『稽古場物語』佐々木一郎著

精緻なイラストと佐々木さんならではの視点の原稿で好評を博した月刊「相撲」の人気連載「稽古場物語」が書籍になって登場!連載時からさらに取材を重ね大幅に加筆修正された読みごたえたっぷりの完全保存版。今回は、書籍化にあたってのエピソードや、細かすぎる見どころなど、著者の佐々木一郎さんに伺いました。

令和二年1月17日より両国国技館 書籍売店にて先行発売!

『稽古場物語』
佐々木一郎著
(ベースボール・マガジン社)
2200円+消費税
令和2年1月28日発売

月刊「相撲」にて平成27年1月より4年間連載された「稽古場物語」は、部屋の成り立ちや師匠の思いを、一点透視法で描いた相撲部屋の稽古場イラストとともにまとめたもの。本書には44部屋を収録し、掲載後に転居した新しい鳴戸部屋なども追加収録されています。

連載をそのまま流用すればいいと思ったら大間違いだった

―まずは、書籍化にいたるまでのお話しからお願いします。
もともと連載中に、終わったら本にしましょうかって話は出ていたんです。それで、平成30年の末に連載が終わって、そこからしばらくしまして、具体的に話しをはじめたのが、平成31年の4月頃だったかな。そっからですね。

―制作期間は8~9カ月ほど?
いや、当初は、秋場所で出す予定だったんです。ただ、実際にやってみたら間に合わなかった。中途半端に出すんだったら、思い切って延ばして初場所にってことになりました。

―けっこうじっくり作った感じですね。
当初の自分の見込みとだいぶ違っていまして・・・・・・。連載で載せたものをそのまま流用すれば本になっちゃうのかなと思ってたんですよ。でも、実際はそうはいかなくて、書き替えるべきところが結構あったり、イラストの見せ方も雑誌連載時とは変わったりで、大幅な修正が必要になって、ほぼ8カ月くらいは作業にかかってしまいました。

―ほぼほぼ、手を入れてない部屋はないくらい?
そうですね。イラストのベースとなるものは手を加えてない部屋も多いんですが、4年間連載をしていたので、最初の半年間はかなりヘタなんです。

―やりながら上達していった感じなんですか?
はい。当時は一生懸命描いてたんですよ(笑)。でも、今見ると、かなりヘタくそで、連載最初の半年間分は確実に全部描き替えましたね。

―バックナンバーお持ちの方がいたら、比べるとその差は歴然と?
もう、恥ずかしいくらい(笑)。

―何がヘタだったんですかね?
第1回は伊勢ヶ濱部屋だったんですが、最初は土俵とあがり座敷しか描かなかったんです。自分でもそれで十分だったし、それ以上描く力もなかったので。でもね、だんだん上達してくると、稽古場があるフロアを全部描きたくなって、さらにいろんなことが描けるようになるとディテールにもこだわって、どんどんいろんなものを描き込みたくなっていって、最終形がこの本です。

―描き替えのためにまた取材に行ったりされたんでしょうか?
はい。稽古場とあがり座敷のデータしかなかったものについては、もう一回部屋にいって、お風呂場とかちゃんこ場とか、バックヤードを取材させてもらったので、それでかなり時間がかかっちゃいましたね。

―再取材した部屋は何部屋くらいあるんですか?
えーっと・・・・・・、イラスト描きなおした部屋がほとんどそうなんですが、浅香山部屋、伊勢ヶ濱部屋、阿武松部屋、大嶽部屋、田子ノ浦部屋、出羽海部屋、尾上部屋、二所ノ関部屋、八角部屋、あと鳴戸部屋は連載が終わってから移転新設されたので、雑誌連載では載らなかったものが書籍では入っています。

―結構ありますね。
これらの部屋はイラストは全部描き替えてます。イラストだけじゃなくて、文章も。文章を書き替えるために再取材した部屋もあるかな。

―それは8カ月かかりますね~。
文章はね、ほとんど全師匠に話を聞き直したんです。どうしても新聞記者なので、雑誌連載のときはそのときの部屋の情報を切り取りがちになってしまって。それでは情報が古かったり、状況が変わってたりするので、書籍にするにあたっては、できるだけいつ読んでもいいような普遍的な内容に書き替えました。

―すごい!
その部屋の師匠がどういう考えで指導をしているか、どういう思いで部屋を作ったのか、とか。そういう思いっていうのは、いつまでたっても変わらないものだと思うんで。あと、作ってる間に井筒親方が亡くなり、東関親方が亡くなり、その都度そのページをどうしようかって話が出たんですが、やっぱりお二方とも生前にいいお話をしてくださったので、そこはちゃんと残そうということになりました。井筒部屋も東関部屋も掲載で、東関部屋は東関親方が師匠という状況でその生前の思いを載せています。

―まさに完全保存版ですね。ところで、本日は取材ノートをお持ちいただいたということで・・・。
はい。普段取材しているノートでやっちゃうとどんどんノートが新しくなってしまうので、この書籍用のノートを一冊作って、常に持ち歩いて、いつでも聞けるようにしていました。聞きたいことをここにメモして忘れないようにしてね。

―ほう。それがこのノートですね。表紙に名前と携帯の番号が書いてあるんですね?
落としたとき用に。結構な情報なんで(笑)。ノートは必ず携帯番号入れてます。うっかり忘れちゃったりするから。

―うわーこまかいー。62って書いてあるのは歩測の歩数ですか?あ、めっちゃ計算してある。
そうそう。イラスト描くときって全部歩測なんですが、こっからここまでが何歩ってことで。全体を描くときに、縦と横の幅が全体で何歩かをカウントして、大枠を作るところからやるわけです。

―細かく歩測したのを足して、縦のトータルを出してるんですね!
そうそう。全部足すと62歩ってことですね。原稿用紙がA4なんですが、それに入るように調整するとなると、こっからここまでが62歩ってことは、それを何センチ換算にするかっていうのを決めるところから始まる。それはね、歩数を3.5で割るんです。62÷3.5で17.7になるから、縦幅は17.7センチと決まるわけです。で、7歩だったら7÷3.5で2センチ。そこは2センチで線を引こうとなるわけです。

―その3.5はどうやって割り出したんですか?
できるだけこのA4ギリギリ大きくとるためには何で割ったらいいか考えたら、3.5とか4とかが一番多かったですね。

―へ~。縮尺みたいなもんですね。あと、イラストの中の字も全部手書きなんですね。間違ってたら全部手で直さないといけない。
これがね~。本当によかったんだか悪かったんだか。

―リスクですよね。
そう。連載を始めた当初から、活字にするか手書きにするかってなったんですが、手書きのほうが味があるから、手書きにしたんです。でも、こうやって書籍になって何部屋も扱うことになると、手書きにしたリスクがまさにリスクになって返ってきたという(笑)。

―ですよね~。あと、表紙のタイトルもそうですが、部屋名の筆文字も手書きですよね?
それは下家さんです。
*月刊「相撲」編集部所属、『大相撲力士名鑑』(ベースボール・マガジン社)の題字も下家さんによるもの)

―行司さんかと思いました!
最初は、活字で入れてて、勘亭流のフォントで入ってたんです。なんとなく印刷物のときに勘亭流が使われがちなんですが、相撲を知っている人ほど勘亭流に違和感があって。相撲字じゃないとちょっとしっくりこない感じがしたんですよ。で、ここはやっぱり相撲字にしたいとお願いして、下家さんに書いてもらいました。

―連載時は佐々木さんが書いておられましたよね?
はい。でも、あんまりうまくないんで。

ーうまいですよ!
でも自信がなかったんで。ちなみにね、下家さんいわく、横書きで相撲字を書くのは相当難しいらしいです。

―そういえば、横書きの相撲字は見ませんね。
まぁ、ここはちょっとこだわったところではあります。

 

稽古見学ガイドをぜひ入れたかった

―ほかにこだわったところはありますか?
巻末に部屋ごとに稽古見学ができるのかできないのかっていう情報を入れました。これは全部屋の師匠に、一般の方が見に行っていいのかどうか聞きました。

―これはまさに欲しい情報ですね!
ただね、これもリスク承知でね。この連載や書籍自体が、稽古場を見るのはとても楽しいし、相撲を見る助けになるし、本場所だけで飽き足りない人は稽古見に行ったらいいんじゃないですか、というのをテーマのひとつにしているわけです。じゃ、どうやって行ったらいいのってどこにも載ってなくて。各部屋のHPにあったりはするんですが、一覧性のあるものはほとんど出ていません。ですので、今回まとめてみました。ただ、あくまで話を聞いたときの状況なので、その都度部屋の指示にしたがってくださいという注釈を入れたうえで、掲載しました。

―これはすごく助かります!あと、部屋に入るときにピンポン押すのか、勝手に入っていいのか迷うんですよね。ピンポン押して稽古を中断させたら・・・・・・なんて思ったり。
基本、一般の方はピンポン押せばいいんですよ。それで怒られることはありません。

―そうなんですね~。
本当はね、個人的な意見を言うと、相撲部屋ってよくわからないところを自分で開拓してたどり着く喜びだとか、自分で切り開いて知らないことを手に入れる奥深さのような、よくわからないところがあるのが相撲部屋だったり、相撲の魅力であったりするので、なんでも情報にして、なんでも明らかにすればいいかっていうと、そうでもないんですけど……。多少の助けになればという感じですね。

―あと、各部屋の地図も載ってますけど、これも手描き?
ざっくりとですけどね。出版社の方に、部屋のイラストが手描きだから、地図も手描きがいいんじゃないって言われて。

―こだわりですね!

イラストで一番苦労したのは……
パイプ椅子!

―一番うまくかけた部屋は?
どの部屋も最終的には納得した仕上がりになりました。難しかったという点でいうと二子山部屋ですね。あがり座敷がなくて、パイプ椅子なんです。パイプ椅子って描くの難しいんですよ!

―朝日山部屋もパイプ椅子ですよね?
あそこはあがり座敷にパイプ椅子で、数脚しかないんですけど、二子山部屋は10脚以上あって、それを描くのがすっごい大変で(笑)。

―ほ~。新しい部屋はパイプ椅子が主流になりつつあるんですか?
傾向ですね。あがり座敷はつくらないとか。
(二子山部屋のイラストを見せてくれる)
あ、これこれ、二子山部屋。あのね、パイプ椅子の何が難しいかっていうと、パイプ椅子って3種類くらいが混在してるんです。

―へ~。
こういう形のやつもあれば、ここがこういうのもあれば、背もたれがこういうのがあったり、座面が四角いのもあれば丸くなってるのもあって。ちょっとよく見てくださいよ。

 

 

―え!全部再現されてるんですか?
ちゃんと描いてますよ! よく見てください! 形違うでしょ!

―本当ですね。
さらに、置いてある場所によって角度が違うわけですよ。こう見えてるのとか、こう見えてるのとか。だから全部形が違うんですよ!コピペでは絶対にできないので、それが大変なんですよ。

―こだわりですね。
わかります!? 見れば違うでしょ! 写真一つ一つ見ながら描いたんですよ~。

―それは大変でしたね。今度から、パイプ椅子を導入する部屋はなるべく種類揃えてくださいってお願いしておくとか。
(笑)!

―巻末にパイプ椅子の描き方つけたらよかったんじゃないですか?
ニーズないでしょ!

―わかりませんよ~。ところで、これはペンで描いてるんですか?
水性ペンなんです。太さは4種類。0.3ミリから0.03ミリまで使い分けてます。

―描き損じたときは?
修正液ですね。ただ、下描きをちゃんとやってるので、ペンを入れるときは一番ラクというか楽しい作業なんです。下描きが一番大変なんですよ。

―それにしても細かいですね。この階段の数も合ってるんですか?
合ってるときもあります(笑)。合ってないときもあります(笑)。

―数を合わせるのも大変ですもんね。でも、一番苦労するのは階段よりもやっぱり……。
パイプ椅子です。

 

自分の本を出せた今が人生のピーク!?

―新聞記者さんとして、記名原稿が世に出ることは日常ですが、一冊の本になるのはまた違いますか?
違いますね。特に内容もわれながら納得いく感じにはできましたし、もう達成感満杯で。なんせツイッターでも書いてますが、書籍を出すことは夢だったので、すごくうれしいです。多分、今、人生のピークだと思いますね(笑)。

―いや、まだまだピークはくると思いますけど……。今後描きたいものは?
案としては相撲に限らず、この特技を生かして何かできればと。先日、とある相撲記者さんと雑談していたときに、ラーメン屋とか描いたらいいんじゃないって話になったんですよ。

―ラーメン屋?
ラーメン屋さんの間取りとか厨房とか。ラーメンってテレビでも間違いない鉄板企画っていわれるじゃないですか!(笑)自分の力を生かして、鉄板企画と結びつけるとしたらそれかなって(笑)。まぁ、それはさておき、何年かしたら、相撲部屋も師匠が交代していたり、新しい部屋もできてるだろうし、何年後か何十年後かに、もう一回やってみてもいいかなって思っています。

―ぜひ、バージョンを重ねてください!
はい! とにかく今回は、本を出すということは全く素人で、どういう手順で本ができていくのかっていうのは初体験だったんで本当に楽しかったです。ここからは売ってどういうことになるのかっていうのを実感できるのが楽しみです。

緊急告知!
『稽古場物語』出版記念トークショー開催決定!
著者・佐々木一郎さんと本書にも収録されている西岩部屋・師匠の西岩親方とのトークショーを開催いたします! 詳細は近日おすもうさんサイトにて発表いたします!

月刊「相撲」連載時のお話をうかがったインタビューを見る(画像をクリック)

佐々木一郎(ささき・いちろう)
日刊スポーツ新聞社に入社後、サッカー、オリンピック、大相撲担当記者を経て、現在は大相撲などのデスク担当に。
ツイッター@Ichiro_SUMOでも情報発信中。

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