校だった建物をリフォームしていて、稽古場はもと教室か事務室だったところです。そして、こちらは上がり座敷でよくある光景で、行司さんなんかがどの力士が何番とったという番数を正の字でつけていますね。これは西岩部屋ではないですね。
西岩:ないです。私はそれは意味がないと思ってます。番数をやったからといって身になるわけではないので。
佐々木:そうですね。でも、公平さを保つというか、あまり極端に差がでてしまうのはよくないというのもあるんでしょうか。
西岩:うーん、、、でも私は、反対派なんです。場所前になると、誰々が何番とって何勝何敗だったってよく書かれますが、稽古での勝ち負けは全く関係ないです。30番とって0勝30敗でも自分にとって得るものがあればプラスです。逆に30勝したって身になることがなければ意味がないんです。本場所は勝たないといけない、数字を残さないといけないので、何勝というのを大きく取り上げていただいてよいのですが、稽古場は関係ないですね。
佐々木:それは、私たちもわかってるんです。あくまで目安。野球なんかでも、キャンプで誰が何スイングして柵越え何本も関係ないってわかってるんですが、客観的なデータとしては大事かなと思っています。
西岩:私は弟子に、稽古場は勝つところじゃないって言ってます。勝つ意味はないと。
佐々木:はい。以後、気をつけたいと思います!
最後は、親方の信念に、来場のみなさん感服しつつ、和やかなムードに包まれました!相撲部屋には稽古場だけでなく、風呂場やちゃんこ場にも物語があったスライドショー。サイトでは画像をご紹介できないのが残念ですが、ぜひ『稽古場物語』を片手に想像してみてください! 次回は、稽古見学について、西岩親方が育った旧鳴戸部屋のお話をご紹介します!
佐々木一郎(ささき・いちろう)
昭和47年8月3日生まれ、 しし座、A型、千葉県千葉市出身。
日刊スポーツ新聞社に入社後、サッカー、オリンピック、大相撲担当記者を経て、現在は大相撲などのデスク担当に。西岩部屋新聞の編集長でもある(西岩部屋新聞についてのインタビューはコチラ)。
ツイッター@Ichiro_SUMOでも相撲の情報を発信中。
西岩 忍(にしいわ・しのぶ)
昭和51年7月10日生まれ、かに座、O型、青森県弘前市出身。
弘前市立第二中学校卒業後の平成4年、元・隆の里の鳴戸部屋に入門。平成9年十一月場所の十両昇進を機に「若の里」に改名。平成10年五月場所で新入幕を果たす。平成13年一月場所で関脇に昇進。平成27年九月場所で引退、年寄「西岩」を襲名し、田子ノ浦部屋の部屋付き親方として後進の指導にあたり、平成30年2月1日付けで独立、「西岩部屋」を開く。
西岩部屋ホームページ
photo:椛本結城(ベースボール・マガジン社 相撲カメラマン歴25年!椛本カメラマンのインタビュー記事はこちら)