おすもうさんの甘い香りのもと「鬢つけ油」を作る職人親子・島田商店~その①

おすもうさんの大銀杏や髷を結うのに欠かせない「鬢つけ油」(正しくは「すき油」)。おすもうさんが漂わせる甘~い香りのもとです。現在相撲部屋に鬢つけ油を納める唯一の作り手であり、昔ながらの製法を伝える島田商店の秋廣さん陽次さん親子にお話を伺いました。

島田商店があるのは、「おすもうブラリ」でご紹介している江戸川区。江戸風鈴や江戸箒など、伝統工芸を守る職人さんが多く住むこの町で、親子2代にわたって昔ながらの製法による鬢つけ油がつくられています。

初代の島田秋廣さん。御年80歳には見えない若々しさ。

この地に工房を構えたのは昭和40年ころ。初代の秋廣さんはそれまで浅草の鬢つけ油をつくる会社に勤めていました。

「私はもともと埼玉県羽生の生まれで、中学卒業と同時に浅草の川原商店に入ったんです。その店は戦前から鬢つけ油をつくっていた店で、当時、そんな店は浅草に3~4軒はあったと思いますよ」(秋廣さん)

戦後、洋装が主流となると、日本髪を結うための整髪料である鬢つけ油などの需要も激減。川原商店は後継者がいなかったこともあり、店をたたむことになったそうです。

「でも、私はこの仕事しかやったことがなかったですから、他の仕事は考えられなくて、道具類のいっさいを引き継いでね、江戸川で島田商店として始めたんです。それが昭和40年くらいだったかな」(秋廣さん)

今では、おすもうさんが使う鬢つけ油をつくっているのはここだけ。

左から「鬢つけ油」「中ねり」「すき油」。左へいくほど硬い。

ところで、一般に「鬢つけ油」といいますが、おすもうさんが使っているのは正確にいうと「すき油」。日本髪用の整髪油はその硬さから3種類に分けられます。

「一番硬いのが『鬢つけ油』です。大銀杏や花嫁が結う日本髪で、横の張り出し部分を〝鬢(びん)〟といいますが、しっかりと固めないと形がくずれやすい部分なんです。だから、ここに使うための硬い油を鬢つけ油といいます。対して一番柔らかいのがすき油。おすもうさんが使っているのはこれ。その中間が『中ねり』です」(陽次さん)

おすもうさんがいると匂いでわかるほど、甘くいい香りが漂いますが、実はこの鬢つけ油が匂いのもと。昔からこんな匂いだったのでしょうか?

「昔は違う匂いだったんですよ。でも川原商店にいたころに相撲部屋からもうちょっといい香りにできない?と言われて、いろいろやりとりしながら今の香りになりました」(秋廣さん)

使う香料は3種類ですが、1種類のなかに数種の香料がすでにブレンドされているので、合計50種類くらいの香料が入っていることに。そのブレンドの内訳は企業秘密。

2代目の島田陽次さん。子どものころから工房で両親の手伝いをしていたのだそう。

工房にはこの鬢つけ油の甘い香りがいっぱいで、なんだか相撲部屋に来たような気分になってしまいます。けれども、不思議なことに鬢つけ油そのものを嗅がせてもらうと、ほとんど匂いがしません。

「やっぱり髪の毛につけていると動くから、そのときに香りが出るんじゃないでしょうか。たまに一般のお客さんから、『おすもうさんと同じのがよかったのに、匂いが違う!』って電話かかってくるんですけど、同じなんですよ(笑)」(陽次さん)

平成7年の日本相撲協会財団設立70周年には、当時の理事長・出羽海親方から感謝状が贈られた。

 島田商店では、製造から納品まで、すべて家族で行っています。お父さん、お母さん、そして息子さんと、最近は子育てがひと段落した息子さんのお嫁さんも手伝うようになったとか。息子さんがこの道に入って23年、そろそろ代替わりを考えているのだそう。近年は相撲ブームで仕事も忙しいのでは?と聞くと……

「一般の方で欲しいという方も増えていますね。国技館で販売しているのをお土産に購入されたり、最近は〝武士の香り〟という練り香としても一般に販売しています。相撲ファンが増えてくれるのはうれしいけど、やっぱり新弟子が増えてくれないとね(笑)」(陽次さん)

そりゃそうだ!

次回、おすもう人「鬢つけ油職人」編第2弾は、鬢つけ油の作り方を詳しくご紹介します!

「オーミすき油」の〝オーミ〟とは、浅草の川原商店のご主人が滋賀の出身だったため、近江から〝オーミ〟となった。国技館内の書籍売店のほか、両国で相撲雑貨を扱う「高はし」でも買うことができます。

島田商店(島田秋廣さん、島田陽次さん)

tel:03-3670-6211

高はし

tel:03-3631-2420  http://edo-sumo.d.dooo.jp/

つづく

Photo/Mariko Nakagawa

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