第38代木村庄之助を襲名した、第41代式守伊之助さん。
庄之助として迎えた令和6年初場所後に、お話を伺いました。
取材は、庄之助さんがリラックスしてお話しできるところでと、「たとえば、行きつけの喫茶店とかいかがですか?」とおたずねしたところ、江戸川区の「松木珈琲」というお店でお会いすることに。
松木珈琲のテラス席でパチリ。コロナ禍は、感染対策のためテラス席がお決まりだったそう。冬の寒い日も、なんと雨の日も傘をさしてコーヒーを飲んでおられたとか!
相撲大好きだった中学時代は卓球部で応援団!
―このたびは38代木村庄之助襲名おめでとうございます。さっそくですが、まずは入門前のお話しからお伺いしたいと思います。子どものころからお相撲好きだったとか。
前の山が大好きでした。相撲ファンなんて、学校で私くらいしかいなかったな。
―そうでした。前の山さんが大好きで、それで先代の高田川親方に手紙を書かれたというのは有名ですね。学生時代は相撲をされていたんですか?
いやいや、遊び程度。ベルトをまわしがわりにしたベルト相撲ね。
―クラブ活動は何部?
卓球部。
―意外です!
部長だったよ。選手宣誓はやるんだけど、卓球は弱い。でも、なぜか相手チームの一番強い選手には勝っちゃう。
―運が強いんじゃないですか?
ただ、せこいんですよ。ネットの前にポンと落としたりね(笑)。
―それも作戦です!頭脳卓球ですね。
あと、応援団。応援団長でもありました。
―試合の応援とか行かれてたんですか?
いや、生徒会長の選挙とのときとかね、8クラスあって各クラスで立候補が出て、自分のクラスの候補者の応援にまわっていたの。大きい声出してね。
―それ、今土俵で活かされてるんじゃないですか。
そういうことも、入門のときの手紙に書きました。自分のできることとか、考え方とか、原稿用紙4枚にわたって説明しましたよ。
―実際入門されて、憧れの師匠(元前の山の先代高田川)に会われて、どうでした?
とにかく恐ろしい。相撲界で一番恐ろしい人。毎日怒られて、毎時間怒られて。その分しっかりと教わりました。指導力がすごい人でしたね。
―教わったことで一番大事にされていることは?
師匠に「知ってます」って言ってしまったことがあるんです。まず、それを怒られたんですが、「人の話を聞く耳をもたないといかん」と。
恐ろしかったけど、厳しい言葉の裏にはなにかしら意味が入ってる。
―愛ある言葉だったんですね。
愛なんて感じませんでしたけど、あとになってその意味がよくわかりましたね。
―行司の師匠はどなたになるんですか?
先代の朝之助さん(33代木村庄之助)です。型から何から全部教わりました。今でも、朝之助さんから教わったことが一番正しいと思っています。行司は人によって言うことがいろいろですが、朝之助さんが一番です。
四股名をつけた力士は出世する!名付けの名人
―行司名は本名の英樹(初土俵は「秀樹」)ののち、「和一郎」と改名されますが、この名前の由来は?
私はね、あんまり本を読まないんですけど、豊臣秀吉の本を読んだんですよ。
信長に気に入られるように、重鎮2人の名前をとって「羽柴秀吉」と名乗ったっていうのを読んで、私も師匠にちょっとでも気に入られようと思ってね。師匠の名前の「和一(かずいち)」から1文字とって「和一郎(わいちろう)」にしたいですって言ったんです。
―師匠は喜ばれました?
「ばかやろう!“かずいちろう”にしろ!」って言われました(笑)。
―(笑)でも、許可はおりたんですね。
「勝手にしろ」ってね。
さらに、自分の娘は「和子(わこ)」にしたんです。そしたら、「ばかやろう!“かずこ”にしろ!」ってね。
―笑!
で、息子は「凛太郎(りんたろう)」。師匠の「前の山太郎」の「太郎」をいただいて。
前の山に始まって、前の山に終わるって感じ。
―そういえば、ワンちゃん飼ってらっしゃるそうですが、ワンちゃんの名前も庄之助親方が?
うちの犬はね、娘はチロルって呼んでるけど、息子は「バリチェロ」って呼んでる。
―親方はどちらで?
私は「犬」。
―名付けといえば、親方は力士の名付けもされていますね。
私が四股名をつけた力士はみんな強くなりましたよ。剣晃(けんこう)、鬼雷砲(きらいほう)、前進山。
―とりわけ、鬼雷砲ってすごいですね。どういうふうに思い付かれたんですか? たしか、前名は浜千鳥ってなんとも可愛らしい四股名だったのに、イメージガラッと変わりましたね。
これはね、先代の師匠が「浜千鳥なんかだめだ!鬼のように強くて、雷のようになんとかで、大砲みたいに誰にも負けないような、なんかそんな四股名はないのか!」って言うから、「師匠!鬼雷砲じゃないですかっ!」って、その場でぱっと出てきた。
―なんだか、そのやりとりが目に浮かびました。行司名でいうと、部屋の辰之助さんの命名は?
「何年生まれだ?」って聞いたら、辰年だったので、辰之助になりました。字画もよかったんで。今の高田川親方はけっこう字画も気にされるんです。高田川親方も名付けの天才です。竜電なんて、かっこいいじゃないですか。
―しかも地元密着ですよね。
白鷹山は白鷹町、輝は新幹線、湘南乃海も地元ですし。
今ね、部屋に関取が4人もいるんですよ。とっても幸せ。
大阪場所の顔ぶれ言上は特別な装束で
―装束のお話しも少しお伺いしたいと思います。何か着こなしのこだわりなどは?
構わないほうです。
―袴は短め派?長め派?
短くしたいほうです。座ってて、パッと立つときに踏むからね。
―何着くらいお持ちなんでしょうか?
数はぱっと出ませんが、先代の伊之助親方から託されたものとかもあります。それは、土俵(取組)では着たことはないんですが、大阪場所の顔ぶれ言上では着ます。
―大阪城の柄の装束ですね。
大阪は15日間、あの装束で顔ぶれ言上をやります。
―顔ぶれ言上と取組で装束を着替えられるんですね。そういうところも見るようにすると、土俵の楽しみが増えますね。あと、立行司といえば短刀を携えますが、これはどんなものをお使いなんでしょう?
今本場所で使っているのは、高田川部屋の短刀です。これは、光之助、辰之助と部屋の行司に受け継がれることになります。
―今の親方が作られたものですか?
そうです。2本持っていて、もうひとつは木村玉光さんの形見です。
―そうやって受け継がれていくというのを聞くと、大相撲が伝統文化であると実感します。
行司人生最後の1年、最後まで土俵をまっとう
―行司になられて50年!地方場所や巡業で各地いろんなところに行かれていますが、お気に入りのところがあったら教えてください。
九州場所で必ず行くラーメン屋があるんですよ。長浜屋っていう。
―ラーメンお好きなんですか?
ラーメンというか、長浜屋が好き。最初は先代師匠に連れて行ってもらったんですが、お腹がいっぱいのときに連れて行かれて、ぜんぜん食べられなかった。でも、なんか、また食べたいと思わせる何かがあったんですよ。
―部屋の力士と一緒に行かれるんですか?
はい。今は宿舎が遠くなってしまったから、千秋楽の翌日が恒例。「はい、長浜ラーメン行きたいひと」って車にのっけてみんなで行きます。
―いつも参加するメンバーは?
湘南乃海。
―なんだかほのぼのしますね。残念ながら、九州は昨年が最後になってしまいました・・・。親方にとって最後の場所は今年の九月場所ですね。
そう。誕生日が千秋楽。
―なんと!運命ですね。
最後まで、土俵をまっとうできるよう、それだけです。
―今日は貴重なお時間ありがとうございました。九月場所まで、あと少しですが、親方の土俵姿を目に焼き付けたいと思います。
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------取材協力-------
松木珈琲
東京都江戸川区大杉3丁目24-1
03-3651-5018
11:00〜18:00(月・火曜定休日)
庄之助さんが愛犬とウォーキング中に偶然見つけたというお店。一度来店した後、場所がわからなくなったものの、無事再度発見し、常連に。忙しい行司の仕事ですが、ここでコーヒーを飲みながら頭を整理したり、ほっと一息ついたりされる、大事な場所だそう。
マスターの松木さんご夫妻と、お母様。ご主人の退職を機にお店をオープン。ご近所さんの憩いの場でもあり、アットホームな雰囲気が居心地抜群の喫茶店です。
店内には、庄之助さんの書や、番付、巡業グッズなどが!
(左から)ホットケーキ/430円、ホットサンド(たまご・チーズ)/450円、オムライス/500円という超良心価格。庄之助さんのお決まりはホットサンド。「ここで初めてホットサンドというものを知りました」とのこと。
38代木村庄之助(きむら・しょうのすけ)
島根県出雲市出身、本名・今岡英樹。高田川部屋。
昭和50年五月場所、木村秀樹の名で初土俵、同年十一月場所で下の名を英樹に改名。
昭和57年一月場所、十両格に昇進。平成3年十一月場所、木村和一郎に改名。
平成17年九月場所、幕内格に昇進。平成24年一月場所、式守勘太夫に改名。ご本人いわく「勘太夫はかっこいい行司名。一生勘太夫でもよかったくらい」。
平成25年五月場所、三役格に昇進。平成31年一月場所、41代式守伊之助を襲名。
令和6年一月場所、38代木村庄之助を襲名。
photo:Kaori MURAO