伝統を受け継ぐ若き締め込み職人~おび弘・安川久登さん~

約70年の伝統を中川さんから受け継ぐ若き締め込み職人・安川久登さん。締め込み職人になったきっかけ、この仕事の魅力について伺いました。

師匠・中川正信さんと(中川さんのインタビューはこちら)

「ここ独特の何か感じる雰囲気があって、
自分ではわからん力が働いた気がします」

-ここで働くようになられてどれくらいですか?
2016年の6月からなので、3年目ですね。

―きっかけはなんだったんでしょうか?
もともと相撲が好きだったんです。おじいちゃんが相撲の後援会に入っていたということや、地元が大阪の茨木なんですが昔、二所ノ関部屋の宿舎があってとても身近な存在でした。そこへテレビでここのことを知って。おもしろそうやなと思ってすぐに電話をして見学させていただいたんです。今日の取材のように中川さんと奥さんに丁寧に説明していただいてものすごい感動しまして、今思ったらなんでその時にそんなこと言えたんやろって思うんですが、自分も何かできないでしょうかと言いまして。その後やりとりが続いて、縁をつないで働かせてもらうことになりました。

―当時は会社員をされていたんですか?
恥ずかしながら、サラリーマンで職を転々としていて、正直これからどういう仕事をしていったらいいかな、と考えてる時期でした。もうこれ以上職を転々とするわけにもいかんし、そんなときにテレビがすーっと入ってきてこういうことになりました。

―すんなり言えたのはやはり縁があったんじゃないですか?
やっぱり相撲が好きという気持ちが大きかったのと、中川さんご夫婦のやわらかい雰囲気。あと、この山門工場の独特の何か感じる雰囲気があって、自分ではわからん力が働いた気がします。

―ご家族に相談とかされたんですか?
ある程度自分の意思が固まったところで言いました。自分のやりたいことで決めたんやったらやってみたらいいって言ってもらえたんで、よかったです。

―工場の近くに引っ越しを?
社宅を用意してもらって、そこから歩きか自転車で通勤しています。

―私は実は京都出身なんですけど、滋賀のこのへんってものすごい寒いですよね? 雪もふるんじゃないですか?
そうですね。大阪に比べたら雪も積もるし、冬はきついです。仕事よりも生活面で続くかなって心配になることもありました。でもやっぱり慣れていかんとね。

―それまで職人の仕事に興味があったんですか?
いや……なかったんですが、父親が技術屋タイプで。自分では不器用な方やと思ってましたが、やってみたらすごくおもしろくて、形は違えど父のような一面があったんかなと思います。

―仕事がおもしろいと思われるのはどんなところ?
なんでもですけど、好きな相撲に携わらせていただけてるだけで幸せを感じますし、細かい地道な作業ですが、織っていくときに一段一段積み上がって物ができ上がっていくのを見るとうれしいです。織り上がったものを見て、こんなものができるのかと感動しますね。でも、やればやるほど難しくなります。難しいから、飽きないですし、乗り越えられたときにちょっと力がついたんかなって実感があるのが、サラリーマン時代の営業とか事務にはなかったおもしろみです。

後継者不足で廃業を余儀なくされる伝統産業が多い中、貴重な若手に期待です!これからも相撲を盛り上げる素敵な締め込みを作り続けてください!

 

株式会社 おび弘------------------------------------------------------------------------------

相撲の魅力のひとつに伝統文化の一面が挙げられますが、力士の普段着は今も和装で、最近では本場所にも和装デーが設けられ、相撲をきっかけに和装に触れる機会が多くあります。今回お邪魔したおび弘は、本来は手織りにこだわり独創的なデザインの帯を製作する京都西陣の帯の織元。締め込みにも生かされるおび弘の織の技術もご紹介したいと思います!

締め込みのほか、おび弘のほとんどの製品が織られている滋賀県長浜市にある山門工場は、琵琶湖の西北、織物に最も適した湿度を保つ山門湿原の森に昭和40年に建てられました。15機の手機と、締め込み用の手機1機があり、手機がこれほど多くある場所は他にはみられないといいます。

手織りの帯のよさは、色数に制限のある織機と違い無制限であるため、細かく繊細が図柄の表現が可能なこと。また、織手が微妙な力加減で織っていくため、平べったくなりがちな織機に比べ、立体感があり独特の風合いが生まれます。こうした熟練の手織り技術は帯はもちろん、締め込みにも生かされ、見た目の美しさ、締めごこちの良さを作り出しているのです。

帯は図柄が入るため、緯糸の杼も色の数だけある。

色彩豊かで立体的な風合いのあるおび弘の手織りの帯。まさに芸術品。

山門工場は一般の見学も可能
HP:https://www.obihirokyoto.com/ 問合せ075-491-4311
 
Photo:Mai NARITA(帯以外)

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